ビットコインをはじめとした暗号資産の相場が崩落しました。下落率も2割3割は当たり前でドージコインに至っては一日にして一時、半値をつけるほどの荒い動きになっています。大きな転換点を迎えたのでしょうか?
暗号資産の相場についてはイーロンマスク氏の言動に振り回された感が強いと思います。一時は煽り、テスラ車もビットコインで買えるようになる、と言ってみたら、突然、ビットコインでのテスラ取引はないと発表します。挙句の果てにビットコインの採掘はコンピューターの電力消費量が極めて大きいため、環境負荷が大きいと、ずっと以前から分かっているにもかかわらず、今更、当たり前のことをさもありなんと述べました。影響力ある人の言動が如何に市場を揺るがせたか、ということになります。
今回の暴落は中国当局の暗号資産に対する規制強化の発表ですが、暴落の後、再びマスク氏がビットコインへの支持をして価格が戻り基調にある状況です。
暗号資産信者は環境問題も各国政府などからの圧力が強いことも分かっているにもかかわらず、今まで見て見ぬふりをしているかもしれません。私には暗号資産信者がさまざまな逆風の向こうに光明があると信じているように見えます。
カナダで事実上世界初のビットコインETF(上場投資信託)ができたのが今年2月。私も上場して2日目ぐらいにごくわずかだけ相場を体感するために購入しました。ただ、私のように株式相場に長い者にとってビットコインの相場付きは居心地が悪かったのです。一体、いくらが正しい相場なのか、まったく見当がつかず、まるで空中で座布団に座っているみたいで孫悟空のように上に登れるのか、重力任せで落ちるのか、それこそ雲をつかむような話でした。結局、相場が6万㌦を越えた頃、神の声が聞こえてきたので全量売却、後から見ればまぁ、うまいタイミングだったと思います。
暗号資産はもう少しポピュラーになるのではないか、ひいては金(ゴールド)の代替資産にすらなりうると昨年暮れぐらいからささやかれていたのはご承知の通りかと思います。私もそれを否定しなかったのですが、ある時確信をもったのです。暗号資産はやっぱり盗まれたり、悪用される可能性がある、と。
先日、ロシア系ハッカーがアメリカのパイプラインをサイバー攻撃した際、このパイプライン会社がその身代金を暗号資産で支払ったとされます。暗号資産は基本的に取引履歴が分かるのですが、ビットコインをベースに複数の暗号資産を絡ませてたりしてわかりにくくしていると思われます。また北朝鮮が暗号資産のハッキングで暗躍していることはよく知られています。かれらが使う手法の一つにピールチェーンがあり、一つの口座から少額ずついくつもの口座を介して取引することで実質追跡不可能にするのです。つまり悪事で利用されやすいともいえるのです。
そこで私は明白な考えに至ったのです。暗号資産は金(ゴールド)の代替資産にはなりえない、と。ご承知の通り、金のデメリットは実物を持ち運んだり、それを保管するのが大変だ、ということです。しかし、それは逆に盗みにくいし悪用しにくいともいえるのだと。それ故、政府紙幣の代替ができると思われるのは現時点でやはり金なのだろうと考えた次第です。
事実、金の相場は上昇しています。暗号資産の相場が崩れた5月19日、金相場は一時1900ドルの手前まで上昇しています。一時期は1700ドルを割りましたが、チャート上、絵にかいたような美しいW底をつけた時点で上昇が見込まれていました。私もその頃、1900ドルはあり得ると申し上げました。
では暗号資産の行方はどうなるのでしょうか?私にはわかりません。上述したように空中に漂っているのが暗号資産相場だからです。では、仮に通貨として利用可能だとしましょう。暗号資産相場がこれほど上下すれば商品の売り手ないし買い手は必ず相場変動による損益が生じてしまいます。これを良しとするでしょうか?
外国為替を実際の貿易取引で考えてみたらお分かりになると思います。一般の方は外国為替はFXという画面上の相場ゲームだと思っているかもしれませんが、貿易の実務からすると為替ほど面倒なものはないのです。私は日本からカナダに書籍の輸入業務をしていますので当然、その相場に振り回されます。大きな取引であれば為替リスクをヘッジすることも可能ですが、弱小ゆえに結局、ほぼ裸で相場勘だけでビジネスをしなくてはいけないのです。しかもビジネス用決済ですから長く待てません。
仮に暗号資産が世界で普及するなら一つしか方法はありません。裏付け資産がしっかりしていて相場が振れないこと、これが最低条件だと思います。たとえば一応裏付けがあるとされる暗号資産テザーの相場は安定していて相場があまり動きません。中国政府やEUが考えているデジタル通貨も当然、裏付け資産があるし、日本の金融機関が既に開発済み(実用化はまだ)の暗号資産も裏付けがあります。となればビットコインは暗号資産の過渡期の代物になる可能性はあります。
50年後に孫に「おじいちゃんはねぇ、昔、ビットコインを持っていたんだ」と自慢するのでしょう。「おじいちゃん、そのビットコイン、見せてよ」と言われたらほらとスマホのデジタル通貨の画面を見せるのでしょうか?あまりにも実感がわかない会話になりそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月20日の記事より転載させていただきました。