バリアフリーを強要する「当たり屋」が交通弱者を増やす

池田 信夫

先週の私のブログのモンスター弱者の記事がいまだに大きな反響を呼んでいるが、事実関係を簡単に整理しておこう。

伊是名夏子氏のブログより

4月1日、社民党の常任幹事である伊是名夏子氏は、家族やヘルパーなど5人で来宮神社へ「家族旅行」に出かけた。しかし来宮神社は参道に長い石段があって車椅子で参拝できる所ではなく、来宮駅も無人駅なのでバリアフリーではない。

来宮へ行くには小田原→熱海→来宮と乗り換えるが、途中の小田原駅で駅員ともめた。伊是名氏のブログ記事にはこう書かれている。

[小田原]駅員C「来宮駅はお使いいただけませんので、熱海駅までで。その後はご自身でお考えになってください。」
私「ではタクシーを調べてください。車いすごと乗れるタクシーはだいたい1か月前の予約なので厳しいと思いますが」
駅員C「そうですか。では一応調べますが、代金はお客様負担で」
私「駅は公共交通機関です。駅員さんを3,4人、集めてくれませんか?」
駅員C「熱海駅は一切そのような手配は行っておりません」
私「バリアフリー法がありますよね。車いす対応をお願いします」
駅員C「利用者3000人以下の駅は対象ではありません」
私「障害者差別解消法があり、エレベーターがない駅は、合理的配慮としてほかの手段で対応していただく法律があります。エレベーターを作ってほしいと言っているわけではなく、エレベーターがないならば、それ以外方法で対応する義務があります」

「車椅子タクシーは1か月前の予約」というのは嘘で、当日は熱海の車椅子タクシーはあいていたが、伊是名氏は「駅員が来宮駅まで来い」と主張した。JRはこれを拒否したが、熱海駅では駅長を含めた4人が来宮まで同行し、階段で車椅子をおろした。

これは彼女が社民党の活動家だと知って「乗車拒否」と騒がれるのを恐れたためだろうが、伊是名氏はブログに「JRで車いすは乗車拒否されました」と書き、炎上が始まった。

バリアフリーを強要するために「突撃」する常習犯

くわしい経緯は電子瓦版に書いてあるが、これは伊是名氏がたまたま行った来宮駅がバリアフリーではなかったという偶発事件ではなく、4月1日から改正バリアフリー法が適用された来宮駅を計画的にねらった「突撃」である。

その意図を伊是名氏は、動画(今は削除)で「突撃しただろとか、狙ったんだろうとか言われるけど、そうでもしないと考えてもらえなくて」と認めている。

3月まで1日3000人以上の乗降客がないとバリアフリー化の義務がなかったが、改正で2000人以上の駅が対象になり、「合理的配慮」が求められるようになった。無人駅でバリアフリーにする方法は、エレベーターしかない。そのコストは、来宮駅では(保守を含めて)2億4000万円かかる。

こういう「突撃」は今回の事件だけではない。2017年のバニラ・エア事件でも、予告なしに車椅子で搭乗させろと主張した障害者が、搭乗拒否されて自力でタラップを上がる事件があった。

このとき木島英登氏も認めたように、彼は「突撃」して搭乗拒否を突破する常習犯である。それに対処するために車椅子用エレベーターを設置するコストは、格安航空会社には負担できない。彼が突破したバニラ・エアの関空-奄美線は、2019年に廃止された。

来宮神社も熱海から車で5分程度の距離なので、2億円以上かけてエレベーターを設置するより、来宮駅を廃止するほうが経営合理的である。駅員の賃金も払えない無人駅にエレベーターをつけろというバリアフリー法の規制が不合理なのだ

全国の駅の40%は無人駅で、地元の要望で維持しているが、こういう当たり屋の「駅テロ」や「空港テロ」が増えると、JRは無人駅を廃止し、赤字ローカル線もなくなり、航空会社の地方路線も廃止されるだろう。それはコロナで経営危機に陥っている鉄道会社や航空会社にとっては合理的だが、モンスター弱者のおかげで交通弱者は増えるのだ。

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