憲法記念日に考える、もしLGBT天皇が誕生したら

松浦 大悟

LGBT活動家が最も口をつぐむのが同性婚と天皇の問題についてだ。「天皇陛下と何か関係があるの?」とお思いの方もいるだろうが、少し耳を傾けてもらいたい。

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もし日本において同性婚が導入されれば、「国民には同性婚を認めているのに、皇室には認めないのか」という意見が必ず出てくる。皇族に同性愛者がいた場合、日本国民が彼らにだけ同性婚を許さないのだとしたら、それこそ国際的スキャンダルになるからだ。

2018年、イギリスではエリザベス女王の従弟、アイバー・マウントバッテン卿がゲイ男性と同性結婚式を挙げた。同国では2014年から同性婚制度が施行されているが、そのときすでに王族の同性婚についても関連法の修正作業がなされていた。

わが国の場合、皇族の婚姻は皇室典範によって定められている。その点において一般国民とは違う。しかし皇室典範は、法構造的に日本国憲法の下に位置づけられるものでもある。皇族周辺からも一般国民からも「皇室の同性婚を認めてほしい」といった要請が出てきたときに反対する勢力がいれば、その者たちこそが「君側の奸」として後ろ指をさされるようになるだろう。

こうした問題に誰よりも早く気づいた政治家がいた。日本共産党の志位和夫委員長だ。

志位委員長は雑誌AERAの取材で、「私たちは女性・女系天皇を認めることに賛成ですし、性的マイノリティの方など、多様な性を持つ人びとが天皇になることも認められるべきだと考えます」と答えている。そして「天皇は憲法で『日本国民統合の象徴』と規定されています。様々な性、様々な思想、様々な民族など、多様な人びとによって構成されている日本国民を象徴しているのであれば、天皇を男性に限定する合理的理由はどこにもないはずです。かくかくしかじかの人は排除する、ということはあってはなりません。天皇には男性だけがなれるという合理的根拠を説明できる人がいるなら、説明してほしいと思います。同じ理由で、私たちは女系天皇を認めることにも賛成です」と主張する。

たぶん異性愛者の皆さんには志位委員長が何を言っているのかクリアにイメージできないと思うので、ゲイである筆者から少し補足をしたい。皇位継承に関しては、男系男子を絶対条件だとする保守派は多い。なぜ女性天皇や女系天皇ではダメなのか。それはY染色体がないからだ。X染色体は男性女性どちらも持っているが、Y染色体は男性しか持っていない。つまり天皇である父から息子にしか受け継ぐことができない。Y染色体を遡れば125代前の神武天皇に行きつくという「物語」こそ、わが国が誇る独自性であり、守らなければならない国体だというわけだ。左派はこれを「フィクションに過ぎない」と批判してきたが、万世一系の「物語」を解体することはこれまで不可能だった。そこで志位委員長が思いついたのが「Y染色体」を逆手に取る攻略法だと筆者は推測している。

志位委員長は、女性天皇、女系天皇、性的マイノリティの天皇、いずれも認めるべきだという。そうすると以下のように分類することができる。

  • 男系の男性天皇(継承されたY染色体あり)
  • 男系の女性天皇(継承されたY染色体なし)
  • 男系のトランス男性天皇(継承されたY染色体なし)
  • 男系のトランス女性天皇(継承されたY染色体あり)
  • 男系のゲイ天皇(継承されたY染色体あり)
  • 男系のレズビアン天皇(継承されたY染色体なし)
  • 女系の男性天皇(継承されたY染色体なし)
  • 女系の女性天皇(継承されたY染色体なし)
  • 女系のトランス男性天皇(継承されたY染色体なし)
  • 女系のトランス女性天皇(継承されたY染色体なし)
  • 女系のゲイ天皇(継承されたY染色体なし)
  • 女系のレズビアン天皇(継承されたY染色体なし)

※ Xジェンダーやアセクシュアルの天皇などについては別の機会に考察したい。

この見取り図から分かることは何か。例えば次のような疑問が即座に浮かんでくるだろう。

「男系男子にしか皇位継承を認めないというのなら、Y染色体がなくても男系トランス男性(身体的性別は女性だが性自認は男性)は天皇になれるのか」

「どこまでもY染色体にこだわるのなら、Y染色体を持つトランス女性(身体的性別は男性だが性自認は女性)は天皇になれるのか。性別適合手術を終えているケースはどうか」

そう、志位委員長は保守派に揺さぶりをかけているのだ。

さらに皇室においても同性婚が認められたと仮定してシミュレーションしてみよう。Y染色体中心主義で考えた場合、これを保持している男系ゲイ天皇が一般男性と結婚し、第三者の女性に卵子を提供してもらい、代理出産によって皇太子をもうけることに異議を唱えることは難しいだろう。なぜなら息子である皇太子にもY染色体はしっかりと受け継がれるからだ。また、男系トランス女性天皇であっても、なおかつレズビアンであれば、一般女性と同性婚することは可能だ。男系トランス女性天皇が生殖機能を摘出していなければ、自分の精子を使って体外受精で皇太子をもうけることも出来る。その際もY染色体は皇太子に継承されるので何ら問題はない。

驚かれた方もいると思うが、志位委員長の性的マイノリティ天皇構想を具体化するとこうしたラフスケッチを描くことができる。志位委員長は同雑誌のインタビューで、将来、天皇の制度のない民主共和制の実現を図るべきだという立場に立っていること、そして、国民の総意で天皇の制度の存廃の問題を解決する時が必ずやってくるとの見通しを語っている。どうしても崩せなかった天皇という共同幻想を内側から溶かしていくアイデアが、志位委員長にとっての性的マイノリティ天皇構想なのかもしれない。

もし愛子さまが「自分はトランス男性だ」とカミングアウトをされたら皇位継承順位を1位にしなければならないだろう。あるいはもし悠仁さまが「自分はゲイだ」とカミングアウトをされたら皇室においても同性婚制度を整備せざるを得ないだろう。あれだけ困難だといわれていた生前退位も、上皇陛下の強い意志とそれに共感を寄せる国民の民意によって実現したわけだから絶対にないとは言い切れない。同性婚について考えることは、国家の鋳型について考えることなのだ。

野党の国会議員やLGBT活動家は問題を矮小化し、「同性婚が施行されてもあなたの生活には一切影響ない」というがそんなことはない。同性婚はここまでの広がりを持つ政治課題であり、天皇家の在り方を雛型とした全国各地の文化やお祭り・伝統にも影響を与えることは想像に難くない。

だからこそ筆者は、国民みんなで決める憲法改正での同性婚を訴えている。一部の憲法学者は現行憲法下においても解釈改憲によって同性婚制度は作れると論陣を張る。確かに理屈をこねくり回せば何だってできるに違いない。だがそれでは、国民の与り知らないところでテクノクラートたちに憲法が操作されたという負の感情はいつまでも残ることになる。

今回、図らずも志位委員長が問題の所在を明らかにしてくれた。すべての情報をオープンにし、国民全体で議論を尽くす必要があると改めて思う。