立憲民主党はワクチン接種を妨害しないでほしい

原 英史

ワクチン接種がなかなか動かない。

人口100人あたり接種回数では、4月30時点で2.8回。英国(71.3回)や米国(70.7回)は遠く及ばず、近隣の中国(17.5回)、インドネシア(7.2回)、韓国(5.8回)よりずっと低い(日経新聞ウェブ「チャートで見るコロナワクチン」より)。WHOのテドロス事務局長は、ワクチン確保で「豊かな国と貧しい国の格差」が広がっていると危機感を表明しているが、日本はいつの間にか「貧しい国」の側に入った。

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日本のコロナ対応が全くダメだったわけではない。今年初めまでは、感染拡大といっても欧米と比べれば桁が一つ以上違っていた。ところが、各国でワクチン接種が進むにつれ、急速に状況は変わりつつある。ここは何とかしなければならない局面だ。

(出典)Our World in Data

薬剤師などへの拡大は急務

今年に入って、河野太郎大臣がワクチン担当に任命された。医療従事者等への優先接種が2月から開始された。菅義偉首相は4月23日、「高齢者への接種を7月末を目途に終えたい」と表明した。

しかし、道筋は不透明だ。高齢者は総数3600万人だ。3か月で2回接種を完了するには単純計算で毎日80万人の接種が必要になる。東京・大阪に大規模会場を設け1日1万人規模で稼働させる準備が進んでいるが、その程度ではとても間に合わない。

注射の打ち手の確保は大きな課題だ。

各国ではこの対策も講じられてきた。英国では昨年10月に法改正し、医療資格のない一般人でも、オンライン講義と実技研修を受けて試験に合格すれば「注射ボランティア」になれる制度を設けた。米国では以前から薬剤師もワクチン接種が認められ、今回のコロナワクチンでもドラッグストアで広く接種が行われている。

一方で日本は、医師と看護師にしか基本的に認められていない。歯科医師について4月26日に「公衆衛生上の観点からやむを得ないものとして、違法性が阻却され得る」との解釈通知が示され、なんとか認められることになったが、薬剤師などへの拡大はまだこれからの議論だ。

ここは、規制改革担当でもある河野大臣が頑張らないといけない。

看護師資格はあるが仕事に従事していない「潜在看護師」の活用も課題だ。

潜在看護師は全国に約70万人いるとされるが、職場と働き手のマッチングがなかなかできていない。要因として、看護師の派遣労働が禁止されてきた(医療機関への派遣は禁止、社会福祉施設には短期派遣禁止)ことがあった。

ワクチン接種も控えて看護師不足が緊急の懸案になる中で、ここは4月に制度対応がなされた。

実は、今回の制度改正の起点のひとつはコロナ禍のずっと以前、2018年に規制改革推進会議で行われた議論だ。当時私も委員として関わった。その後、厚生労働省の労働政策審議会などでの検討を経て、今回の制度改正に至った。何とかワクチン接種への対応に間に合ったので、当時議論を始めておいて本当に良かった・・・と思っていた。

またも「規制改革で利益誘導」の疑惑追及

ところがだ。これに関して国会で「規制改革推進会議で看護師派遣を行う事業者への利益誘導がなされた」云々の疑惑追及がなされている。呆れと情けなさで言葉を失った。

国会で繰り返し質問している川内博史衆議院議員(立憲民主党)らの主張は、要するに、規制改革会議の元専門委員が関連事業を営んでいて規制改革要望を出し、仲間内で利益誘導したということらしい。「元委員だから規制改革側はみんな友達。そうすると要望が通っちゃう」(4月28日衆議院厚生労働委員会)などという話になっている。

4月23日付の日刊ゲンダイでは、川内議員は「規制改革という『錦の御旗』を隠れみのに、特定の事業者に利益誘導した疑いが拭えません」、「モリカケのように、安倍政権のネポティズム(縁故主義)が招いた“出来レース”と批判されても仕方ありません」などとも発言している。

およそ的外れな追及だ。

そもそも規制改革は、特定の者に「利益誘導」できる仕組みではない。

規制改革は実現すると、誰もが新たな規制の適用を受けることになる。最初に要望や提案を出した人だけに利権を与えることはできない。

また、規制改革のプロセスは、規制改革側が「この規制改革をやろう」といったら実現するわけではない。規制を所管する省庁と合意に達し、制度の詳細を検討してもらい、法令の改正などを行ってもらって、初めて実現する。この事案でも、規制改革推進会議での議論の後、厚生労働省でニーズを調査し、労働政策審議会で事業者からのヒアリングなどを重ね、雇用管理上支障を生じないための方策などを検討し、ようやく制度改正に至った。川内議員の考えるように「友達だから要望が通っちゃう」仕組みではない。

ついでながら言っておくと、私は2018年にこの議論をスタートする際に参画したが、この元専門委員の方(私が委員を務める以前に会議に在籍された)と一面識もなく、「みんな友達」との事実はない。誤解を前提に空想をふくらませるので、話がどんどんおかしくなっている。

こうした「規制改革で利益誘導」との批判は、加計問題で大注目を浴び、その後、野党・マスコミの定番になっている。

2019年に毎日新聞や野党議員らが、私が国会戦略特区の提案者から金銭や会食接待を受け利益誘導したとの批判を展開したこともあった。全く事実無根なので、毎日新聞、森ゆうこ議員、篠原孝議員の3者を提訴して係争中だ。

3つの訴訟のうち、篠原議員との訴訟の一審判決が3月26日に出された。篠原議員には賠償金165万円の支払が命じられている(控訴がなされ引き続き係争中)。

以前に拙稿「特区判決を報じない毎日新聞は『リコール隠し』と同質」で書いたが、判決で注目を要するのは、特区の委員に「提案を選定する権限があるとは認められない」と判示されたことだ。

毎日新聞や篠原議員たちの考えでは、特区の委員は提案を「選定」する立場であり、その立場を利用して「利益誘導」がなされた、とのストーリーになっていた。

 

ところが、判決で、その前提部分が否定されてしまった。

規制改革のプロセスがわかっている人には当たり前のことだが、規制改革は、所管官庁が合意し、法改正などを行って実現されるものであって、会議で委員が検討したら自動的に実現するわけではない・・・と判決文で示された。

こういう仕組みだから、規制改革で利益誘導はできない。加計問題でマスコミ・野党が延々と行っていた批判もすべて前提が間違いだった、と司法の場で明らかになった。

川内議員らは今回看護師派遣について、また同じ間違いを繰り返している。前提が間違っているので、およそ時間の無駄だ。

単に無益なだけでなく、有害でもある。こうした批判がなされるので、政府は規制改革に及び腰になってしまい、必要な対応を迅速にできなくなる。

コロナのワクチン接種を妨害するのは、本当にやめてほしい。国民の命を守ることが最優先のはずだ。