ミャンマー「内戦」の抑止へ

ミャンマーで2月1日に軍事クーデターが起きた。軍政の拒否と民主化を求める「不服従運動(CDM)」に見られるような反政府デモが軍による武力弾圧を受けていることは日々報じられているとおりである。すでに700人以上が殺害され、3000人以上が拘束されているといわれている。

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この間、国民民主連盟(NLD)などの民主勢力は、連邦議会代表委員会(CRPH)を発足し、軍政を否定し対抗する。このような民主化デモへの攻撃は深刻な人権侵害行為として国際社会から非難されている。国連安全保障理事会(安保理)も2月4日に「深刻な懸念」を表明する報道声明3月10日には「抗議デモの参加者への暴力を強く非難する」議長声明を発した。

しかし3月に入ると、少数民族武装勢力と国軍の衝突も起こり、国軍はカレン民族同盟(KNU)やカチン独立軍(KIA)などの支配地域への空爆を開始した。国軍による空爆は、大量の避難民を生み出している。3月28日夜から29日未明にかけてのタイ国境沿いのカイン州での空爆では、3000人以上の住民が国境を越えてタイ側に逃れたと報じられている。この状況は、すでにミャンマーが「内戦」の入口にあることを示している。

しかしながら国連安保理は、法的拘束力を持つ「安保理決議」によって状況を打開するにはいたっていない。制裁を科すべきだとする欧米と、それに反対する中国との間で折り合いがつかなかったためだ。アメリカ、イギリス、中国は安保理常任理事国(Permanent 5:P5)であり、「拒否権」を持つ。したがってP5間で合意ができなければ、決議は成立しない。しかしこの間にも「内戦」状態は継続し、本来ならば軍が守るべき住民が軍によって殺戮されている状態が続くのである。

1994年に起きたルワンダのジェノサイドの際、国連の「不介入」がジェノサイドを放置し、80万ともいわれる人々が殺害された。この教訓から、「文民の保護」、「保護する責任(Responsibility to Protect:R2P)」という考えが生まれた。ミャンマーが自国民を保護しようとしないならば、国際社会はミャンマーの住民を守るために介入すべきだということだ。だがこの思想も、米中の利害が対立する安保理で合意形成ができなければまさに絵に描いた餅になる。

今後懸念されるのは、CRPHが4月16日に設立を宣言した「国民統一政府(National Unity Government:NUG)」の動向だ。NUGはNLDなどの民主政治勢力、民主化を求める市民運動リーダー、そしてKNUやKIAなどの少数民族武装勢力が合流して発足した。このNUGが今までのような非暴力的手段によって軍政の廃止と民主主義への回帰を求めるのか、少数民族武装勢力からなる「実力組織」を用いて国軍と対峙するようになるかは、注視が必要といえよう。NUG内務省のルイン・コー・ラ「大臣」は、複数の国がNUGを支持し承認する見込みがあると語ったという。また少数民族武装勢力にしてみれば、「ミャンマーの反政府軍」から「民意に基づいた政府の軍隊」へと劇的に「衣替え」できることになる。さらにNUGを支持する国々が軍事支援を行うようになれば、まさに泥沼の内戦へと進んでいく懸念は払しょくできない。

以上のように、現在のミャンマーの状況は、民主化運動への武力弾圧というだけでなく、内戦の様相を示しつつある。したがって、民主化運動への暴力を非難する運動だけでなく、「紛争(拡大)予防」のための働きかけが必要なのである。とりわけ国連安保理は「内戦」としてミャンマー問題をあつかってほしいと願う。ミャンマーが内戦へと進みつつある中で何もせず、仮に難民や避難民が大量に発生してから「大変な難民のために援助をしましょう、募金をしましょう」の大合唱というのでは、あまりにも進歩がなく、悲しく情けない。

4月24日、ミャンマー問題を扱うASEAN緊急首脳会議がインドネシアのジャカルタで開かれる(本稿の執筆時点は4月22日)。ここでは軍政のトップであるミン・アウン・フライン総司令官が出席する予定である。この会議が、ASEAN加盟国が軍政に対して「お墨付き」を与えることになるのか、デモへの暴力を止めるよう働きかけるのか、はたまたNUGとの対話を促すのかはわからない。一つの分岐点となるか、要注目である。