注目されたアメリカの4月度の消費者物価指数が発表され、前月比0.8%(前年同期比4.2%)アップと事前予想の前月比0.2%を大きく上回りました。日本の報道は概ねここまでなのですが、中身を見ると今回のインフレの主因の一つは中古自動車価格で前月比10%アップ、前年同月比21%アップとなっています。
多分、エネルギー価格も上がっているのだろう、と思われるでしょうが、こちらはマイナス0.1%でガソリンもマイナス1.4%なのです(5月はパイプラインの停止でぐっと上がると思います)。以前、ウッドショックの話題を振らせて頂いた際、インフレのアイテムは波状的に来る、と申し上げたと思います。つまり、一つの素材やアイテムが上がり続けるというよりコロナ禍からの回復具合や懐具合など世の中の流れが急速で主役がどんどん交代するというのが現状だと思います。
その中で中古自動車の需要が急速に伸びているのは半導体不足で自動車会社からの新車供給が減ったことと共に我慢した消費癖と経済正常化が遠くに見えていること、バイデン政権のばら撒き、株や仮想通貨投資で小遣いを得たことで新車が需要に追い付かないといった複合要因だと思います。
アメリカの大手レンタカー会社では新車が手に入らなくなり、やむを得ず、中古自動車を購入しているということも中古車市場の需給を締め上げる要因となっているとみています。
アメリカの新車市場を見てみると月次では数字上20年第4四半期でピークを打った後、1月が半導体不足が原因で117万台と極端に落ち込みます。2月126万台、3月154万台、最新の4月で151万台で年換算で18500万台ペースにもなります。これは手元にある1976年からのデータを見ても過去最高になりますが、当然その意味は継続できないレベルということになります。
人の心理とは「ないものねだり」なのです。日本では殆ど報道されませんが、アメリカの東部で最大のパイプラインがハッカーに攻撃され大打撃でしたが、ようやく回復できそうです。その間、ガソリンも十分に供給できず、スタンドには長蛇の列となりましたが、これも多くの人がガソリンを車に入れるだけではなくポリタンクに予備分を購入することで「備える行動」に出ていたためなのです。一種の「ないものねだり」です。
とすれば市場が落ち着けば今までの購買熱は嘘のように沈静化します。特に自動車はガソリンやトイレットペーパーと違い、今すぐ買わなくても我慢できるものなのです。
ところで日本ではトヨタと日産が決算を発表し、明暗を分けました。報道を読む限り、余力の違いを見せつけられました。トヨタのどしっとした経営戦略は現状の体制が続く限りにおいて隙なしに見えます。EVと水素自動車への明白な目標を打ち出したことはEVへ消極的と言われたところからは立ち直りに見えます。
一方、日産はリーダーシップに弱さが見えます。22年3月期も赤字見込みで回復基調にあるものの3期連続の赤字見込みが嫌気されています。日産の場合、テーマが見えないのです。5年後10年後にどんな車を作っていくのかというビジョンが明白ではなく、やみくもにSUVを投入しています。日産の場合、このところモデルチェンジ車がヒットしないことも悩みで北米ではアルティマもローグも鳴かず飛ばずとなっています。ローグは旧モデルがバカ売れしたこともあり、新型のインパクトがなく飽きが来た感じがします。
自動車の半導体問題については結局のところ、市場の読み違いということだと思います。そもそも昨年の今頃は半導体はあったのですが、自動車業界がコロナで悲観見通しを立て、自動車向け半導体を確保しなかったことにあります。もちろん、昨年のこの時期に今の状況を正確に予想できた人はいないでしょう。なにしろ昨年4月20日には原油価格がマイナスになったぐらいでした。
それがわずか半年ぐらいで急に需要が回復し、素材価格が爆発的に上昇したのは素材産業にその準備がなかったからの話で概ね、どの素材も市場価格はいずれ落ち着きを見せるはずです。唯一の例外は銅でこれはEV化で今しばらく上がり続けるとみています。私がウッドショックもいずれ収まる、というのは必ず供給が追い付く一方、需要は沈静化するため、急速に需給ギャップは埋まるというのが歴史なのであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月13日の記事より転載させていただきました。