リモートワーク是非論

1年以上にわたる「密」禁止は会社に時々行けばよいという好都合な理由を作りました。

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こう書きだせば私はリモートワーク反対論者だろうと思われるでしょう。反対ではなく、使い方の問題であり、汎用的なリモートワークの推奨は日本の本来の仕事のやり方を究極的に変えることになり、それが社会に受け入れられるか、その試練にされされると申し上げたいと思います。

リモートワークの話をする前に少し前の日経ビジネス電子版にこんな刺激的な記事が掲載されています。「『40以上はやる気なし』会社のホンネと消滅するおじ社員」。強烈で酷いタイトルだと思いますが、本文には「コロナ禍で一気に『会社員消滅時代』に突入し」ており「東京商工リサーチによれば、上場企業のうち21年の『希望退職の募集』を明らかにしている企業は18社計約3300人に上り」、「募集に至った要因として新型コロナによる影響を挙げ、今後はさらに構造改革を名目に人員削減が本格化する可能性がある」とあるわけです。長い記事を超要約するとこんな感じです。

先日の「人生、山あり谷あり」で「40代は仕事の行き詰まりや悩みがピークになる」と申し上げましたが、いみじくも日経ビジネスの記事には40代がやる気のピークと記されています。

私の知るある一流上場企業の課長氏。コロナでリモートワークになり、「出社に及ばず」となり、ほぼ会社に行くことなくリモートワークを満喫しております。彼の仕事は営業で顧客接待が多かったはず。ではその代わり何の仕事をしているのか気になるところですが、本人は「俺はもう一生、会社に縛られない」とご満悦の様であります。

仕事には現場業務と管理業務があります。業種によりその比率は大きく違いますが、立派なオフィスビルで管理業務をするのは全体を均せば数割程度ではないかと思います。若者に人気がある業務、プログラマーや金融、研究開発はオフィス内業務が多いと思いますが、多くの事業は現場あっての会社です。飲食、小売、建設、運輸、製造…どれをとっても現場が主流です。テレワークは社員/非正規、大企業/中小企業、事務所が都市圏/地方で全く違う結果が出ます。結果としてテレワークに縁遠い人が過半ではないかと思われます。

ということはこの1年、リモートワーク万歳論が歪んだ形で伝わり、まるで異次元の働き方がやってきたぐらいの感じで捉えられたと思うのです。

もちろん、最近は現場仕事もリモートでできるようなアイディアが出来つつあるニュースも拝見していますがまだまだメジャーになる気配はありません。それよりコロナが収まった際、現場からの声が大きくなり、「管理組は現場を知らなすぎるといわれたが、最近は会社の行き方すらわからなくなったのか!」と反旗の声が出てくることは容易に想像できるのであります。

つまり、今、「リモート万歳」という人は日本の仕事のやり方から外されてもおかしくありません。仮にリモートワークが許される人や業種があるならばそれはメンバーシップ型の社員でもなく、ジョブディスクリプション型でもないコントラクトベースがよりうまく機能し、出来高払いに傾注していくとみています。つまり、リモート勝ち組と負け組が出るということです。

リモートワークはツールとしては大変優れており、使い方次第ではこれほど便利なものはありません。但し、それが全社員の働き方のベースになると考えるのはメディアに踊らされすぎだと思います。世の中にオフ会というものがあるのはなぜでしょうか?やっぱりリアルがよいのです。微妙な目線や顔つきから「社員も生き物だ」と感じるのです。

私が考えるリモートワークのベストな使い方は①出張業務の絞り込み②家庭の事情などで会社での業務に支障がある人への配慮③日本全国、世界各地に広がる社員の能力を総和で使いこめる可能性④業者や顧客との会議を容易に開催⑤健康障害がある人の業務への参加だろうと思います。業種的にはプログラミングや一部の情報処理業務、経理業務、営業業務は展開が可能ではないかと思います。但し、情報漏洩対策など端末を含めたセキュリティ問題が極めて重い投資になる気がします。

またリモートワークも今は出社すると画面に「出勤中」と点灯する仕組みがあるので部内の人が全員そこにいて常時アクセスできるか確認できます。部内の黒板にあった「出社」「外出」の札と同じです。いかにも会社で仕事をしているようですが、一日中、家のデスクにかじりつけますか?私はNOです。精神衛生的にも刺激のなさも効率も悪すぎます。

リモートワークは期待を通り越して夢のような世界を想像させました。軽井沢や千葉の九十九里に住みながら仕事をするのは可能ですが、コントラクトベースでなければパートタイムに近い位置づけに代わるとみています。ワクチンが普及し、正常化するであろう今年の終わりあたりからオフィスワークへの巻き返しが来るとみています。企業も世論もまだ固まった方向性や概念を持っているわけではないのです。田舎に引っ越すのはまだ早計のような気がします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月12日の記事より転載させていただきました。