伊地方検察がWHOを告発した内容

イタリア北部ベルガム検察当局は、スイスのジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)とラニエリ・ゲラ前事務局長補(現テドロス事務局長特別顧問)を中国武漢発の新型コロナウイルスの初期対応でイタリア政府に虚偽の情報を提供した疑いで告発している。スイス放送協会のウエブサイト「スイス・インフォ」のニュースレター(4月22日)が同国日刊紙ル・タン(4月13日)の情報として報じた。

世界保健総会風景 WHO公式サイトより

スイスインフォによると、「日刊紙ル・タンが入手したベルガモ検察局の国際司法共助の要請書によると、イタリアが(新型コロナの流行に対して)どれほど準備不足だったかを隠ぺいするために伊政府とWHOが共謀していたことが明らかになっている」というのだ。

全ての感染症の対応には初期の対応が最も重要だ。それを間違えれば、多くの死者、感染者が増える一方、迅速に対応すれば「イタリアにパンデミックへのより良い備えがあれば、新型コロナ第1波で少なくとも1万人の命を救うことができたはずだ」(イタリア軍ピエル・パオロ・ルネリ元司令官)ということになる。米ジョンズホプキンス大の集計によると、4月30日現在、世界で1億5000万人が感染している。

中国共産党政権が武漢発の新型コロナウイルスの初期の感染状況、患者のデータを迅速に公表していたならば、現在のような多くの人々が犠牲になることなく終わったかもしれない。中国共産党政権の初期の対応は「感染症によるジェノサイド」といわれても仕方がない。

スイス日刊紙ル・タンの報道によれば、昨年5月13日、伊ベネチアのWHO事務所に所属するイタリア人研究者フランチェスコ・ザンボン氏を筆頭に欧州の科学者11人が「前例のない挑戦、新型コロナウイルス感染症へのイタリアの初期対応」と題した報告書を発表したが、WHOは24時間後にその報告書を撤回したというのだ。

102頁に及ぶ報告書が撤回された理由として、「WHO欧州地域事務局が早まって発表した地域的な文書だ。報告書に記載されたデータや情報には、確認されていなかったため、不正確な点や矛盾点がある。発表するべきではなかった」と弁明しているが、実際は、報告書がイタリア政府の初期対応の遅れを指摘する一方、WHOとイタリア政府がその報告書の内容を隠蔽するため連携していたのだ。ゲラ氏は2014年から17年の間、伊保健省予防局の局長を務めた人物だ。ゲラ氏の局長時代の責任も問われることになりかねないはずだ。

ゲラ氏は今も、WHOのテドロス事務局長の特別顧問を務めている。テドロス事務局長の関与は現時点では不明だが、5月に開催予定の世界保健総会で加盟国から動議が出てくるかもしれない。

報告書の作成者の1人、伊ベネチアのWHO事務所に所属するイタリア人研究者フランチェスコ・ザンボン氏は、「問題となっているのは世界が必要としているWHOという組織だ。加盟国に対するWHOの独立性の問題だ。なぜなら、我々の報告書のように、ある政府(この事件ではイタリア)の気分を損ねるという理由で報告書が修正されなければならないとしたら、中国についてはどうかを想像してほしい」と述べている。

感染症の場合、その発生源の検証と共に、重要な問題は感染初期時期の検証だ。中国当局は昨年1月20日、ヒトからヒトへの感染を認め、同23日に武漢市でロックダウン(都市封鎖)を実施し、初の感染確認は2019年12月8日と主張してきたが、欧米側の情報によると、2019年秋に新型コロナが既に発生していたという報告が多数ある。

もし「2019年秋説」が事実とすれば、武漢市が閉鎖される前に多くの感染者が国外に旅行していた可能性が考えられる。イタリア高等衛生研究所によると、同国北部の2都市に新型コロナウイルスが2019年12月に存在していたことが、同研究所が行った下水調査で判明した。ミラノやトリノの下水から2019年12月18日に採取されたサンプルに新型コロナウイルス「Sars-Cov-2」の遺伝子の痕跡が発見されたからだ。イタリア北部ロンバルディア州で新型コロナが爆発的に感染する数カ月前に同国で新型コロナが広がっていたことになる(「Covid-19の最初の感染時期を探れ」2021年1月31日参考)。

中国武漢発の新型コロナが感染拡散した直後、テドロス事務局長は昨年1月28日、中国北京を訪問し、習近平国家主席と会談、中国の新型コロナ感染の対応を評価し、称賛した。親中国寄りの事務局長の姿勢に批判の声が高まったことはまだ記憶に新しい。

また、WHOは今年1月末から2月にかけ、中国武漢に現地視察団を派遣したが、視察後の記者会見では「武漢ウイルス研究所」からのコロナウイルス流出説をあっさり否定し、「動物から中間宿主を通じて人に感染した」可能性や、「冷凍食品を通じて外部から侵入した」という中国側の主張に理解を示すなど、調査結果は明らかに中国側寄りだった(「WHO『武漢現地調査』の成果は?」2021年2月13日参考)。

スイス日刊紙の上記の内容はWHOの信頼性を一層揺るがす出来事だ。その張本人が依然、WHOの指導者の1人として勤務しているのだ。WHOの抜本的な刷新が急務だ。

(同コラムはスイスインフォの記事に基づく。詳細な記事内容はスイスインフォ日本語版で入手可能)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年5月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。