4月25日実施の衆議院北海道2区と参議院長野区の補欠選挙、参議院広島区の再選挙の投票率は、順に30.46%、44.4%、33.61%と低調であった(時事通信)。だが、衆議院の総選挙や参議院通常選挙の投票率も決して自慢できない。直近の投票率は総選挙が53.68%(2017年)、参院選は48.8%(2019年)であった。戦後の総選挙の投票率を振り返ってみると、1990年代前半までは70%前後を維持していたが、1996年に60%を割り、それ以降は、70%近くまで回復した年(2005年67.49%、2009年69.29%)もあったものの低下に歯止めがかからず、2014年(52.69%)と2017年は50%台を辛うじて維持する水準にまで落ち込んだ(総務省選挙関連資料)。
こうした投票率の低迷は、日本に限らず、他の先進国にも共通する問題である。民主主義・選挙支援国際研究所(International Institute for Democracy and Electoral Assistance, International IDEA、以下IDEA)の国政選挙投票率データベース(二院制の場合は下院)によると、たとえばフランスは1973年の81.81% が2017年には 48.7%まで激減した。そこまで著しい減少ではないが、フィンランド(1970年82.23%→2019年68.73%)、ドイツ(1972年91.11%→2017年76.15%)などでも低下が目立つ。
高い投票率を維持する国もある。表1は、同じくIDEAのデータベースを用いて先進20カ国の国政選挙(二院制の場合は下院)の投票率を示したものである。一際目を引くのが90%を超えるオーストラリアだ。ベルギーも9割に近い。この両国の高い投票率には、選挙を義務化し、棄権者に罰金を課す強制的措置が大きく貢献している。
オーストラリアの罰金は棄権1回につき20ドル(およそ1700円)、ベルギーは1度目が10ユーロ(およそ1300円)、2度以降は25ユーロに増え、さらに15年の間に4回繰り返すと10年間投票権を剥奪されるという厳しい内容だ。なお、IDEAの調査では、203カ国中27カ国が選挙を義務と定め、うち20カ国が罰金制度を設けている。罰金は棄権抑止には効果的だが、まるで首に縄を巻かれて投票所に引っ張って行かれるようで、抵抗を感じる。天邪鬼の私は、罰金を払ってでも「棄権する」自由を主張したいところだ。
他方、フィンランドを除く北欧諸国は強制的措置なしに高い投票率を誇る。これらの国では政治と国民の距離が近く、国民の主権者意識も高いのだろう。以前の投稿で紹介した民主主義指数(DI)でも常連の上位国、民主主義の優等生だ。
さらに気になるのが、表の右側に示した選挙制度との関連だ。比例代表を採用する国のほうが、小選挙区制の国よりも投票率は高い傾向にある。その理由の一つに考えられるのが、死票、すなわち当選に結びつくことなく「捨て去られる」票である。
小選挙区制(1選挙区1議席)は、過半数の票の獲得を勝者の条件とするフランスを除いて、最も多くの票を獲得した者が勝利を収めるため、死票がより多く出る。たとえば、接戦になり、当選者の得票率が30%であった場合、70%の有権者の政治的意思は切り捨てられる。こうした経験が重なれば、有権者は自ずと投票意欲を喪失し、棄権が常態化するだろう。他方、獲得票数に応じて議席が配分される比例代表は、相対的に死票が少なく、投票意欲を失う人の割合も低くなる。
オーストラリアのAV(Alternative Vote、優先順位投票)は、1選挙区の複数の候補者に順位を付けて投票し、開票では順位の低い候補者の得票を上位者に上乗せして絞り込み、過半数を獲得した1人が当選者になる方法であるが、得票率の多寡を競うだけの小選挙区制よりも民意は汲み上げられる。
ドイツは比例代表と小選挙区制が連動する「併用」型で、比例代表によって政党の獲得議席数が決まり、小選挙区制の勝利者が当選者となる。その点で、比例代表制に近く、「並立」型よりも死票は少なくなる。小選挙区と比例が分離し、議席数などの点で前者優位の小選挙区比例代表並立制は、小選挙区制により傾いた制度で死票も増える。
わずか20の事例であり、しかも投票率には様ざまな要因が作用するので、推察の域を出るわけではないが、選挙制度と投票率は無関係ではなさそうだ。
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「投票率を考える①:何が有権者を投票に向かわせるのか」はこちら
「投票率を考える②:若者の投票行動」はこちら