チェコ・ロシア両国の外交関係悪化

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チェコとロシア両国関係が急速に険悪化してきた。直接の契機は、チェコ政府が17日、ロシアの2人の軍参謀本部情報総局(GRU)員が2014年、チェコのヴルビェティチにある弾薬庫を破壊したとして、在プラハの18人のロシア外交官の国外追放を指令したことだ。それに対し、モスクワは18日、在モスクワの20人のチェコ外交官の国外追放で報復に出た。チェコ政府は21日、ロシア側に在モスクワのチェコ外交官追放処分の撤回を要求。ロシアが拒否したことを受け、チェコ外務省は22日、「5月末までに在プラハのロシア外交官の数をモスクワ駐在のチェコ外交官数と同規模に落とすべきだ」と最後通告を発した。具体的には60人以上のロシア外交官の追放となる。

▲ロシアの弾薬庫爆発事件の詳細を明らかにするチェコのクルハネク外相(2021年4月22日、チェコ外務省公式サイトから)

チェコ南東部のヴルビェティチ弾薬庫爆発はロシアの2人の工作員の仕業であることは判明しているが、モスクワはチェコ側の批判を一蹴してきた。なお、ロシア工作員が破壊した爆弾倉庫にはウクライナ向けの弾薬が保管されていたことから、ロシア側が弾薬庫の破壊工作を実施したと受け取られている。同事件で2人の犠牲者が出ている。チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長は「ロシアの国家テロ事件だ」と非難している。

ちなみに、プラハには94人のロシア外交官が駐在している一方、モスクワにはチェコ外交官は24人だ。そのうち、20人が既に国外退去を受けているため、チェコ側は「モスクワでの通常な外交活動が難しくなったきた」という。

チェコ政府の最後通告に対し、モスクワ外務省は「ヒステリーだ」と批判。それに対し、チェコのクルハネク新外相は、「外交関係に関するウィーン条約第11条に基づく通常の反応に過ぎない」と説明している。同時に、「わが国はロシア外交官の国外退去に対し48時間の猶予を与えたが、ロシア側はわが国の外交官に24時間以内の国外退去を命じた」と不快を表明している。ロシア外務省報道官は、「チェコはわが国との関係を破壊しようとしている。わが国も報復処置を取らざるを得ない」と強硬姿勢を崩していない、といった具合だ。

チェコ側の反応で興味深い点は、ゼマン大統領の姿勢だ。同大統領は今回のチェコ・ロシア関係の関係悪化に対して何も語っていない。チェコのバビシュ首相は記者会見で、「今回の処置は決して好ましくないが、わが国は主権国家だ。ロシアとの関係悪化がエスカレートしないことを願う。ロシア側がわが国の対応を認識することを期待する」と述べているが、ゼマン大統領は沈黙し、ロシアに対して一言も批判をしていないのだ。

ゼマン大統領が親ロシア派、親中国派の政治家であることは周知の事実だが、国が大国ロシアの圧力を受けている時、大統領が沈黙し、ロシアに対して苦情をいわないのでは問題だ。プラハからの情報によると、ゼマン大統領は25日、今回の件で公式表明する予定という。

蛇足だが、チェコのミロシュ・ビストルチル上院議長が昨年8月末から9月5日にかけ台湾を訪問し、中国から激しい批判を受け、それだけではなく経済制裁まで受けた。台湾から招請されたヤロスラフ・クベラ前上院議長が不審な急死を遂げ、事件の背景についてメディアでも大きく報道された。その時もゼマン大統領は中国批判を控えるなど、その政治姿勢は親ロシア、親中国色が明らかだ(「中欧チェコの毅然とした対中政策」2020年8月10日参考)。

ゼマン大統領から支援はないが、大国ロシアと対峙するチェコに対し、欧州連合(EU)加盟国から連帯支援の声が高まっている。隣国スロバキアは、「わが国はチェコ政府の対応を支持する」と表明し、エドワード・へゲル首相は、「わが国も在ブラチスラバの3人のロシア外交官に対し、7日間以内に国外退去することを命令する」と述べている。同国のヤロスラフ・ナエ国防相は、「わが国の情報機関と同盟国からの情報に基づいた対応だ」と説明。

ドイツのハイコ・マース外相はチェコ外相との電話会談でチェコ側の対応を支持し、(外交官が急減した)在モスクワのチェコの外交活動を応援すると約束。メルケル独首相はバビシュ首相と電話会見で同じように支持を伝えている。

また、ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)は22日、チェコとロシアの関係悪化について懸念を表明する声明文を発表するとともに、チェコの対応に連帯表明している。

「まさかの時の友こそ真の友」と言われるが、EU、NATOの加盟国チェコは身内には親ロ、親中国派の大統領を抱えているが、幸い多くの友を持っている。ワルシャワ条約機構軍(当時)がプラハの民主化路線を粉砕したプラハの春(1968年)の再現はもはや考えられないわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年4月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。