南北朝鮮を操る中国が差配する米韓首脳会談の対北政策

74回目の憲法記念日を迎えた3日の各報道は、漸く「憲法改正が必要」との意見が若干ながら上回るに至った世論調査を報じた。この結果が、共に共産党一党独裁の隣国-中国と北朝鮮-の核とミサイルの脅威を、日本国民が身近に感じ始めたことの証であることは論を俟つまい。

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中国の脅威がほぼ国際社会に共有されるのに比べ、北朝鮮のそれは隣接する日本がもっぱら引き受けている。というのも、朝鮮戦争をまだ終結していないはずの韓国大統領文在寅が、ひたすら金正恩の代弁者もしくは従僕と化しているからだ。

日朝間の問題は核やミサイルに限らない。何より拉致被害者の救出が進展していないし、文在寅の従北ぶりを見るにつけ、朝鮮半島全体が核やミサイルを持ったまま赤化してしまう懸念もある。そうなれば、慰安婦や徴用工どころでない危機的な事態を日本は招来する。

鍵を握るのはバイデン政権の対北政策だ。それは3月18日の米韓2+2」で姿を現した。ブリンケン国務長官が会見で「我々は北朝鮮の非核化に専念している」と述べたのだ。すわ、91年12月の南北合意から18年のシンガポール会談までの「朝鮮半島の非核化」が変容したか、と思われた。

が、会見後の共同文書には「両国の長官は、北朝鮮の核・弾道ミサイル問題が同盟の優先関心事であることを強調」としか書かれておらず、サリバン国家安保担当大統領補佐官も2日、米国の対北政策は「北朝鮮に敵対するためのものではない」、最終目標は「朝鮮半島の完全な非核化」だと述べた。

ブリンケンは良い格好をしたもののヘタレたのだ。が、筆者はこれに拘る意味が解らない。朝鮮半島の非核化は在韓米軍の非核化を含む訳だが、核を搭載する米原潜が東シナ海や日本海を遊弋するのだから、半島に核を置こうが置くまいが関係ない。北の非核化が進むなら「朝鮮半島」で良いではないか。

韓国紙ハンギョレは、韓国が説得してブリンケンの「北朝鮮の非核化」を翻意させたように書くが、米韓首脳会談を前にまた文在寅が懲りずに出しゃばったようだ。4月21日のニューヨークタイムズが同紙のインタビューで、文がトランプの対北交渉を批判したことを報じた。

インタビューでの文の発言を要約すれば概ねこうだ。

18年に文が金正恩と会談した際、「核兵器がなくても安全が保証されるなら苦労はない」と金から聞いたので、金と会うようトランプを説得した。結果、シンガポール会談では、トランプが北の「安全保障」を、金が「朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力する」ことを約束した。

だが、トランプは後のフォローをせず、遠回しに言う(beat around the bush)やり方だったので、非核化できなかった。トップダウンのトランプは一対一の人間重視の会談を好んだが、バイデンは担当者が事前に詳細を交渉するという従来の「ボトムアップ」に戻っている。

米朝両政府にとって重要な出発点は、対話の意志を持って早い時期に顔を合わせて座ること。その際、18年のシンガポール合意(*朝鮮半島の非核化)を反故にするのは間違いで、鍵となるのは、米国と北朝鮮が「相互に信頼できる(段階的アプローチの)ロードマップ」を作成することだ。

北朝鮮は、唯一知られている核実験場を解体し、寧辺のロケットエンジン試験施設と核施設の解体を続ける段階的アプローチの意向をすでに提供していた。そのような措置が米国の譲歩と一致すれば、完全な非核化への動きは「不可逆的」になる。

米国と中国の間の緊張が強まると北朝鮮がそれを利用するので、そのことも考慮する必要がある。朝鮮半島の完全な非核化と和平解決のため、実質的で不可逆的な進歩を遂げた歴史的な大統領として、バイデンの名が後世に伝えられる(go down)ことを願っている。

防衛費分担に関する交渉で、経済規模が拡大している韓国はより多くの支払いを厭わなかったが、トランプの要求は両国関係の基盤に違反し、「合理的な計算を欠いていた」。だが、就任後46日で合意できたのは、バイデン大統領が米韓同盟を重視していること証拠だ。

つまり、文の言い分は、自分はトランプと金のトップ会談を仲介し、北の「安全保障」と「朝鮮半島の非核化」の合意を取り付けたが、トランプのフォローがなく失敗した。バイデンが「北の非核化」に固執せず「ボトムアップ」で「段階的アプローチ」をすれば上手くゆく、と万事が自分本位なのだ。

ホワイトハウスのサキ報道官は4月30日、政権は「朝鮮半島の完全な非核化」を目的とする北朝鮮の「徹底的で、厳密で、包括的な」政策レビューを完了したと述べた。

北朝鮮の外交部高官は2日、バイデンが先の合同議会演説で、北とイランの核計画を米国と世界の安全保障に対する「深刻な脅威」と述べ、外交と厳しい抑止を通じてこれらに取り組むために同盟国と協力するとしたことを、バイデンの敵対政策は「大失敗だ」、「相応の対応を取る」と批判した。

日米首脳会談の共同声明には「北朝鮮の完全な非核化」と書かれたが、菅総理はそれに先立つ記者会見で、「CVID(完全に検証可能で不可逆的な非核化)へのコミットメントを、北朝鮮に対して国連安保理決議の下での義務に従うことを強く求めることで一致した」と述べた。

サキ報道官のレビューは、オバマの戦略的忍耐(傍観)とトランプのFFVD(最終かつ完全に検証された非核化)の中間を示唆するが、21日に予定される米韓首脳会談で表に出よう。もしそれが、文が主張する「段階的アプローチ」になるようなら、バイデンの対北政策はアウトだと思う。

中国の対応はといえば、張国連大使は3日、バイデン政権は北朝鮮への「圧力強化よりも外交に焦点を当てるべき」とし、「安全保障と平和問題に適切に取り組むことの外に、我々は非核化の取り組みの適切な環境を有していない」と述べ、文在寅の主張と平仄を合わせた。

4月3日に6年ぶりに開催した「中観2+2」で、王毅外相も「中国は韓国と共に、対話による朝鮮半島問題の政治的解決プロセスを進めていく」と述べた。また張大使の発言は制裁破りを自白しているかのようだが、中国は、北が20年1月から中断していた中朝貿易を4月から再開した節がある。

ラジオフリーアジアは3月31日に中朝国境の鉄橋の点検を伝え、4月20日には1年3か月ぶりにトウモロコシ300トンが鉄橋を渡ったと報じた。これを受けてか北の当局は、北の国境近くに住む中国人への差別的行動を取り締まり始めた。政府が支援を求めているのに、市民が敵対するなど罷りならんという訳か。

何のことはない、中国が、手強いトランプに代わったバイデンを与し易しと見透かし、南北朝鮮を使嗾して、同盟国を頼んで自ら先頭に立って行動しないバイデン政権の、「赤信号、皆で渡れば怖くない」式の対中政策に挑もうということだろう。

3月の米中アラスカ会談直後にラブロフ外相が中韓を訪問したが、縷説した北朝鮮を巡る出来事と無関係なはずがなかろう。何故ならバイデンはなぜか反露に転じている。いずれにしろ米韓共同声明の中身は、2週間後に明らかになる。