あなたが言う「普通」とはあなたの「理想」の事である

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黒坂岳央(くろさか たけを)です。

Twitterで心から「素晴らしい」と思えるつぶやきが流れてきた。

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まったく同感だ。「普通こうでしょ?」とあくまで客観的な視点を提供している風を装う人がいるが、その多くは「自分の普通が、大衆にとっての標準であってほしい」という自身の理想が込められた言葉となっている。それ故に、他人に自分の普通を押し付けるべきではないし、他人の普通も額面通り受け取るべきではないと思うのだ。

自分にとっての「普通」は他人には「普通」ではない

そもそも、自分にとっては普通のことでも、他人にとっては普通でないという当たり前の事実がある。そして個々人の持つ「普通」という感覚は、人生のステージや年代、職業や立場に応じて変化していくものだ。

筆者は義務教育時代に勉強で躓き、名前を書けば全員合格できる工業高校に進学した。そこでは「勉強をするヤツはダサい」という価値観であった。教師に暴力で楯突く生徒は男らしくてカッコいい。大学進学者は人生のモラトリアムという考え方で、高卒・高校中退も別に珍しくもない。当時、筆者にとってはそれが「普通」という感覚だった。

その後、勉強を真面目にして米国大学留学を経て、東京の外資系企業に就職した。新天地では自分の中での普通の基準が大きく変わった。同じフロアには難関国立大卒や海外MBAホルダーがおり、ビジネス英語をこなせて常に労働市場価値を高めるために仕事を頑張るのが「普通」になったのである。

今は起業してフルーツビジネスを手掛けているが、夏場はスイカやメロンが一日で数千玉出荷する日が続く。出荷の最盛期は、体育館くらい大きな倉庫を借り、マネージャーが大勢のスタッフをリードして出荷作業をする光景は、筆者にとっては見慣れた光景だが、他の人には普通ではないだろう。また、朝起きて子供の世話をし、ビジネス記事を書くというライフスタイルも、見る人によっては普通ではないのかもしれない。

「自分には日常でも、他人には非日常」という言葉がある。世界には人の数だけ見え方が存在するのに、ついついそのことを忘れがちだ。そして人は都合の良いように物事を解釈し、自分の普通を他の人に当てはめようとしてしまう。

「普通」という言葉にその人の願望が反映される

人が口にする「普通」には、その人の願望が反映される。そのことを実感する経験が筆者にはある。

昔、コールセンターで働いている時に、婚活をしているという女性スタッフとよく話をしていた。その時に、彼女は「普通、男ならこのくらいするものでしょ」とか「普通、年収はこの程度はないとヤバいでしょ」と頻繁に「普通」という言葉を口にしていた。なかなか良い出会いがないと、彼女はよく愚痴を言っていた記憶がある。彼女は自分の中の「普通」というラインを下回る相手と会うたび、イラついている様子を見せた。まさしく、「普通はこうあるべき」という言葉に、自身の願望が反映されていたと感じる事例である。

願望の込められた「普通」という言葉は、この世にありふれている。上司に誘われていやいや飲み会に参加させられた側は「普通、上司なら部下に奢るでしょ」と考えるかもしれない。その一方で、誘った上司としては「普通、業務時間外にアドバイスもらえるなら部下は上司に感謝や気遣いをするべきでしょ」と考えるだろう。この場合も「普通」という言葉に、自分自身の願望を色濃く反映させているだろう。そしてそれがある限り、お互いに気持ちのすれ違いが起きてしまう。

「普通は~」を連呼する人は依存的で他力本願

何かしら、相手を評価する場面において「普通は~」という言葉を頻繁に使う人ほど、どこかで依存的で他力本願な気持ちがあると感じる。

「普通、年上ならリードしてくれるはず」

「普通、この規模の企業ならこのくらいの待遇をしてくれるべき」

「普通、このくらいやってくれて当然でしょ」

こうした言葉には、「相手が自分の願望通り動いて然るべき」「相手が自分の思う通り動いてほしい」という相手への高すぎる期待感が隠顕している。だが、自分は自分、人は人である。自分の中の価値基準を相手に求めるのは、ある種の依存心と傲慢さを感じてしまう。真に独立心を持つ者なら、自分の普通を相手に押し付けてはいけないと思うのだ。

…だが、本稿での主張も、筆者の中での「普通」に対する個人的価値観に過ぎない。他人にそのような振る舞いを求める意図もないことを、末筆ながら添えておきたい。

 

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。