緊急事態宣言延長:変わらぬ日本の体たらく

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大方の予想通り、「緊急事態宣言」が期間延長された。知事等の命令や入院勧告(措置)に従わない場合の罰則を定めた改正特措法等も施行された。欧米各国なら、市民の抗議が渦巻くだろうが、よくも悪くも日本は違う。批判の声は少なく、NHK以下各局とも、「致し方ない」、「やむを得ない」などと語る〝街の声〞を流す。

地上波キー局のニュースから、典型的な一例を挙げよう。場面は東京の新橋駅前。

《緊急事態宣言の延長について、通勤客からは複雑な声が聞かれました。

「今、この感染状況ですと、致し方ないのかなと思いますね。今、逆に気を抜くと、もっと感染者がまた戻って、増えてしまうんじゃないかな」

「今後のオリンピックのこととかも考えれば、1か月くらい様子見てもいいのかなと」(以下略)》

こう口々に語った「通勤客」らに質したい。なぜ、あなた方はリモート要請に従わず、公然と通勤しているのか、と。「仕事の性格上、通勤せざるを得ない」との釈明もあろう。だが、それをいうなら、延長や罰則で直接打撃をこうむる飲食店はどうなるのか。まさかリモート飲食もできまい。

飲食業界だけの問題ではない。朝日新聞朝刊は、東名高速道路の海老名サービスエリア(SA)で、こう訴える長距離運転手の声を報じた。

「夜も働く自分らにとって、温かい晩飯はささやかな生きがい。酒を飲まないドライバーしかいない真夜中のSAは、店を営業してもいいんじゃないか」

私もそう思う。私たちの生活は、こうした見えない犠牲や献身の上に成り立っている。朝日記事は、「対策は徹底しているのに、どうして罰則で追い詰めるのか。いつまで飲食だけが悪者にさせられるのか」と憤る店主の声も報じた。

飲食店主には個人事業主も多い。休業すれば、そのぶん収入が減る。「1か月くらい様子見てもいい」などと悠長なことは言っていられない。そう言えるのは、きっと公務員やサラリーマンだからであろう。

罰則には、法律的な問題もある。入院措置は、行政法上の即時強制に当たる。即時強制とは、たとえば警察官の武器使用など、「国民に対しあらかじめ義務を課する余裕のない緊急の必要がある場合」等に「行政機関が直接国民の身体や財産に実力を加えて行政法上必要な状態を実現する作用をいう」(『法律学小辞典』有斐閣)。

他方、行政罰とは「行政法上の義務違反行為に対して」、「制裁として科せられる罰」である(同前)。そもそも義務がない即時強制と、義務違反を制裁する行政罰は、いわば水と油。即時強制(違反)に罰を科すことなどできない。そう考えるのが通説的な理解だが、なぜか菅義偉内閣の解釈は違う。

それ以前に、憲法上の問題もある。飲食店への命令や罰則は、憲法22条が保障する「職業選択の自由」(営業の自由)を直接侵害する。違憲かつ無効な「法改正」ではないのか。なぜ、野党や護憲リベラル派はそう言わないのか。それどころか、与党に加え、立憲民主党や日本維新の会など野党も「法改正」に賛成した。じつに不思議である。

いま、多くの国民が医療従事者への感謝を口にする。その一方で、自分たちのライフラインを担う長距離運転手や、飲食という私たちの生存に不可欠な業種の従業員に対する感謝の声は聞かれない。新宿歌舞伎町などの繁華街に至っては、悪意の対象となっている。

自分は公然と通勤しながら、カメラに向かい、飲食店らの犠牲も「致し方ない」、「やむを得ない」と語る。自分さえよければ、それでよい。なんとも罪深い(以下略)。

……さて、種明かしをしよう。以上は本年2月11日に「産経ニュース」で公開された拙稿の抜粋である(一部表現を改めた)。2月14日付「産経新聞」朝刊オピニオン欄にも掲載された。初出から3ヶ月が過ぎたが、《大方の予想通り、「緊急事態宣言」が期間延長された》と記した冒頭以下、とくだん書き改める必要を感じない。

そればかりか、事態はさらに悪化した。東京や大阪では、飲食店による新型コロナウイルスの対策状況を見回って確認する「見回り隊」が出没。神奈川県では、覆面調査隊まで動き出した。飲食店に加え、百貨店等への自粛要請も続く。「禁酒法」、「灯火管制」と揶揄される愚策とともに…。これでは名実とも暗黒社会ではないか。そんなことをする余裕があるなら、全力でワクチン接種を早めてほしい。もう自衛隊頼みは沢山だ。

一方、首都圏を走る通勤電車の混雑状況は一向に改善しない。なにも見回ったり、覆面調査したりするまでもない。「7割リモート」要請が遵守されていない現状は、誰の目にも明らかではないか。

政府や自治体によるガバナンスが消えて久しい。格差も拡大した。飲食や観光関連業界らが大幅な赤字に苦しむ一方、IT大手らは過去最高益で潤う。

もはや政治や行政に、多くは望まない。梅雨が開け、盛夏を迎えても、なお同じ原稿を使い回せるような体たらくだけは願い下げだ。