東京、大阪、京都、兵庫の四都府県に対し、4月25日から5月11日まで三度目の緊急事態宣言が発令されることになりました。理事を務めるJリーグ含め、飲食、小売など幅広い事業者が影響を受けます。一層、生活が厳しくなる家庭も増えるでしょう。行政や医療界に疑問の目を向ける方も少なくないと思います。しかし、だからこそ冷静に何が起きているのかを整理しておきたいと思います。
政府の方針については、昨日23日に公開されている「基本的対処方針」を情報ソースとしています。
本的対処方針分科会 (4月23日, 内閣府)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/taisyo/dai4/gijishidai.pdf
なぜ、緊急事態宣言は発出されるのか
3月上旬以降、新規感染者と重症者、そして変異株への置き換わりが進んでいるためです。特に大阪では変異株が8割となり、これまでにない速さで感染者が増加し、基礎疾患のない30代女性も死亡するなど若年層も油断できない状況になっています。
関西での感染をおさえ、また関東での変異株による急増を予防する意味合いで、営業活動が低下するゴールデンウィークで一気に感染抑制させることを狙いとして、緊急事態宣言が発出されました。
なぜ、「禁酒」が行われるのか
まん延防止措置の時点で、飲食店には20時までの時短要請がすでに行われています。緊急事態宣言ではさらに、お酒やカラオケを提供する店への全日休業要請が行わることになりました。なお東京都でお酒が提供されなくなることを踏まえ、人が越境してくることを避けるために、千葉・神奈川・埼玉でもお酒の提供が自粛されます。このことを「現代の禁酒法だ」などと批判する声もあります。
そもそも飲食店に休業要請が行われているのは、感染源と目されているためです。最新の政府分析でも、クラスター発生は職場、飲食店、高齢者福祉施設、学校と続きます。
また感染の順番としては、まず飲食店で感染し、その後に職場や家庭、そして介護施設や病院に持ち込まれると分析されています。ただ、以前は時短要請で感染を抑え込めた大阪も、変異株の影響のためか時短だけで感染が減らなくなっています。そこで、さらなる措置として、今回お酒の提供禁止にまで踏み込まれることになったのです。
なぜ、サッカーや野球は無観客となるのか
飲食対策に加えて、人流抑制も重点対策です。一人の感染者が平均で何人にうつすかを示す実効再生産数が、感染動向を見極める上で重要な指標ですが、人流の減少によって再生産数が減少することが分析されています。
仕事や学校がない休日の方が、平日よりも人流は減ります。そこで大型連休であるゴールデンウィーク中に一気に人流を減らそうというのが、政府や都道府県の方針です。
さて。Jリーグやプロ野球は、極めて実質的なガイドラインを設定し、徹底的に検査を行い、厳格にルールを適用することで、コロナ禍後に観客席のクラスターは一件も発生させませんでした。村井チェアマンも緊急事態イコール無観客という判断は避けてほしい、と発言しています。
私も理事としてこの一年間のリーグとクラブの献身的な努力を知っていますので、気持ちはよく分かります。
他方、クラスター発生ではなく、人流抑制という観点で、行政は無観客試合を要請したことになります。これも私見ですが、聖火リレーの公道中止が相次いでいることと今回のことで、オリンピックが無観客で行われる可能性が高まったように感じています。
なぜ、夜8時以降の消灯が行われるのか
人流の抑制に向けては、ほかに百貨店など大型商業施設やテーマパークへの休業要請、住民への不要不休の外出自粛、鉄道・バスの終電繰り上げが行われます。また、加えて防犯対策をのぞく、夜間消灯の要請も、基本的対処方針に書き込まれています。アイデアを出したのが政府なのか東京都なのかは分かりませんが、大阪や京都でも検討されていると思われます。
消灯により「犯罪が増えるのでは」などと批判する声もあります。ただし、こうした施策は人流抑制のためであり、現在は1.0を超えている実効再生産数を、ゴールデンウィークという機会に一挙に減らすためだと理解いただければと思います。1.0を下回れば、それ以上消灯を続ける必要はありません。
最前線で奮闘する自治体のリーダーの声を聞いて下さい
何人かの知事や市長と面識があります。彼らは一様に、危機感をもって発信を続けています。ワイドショーよりも、現場で奮闘する彼らの声を聞いて頂きたいと思います。
千葉県 熊谷俊人知事
「今回、東京・大阪・京都・兵庫に緊急事態宣言が発令されることとなりましたが、関西3府県は発令が当然として、東京都に関しては感染状況・医療提供体制等の指標の多くはステージ3で、従来の適用タイミングからすると早い段階での発令となります。変異株のリスクを高く評価していること、ゴールデンウィークという社会経済活動がある程度緩やかになるタイミングであることなどを考慮したのだと思われます。政治的事情として大阪に発令するタイミングで東京も、ということもあったでしょう。ワイドショーなどを中心に政府の意思決定はよく批判されがちですが、少なくとも東京都への発令に関しては「遅い」という批判は当たらないと考えます」
三重県 鈴木英敬知事
「22日に公表した新規感染者数は、前日を上回り過去最多となる68人となりました。60人を超えるのは初めてのこととなり、極めて厳しい、最大級の警戒が必要な状況と認識しています。臨時の記者会見を開き、県が実施する更なる対策について申し上げるとともに、県民の皆様に再度の感染防止対策の徹底など協力を呼びかけをいたしました」
奈良市 仲川げん市長
「昨日22日の市内新規陽性者は33名でした。日々の公表数にはまだ反映されていませんが、ここ数日の陽性報告がかなり増えてきており、予断を許さない状況です。現在の県内病床使用率を考えるとGW期間中の動き次第では致命傷になる恐れもあります。昨日、奈良市から県に対し緊急事態宣言の発出を国に要請するよう申し入れを行いました。本日は朝からその主旨等について会見で申し述べました。来週には県本部会議も開催予定と聞きます。適切な対応を速やかに取る事を繰り返し求めていきます」
福岡市 高島宗一郎市長
「もっと早く、そしてもっと強い要請を出すべきだという意見の方もいらっしゃるでしょう。感染拡大防止だけを考えるのであれば、一年中ずっと緊急事態宣言を出しておくのがベストかもしれません。ただ、現実には社会経済活動のことも考えなければなりません。経済とは市民や県民の生活そのものです。だからこそ、最小の痛みで最大の効果を追求しなければならないし、そこに絶対の正解はないから悩みます」
最後に
政府や自治体の方針をみると、そこまでおかしな判断をしていると私は思っていません。その上で、個人としては三密を避け、マスクや手洗いを徹底すること。事業者としては、原則在宅勤務とし、保育や小学校が休校した場合の有給休暇付与などを行います。状況を冷静に理解しながら、一つ一つ対応するしかないと感じています。
政府に言いたいこともあります。とにかくワクチンです。数レベル過酷だった欧米諸国に比べ、日本への供給が遅れているのはやむを得ない面があります。しかし、届いた後のオペレーションについては日本だけの問題です。ぜひ年内にはワクチン接種がほぼ完了するように、政府と各自治体には全力を上げて頂きたいと願っています。また、事業転換を迫られている事業者や、仕事を失うなどして厳しい状況におかれている個人の方々にさらなる支援をお願いしたいと思います。
一非営利組織でしかないRCFにできることも限りがありますが、持ち場の中で何ができるかを考え続けていきます。
編集部より:この記事は、一般社団法人RCF 代表理事、藤沢烈氏の公式note 2021年4月24日の記事を転載しました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は藤沢氏のnoteをご覧ください。