孫正義氏に刺激される投資の世界

ソフトバンクGがコロナ禍の21年3月期に約5兆円の利益を捻出し、それまでのトヨタが記録した日本最高利益の約2倍を計上しました。いろいろな見方はあると思います。そもそも孫さんのスタンスが好きではない人も多く、彼に焦点を当てた内容はバイアスがかかりがちです。そこで投資という観点でもうすこし追ってみたいと思います。

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未上場だけど将来、その技術やアイディア、能力を引き出したらきらめくものになる、それを発掘しているのがソフトバンクGのポジションです。かつて金塊を求めてアメリカ、カナダ更には日本でも人々は夢を追い求めました。ビットコインのマイニングについては最近は環境問題が取りざたされており、その7割が稼働する中国と電力消費という組み合わせが叩かれる対象となっていますが、そこをクリアしながら発掘を進めている会社もあります。総論と各論を分けて見抜く力が大事なのでしょう。

インキュベーション(孵化)という言葉があります。これはスタートアップの会社がまだよちよち歩きの時に栄養を与え、支援し、しっかりと立ち上がって走り出すまでのプロセスのことでこれを支援する会社のことをインキュベーターと呼びます。孫氏はその卵の中が金なのか、腐っているのか、見極めるセンスが非常に高いのだと思います。

孫氏のセンスは何処から生まれたかといえば自分自身のビジネス経験、無数の失敗、会社がほぼ倒産の瀬戸際まで追いやられる窮地を乗り越えたことにある点は異存がないと思います。ここまでは比較的多くの経営者が経験しており、経営体験談としても一般に多く披露されています。松下幸之助、本田宗一郎、盛田昭夫、井深大、柳井正、永守重信氏らはいわゆる一つの業態、産業、会社に於いて試行錯誤の末、多大なる功績を残した方々です。

孫氏は更に一歩踏み込みます。つまり、インキュベーション投資を通じてその投資先の危機や栄枯盛衰を見続けてきました。つまり自分が間接的にコントロールする企業群との付き合いを通じた経験の深掘りをしている点です。日本で2つ以上の全く違う会社を創業、あるいは再建させる人は割と少なくなります。京セラとKDDIの稲盛和夫氏、「ブックオフ」と「俺のシリーズ」の坂本孝氏、その点では「スターマイカ」の水永政志氏も不動産のいちごホールディングスの前身であるピーアイテクノロジーを立ち上げていますし、ゴールドマンサックス証券在籍時はレジェンドと称されていました。

投資する側からみると株価だけを見て上がる、下がるというゲームをする場合と長期的視点に立って投資先が育つか、という観点で見る場合の二通りがあります。一般の人は未上場株の入手は難しいので上場株投資を通じてどれだけ自分の普段の給与所得に副収入として上乗せできるか、将来の富の蓄積ができるか、絶好の経験機会でもあるのです。

私の会社は数多くの事業をしていますが、安定的に成長しているのはマリーナ事業でこれが会社のキービジネスです。ところがセグメント利益でみると2番目は投資事業でこの二つで会社の2/3の利益は稼いでいます。しかも投資事業のうち損益計上に関してソフトバンクのように未実現利益を決算に上げず、実現利益のみ計上しています。よって実際には投資事業に頼るところは大きいのです。

私の投資術は人が見向きもしないとき、もう駄目という空気が蔓延しそれが最高潮になった時を探るようにしています。ダメという世論は健全な企業や人の心理も下押すことはしばしばあります。あるいは弱気になりやすいこともあります。最近東京で2つ不動産を購入できたのも売り手が弱気であったことも手伝っています。

ということは買うべき時に買える資金を常に持ち合わせていることは特に重要なのです。今回、ソフトバンクの決算発表で孫氏が当面は自分の資金で投資活動を継続できる、と述べています。これは恐ろしく強いポジションなのです。ソフトバンクGの株価も孫氏の期待通りになっていない、と述べています。上がらない株価に対して専門家は様々な講釈をつけ、国内では売り圧力が強すぎるのです。

仮に孫氏が東証の上場を廃止してナスダックあたりに鞍替えしたら株価は今の1.5-2倍ぐらいになってもおかしくないとみています。彼はインキュベーターとして面白いところをたくさん押さえています。その点からは孫氏が投資家として誰にもまねできない鋭いセンスを持ち続ける以上、成長できるでしょうし、逆に彼が引退する時は会社の分社を含めた解体的再編が必要になるはずです。

孫氏はデジタルに長けたビジネスマンですが、その才能はアナログであり、クローン人間を作ることは現代では不可能であります。ウォーレンバフェット氏の投資の神通力がこの数年、落ちているのは自明でありますが、投資という刺激だらけの世界はスポーツの世界で引退時期があるようにいつまでもできる代物ではなく手腕が求められるということです。

とすれば我々が投資をするにも「人から勧められた」「わからないから投資信託」「雑誌や講演で上がる聞いた」といった受け身(パッシブ投資)ではなく、物言う株主のようにもっとアクティブに投資の本質を考えていき、自分のセンスを高めることが大事だと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月18日の記事より転載させていただきました。