医療関係者家族の不正な優先接種は野放しか

スギ薬局創業者夫妻が高齢者枠でワクチン接種を受けようとした件で、不思議だったのは、傘下に多くの薬局をもつのだから、医療従事者枠を使えばよかったのにということだった。

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報道によれば、秘書は市役所に、高齢者枠のほかに、医療従事者にならないかも聞いて、「現場に出てますか」と聞かれて「出てません」と答えてダメだと言われたそうだ。

「出てます」といえばよかったのだろうか。どうせノーチェックなのだ。さらに、そもそもいつもは出ていなくても、しばらく、黙って形だけ店頭に出ればよかったのではないだろうか。

もちろん、それは、道義的には許されないが、厚労省の文書を読む限りは、禁止もされていないし、防ぎようもないし、事後のチェックもないし、バレても罰則もなさそうなのである。

上記の厚労省の文書をみると、

『 病院、診療所において、新型コロナウイルス感染症患者(疑い患者(注)を含む。以下同じ。)に頻繁に接する機会のある医師、その他の職員。

※ 診療科、職種は限定しない。(歯科も含まれる。)

※ 委託業者についても、業務の特性として、新型コロナウイルス感染症患者と頻繁に接する場合には、医療機関の判断により対象とできる。

※ バックヤードのみの業務を行う職員や単に医療機関を出入りする業者で、新型コロナウイルス感染症患者と頻繁に接することがない場合には、対象とはならない。

注) 疑い患者には、新型コロナウイルス感染症患者であることを積極的に疑う場合だけでなく、発熱・呼吸器症状などを有し新型コロナウイルス感染症患者かどうか分からない患者を含む』

この基準だと、「診療科、職種は限定しない」のだから、医師の家族であろうが、知り合いであろうが、急遽、受付業務でもしたら対象になる。以前からしていたという縛りはないから、ワクチン目当てに初めてもいいわけだ。

条件は、「頻繁に接する機会」だけだから、いかようにでも解釈できる。少なくとも、一週間に一日もすれば排除する理由は言葉の上では見当たらない。もちろん、美容整形でも眼科でもいいと明言されている。

薬局についても、以下の通りだ。

『 薬局において、新型コロナウイルス感染症患者(疑い患者(注)を含む。以下同じ。)に頻繁に接する機会のある薬剤師その他の職員(登録販売者を含む。)

※ 当該薬局が店舗販売業等と併設されている場合、薬剤師以外の職員については専ら薬局に従事するとともに、主に患者への応対を行う者に限る。』

(2)薬局において、新型コロナウイルス感染症患者に頻繁に接する機会のある薬剤師その他の職員(登録販売者を含む。)。

(対象者に関する留意点)

※当該薬局が店舗販売業等と併設されている場合、薬剤師以外の職員については専ら薬局に従事するとともに、主に患者への応対を行う者に限る。』

つまり、薬剤師は店頭に出ていなくてもいいが、それ以外には、店頭に出ていることが条件になっている。しかし、いずれにせよ、創業者夫妻が薬剤師ならば、店頭に出ずに調剤コーナーで手伝っていたら大丈夫だし、店頭に立てば、該当することになる。簡単なことで、秘書は市役所と交渉などするより、どっかのお店に少し夫妻に店頭に出てもらえば良かっただけではないだろうか。

医療従事者にしてもらうためには、事前に氏名と生年月日と所属医療機関などの届出が必要だったが、業務の詳細などは記入の欄もなかったようである(地方自治体などで違うかもしれないが)。

今はいったん優先枠の締め切りは終わっているが、新しく医者になる人だっているのだから、若い人まで順番が回ってくるまで、権利なしにするのかどうかはわからない。

どうして厚労省は、このいい加減な基準にしたのかということを、公務員経験者として想像すると、医師会などを喜ばしたいというのがひとつあるだろう。そして、もうひとつは、問題になるケースが出たときに、「医療従事者にあたるかどうかを細々と書くと、規定に当てはまるかどうかで混乱することが予想されるので、医療機関の良識を信じることにした」というのであろう。

しかし、300万人と予想していたのが、480万人にも膨れあがった背景には、相当数の不適切な適用があったことは容易に想像できる。

私は制度が適切に運用されたかどうか、調査をすべきだと要求したい。どのような仕事をどのくらいいつからやっていたか、マークシート式でできる。そして、抜き打ち的に、ヒアリングし、出勤簿や給与明細と照らし合わせるべきだ。

そして、不適切な例については、公表してもらいたい。

ついでに、首長さんの接種も問題になっているが、規定ではこうなっている。

『自治体が新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の特設会場を設ける場合に、予防接種業務に従事する者であって、新型コロナウイルス感染症患者と頻繁に接すると当該特設会場を設ける自治体が判断した者』

これでみると、市長さんが接種会場に何日か出向いて、陣頭指揮をすれば対象ということになる。