東京オリンピック開催可否:まず整理すべき4つの論点

奥澤 高広

voyata/iStock

こんにちは、

東京都議会議員町田市選出

無所属 東京みらい おくざわ高広です。

さて、先日のNEWSおくちゃんねるで取り上げた「オリンピック・パラリンピックの開催の是非」について、ブログでも取り上げていきます。

※動画の後半では、このブログでは触れていない小池知事の言動の変化についても触れています。チャンネル登録の上、是非ともご覧ください!

論点① 契約の問題

まず、IOC(バッハ会長)、東京都(小池知事)、組織委員会(橋本会長)、国(菅総理)の関係性をしっかりと押さえておく必要があります。

東京2020大会の開催にあたっては、それぞれの権利や義務などを記載した開催都市契約を締結しています。元々は、2013年にIOC、東京都、JOCで締結し、その後組織委員会が発足した後に、組織委員会も加わっています。国は、この契約には入っていませんが、後ほど論点②カネの問題の部分で関係してきます。

当然のことですが、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうとは誰も思っておらず、この状況を解決する内容はありません。では、どの条項をもとに考えを深めていく必要があるのかといえば、66条に「契約の解除」があります。

簡単に言うと、戦争や内乱など参加者の安全が脅かされる場合には、IOCは大会を中止できる。逆に、中止の権限は東京都や組織委員会はもっていない。

一方で、大会が中止になった場合には、IOCを無害に保つ(損害賠償請求されたりしたら補償する)ことが東京都と組織委員会に義務付けられています。

中止や延期などで、違約金は発生しませんが、上記のような状況を評して、「現代版不平等条約だ!」との指摘もありますが、私もまったくそのように思います。

論点② カネの問題

これを踏まえて、カネの話もしなければなりません。上述の「IOCを守る」ために莫大なお金が必要になるかもしれない、ということとは別に、中止した場合には確実に赤字が発生するものがあります。

上表は、大会経費V5に記載された組織委員会の収入項目と金額です。組織委員会は、東京2020大会の運営を行う組織ですが、スポンサー収入などで運営しており、収入が減れば赤字が発生してしまいます。

もし大会が中止となった場合には、チケット収入900億円が入らなくなることは分かるかと思いますが、加えてIOC負担金850億円についても、入らなくなる可能性が高いです。というのも、IOC負担金は放映権などによってIOCが得る収入から組織委員会に入るものですから、中止となればそもそもIOCに放映権収入が入らないという状況になるためです。

また、スポンサーについては、おそらくイベント保険などが適用されることや、企業イメージを考えて損害賠償等にはならないだろうとの見方はありますが、それぞれの企業との契約については私たち都議会議員にも知りえない情報であるために、どうなるかは見通せていません。

しかし、少なくとも、チケット収入&IOC負担金=1,750億円は収入が減る見通しです。

では、支出はどうかといえば、都議会オリンピックパラリンピック特別委員会が開催された今年2月時点で、すでに50%以上の金額が支払われており、また、先日の組織委員会武藤事務総長のコメントによれば、

『中止にすれば無駄なお金を使わなくて済む』という意見がありますが、既に大会開催に向けて予算のほとんどを支出していますし、中止になっても契約上、支払わなければならないものもあり、節約にはなりません。

とのことであり、支出はほとんど減らすことができないということになります。あったとしても、コロナ対策として計上されている1,000億円程度ではないかと私はみています。

つまり、中止とした場合には、ほぼ確実に減る1,750億円と残るかもしれない1,000億円で、一部相殺されたとしても、数百億円~1,000億円以上の赤字が出る見込みといえます。

ここで、もう一つ重要な関係性が出てきます。それは、東京2020大会を誘致する際に提出していた「立候補ファイル」の存在です。立候補ファイルでは、

万が一、大会組織委員会が資金不足に陥った場合は、東京都が補填することを保証する。

東京都が補填しきれなかった場合には、最終的に、日本国政府が国内の関係法令に従い、補填する

とされていることから、組織委員会の赤字はまず東京都が補償しなければならないことになります。これは、都民の皆さんの税金が原資となります。

なお、延期の可能性についても探りたいというのが本心ですが、1年延期するごとに2,000億円~3,000億円の費用がかかるとみられており、難しいだろうと考えるところです。

論点③ コロナ対策の問題

実は、私は父はオリンピック選手を輩出した陸上のコーチ、母は走り高跳びの元日本記録保持者という、オリンピック一家で育ちましたので、なんとか開催されて欲しいと考えている一人です。一方で、昨年の延期が決まった段階から、「撤退戦」に入ったのであり、いかにリスクを減らして、成果(レガシー)を得るかというバランス感覚が大事だと、都庁職員との間では話していました。

そのような意味では、上述のような不平等な契約かつ資金面でもこれ以上引き延ばせない、また中止を求めるリスクは高すぎるということで、観客数を減らして開催することが妥当ではないかと考えてきました。実際に、数多くのスポーツイベントが観客数を減らして、感染対策をした上で今なお行われており、クラスターの発生もない状況を考えれば、十分に可能であると思ってきました。

しかしながら、4月に発出された緊急事態宣言においては、これまでの「密を避ける」方針から、「人の流れを抑える」方針へと転換してしまいました。人が移動すること自体を止めなければいけない状況下にあっては、東京2020大会の開催は無観客で行うか中止するかの2択になってしまいます。

人の流れを抑えるために、スポーツのみならず様々なイベントに一律で無観客や中止・延期を要請し、百貨店などの大規模施設に休業要請を行う状況下で、東京2020大会だけは開催することには到底理解が得られません。観客数については、6月に国内のスポーツイベント等の開催状況をみて決めるということで、特別扱いはしないとしていますが、すでに、東京2020大会のために都民や事業者の生活を抑制しているという批判の声や、実際に生活に支障をきたしている方々が多数いることをよくよく考える必要があります。

論点④ 医療の問題

もう一つ見逃せないのは、医療体制です。報道によれば、東京2020大会の運営において、医者200名、看護師500名を募集したとのことで、医療が逼迫しているとされ、ワクチンのうち手が足りないと言われる状況下での批判は大きいものです。

しかし、よく話を聞いてみると、大会を支える医者の方々は整形外科などであり、通常の医療において新型コロナ対応にあたる方々ではなく、実際に280名の応募があったとのことです。看護師については、看護協会との協議を行うと聞いていますので、この点について注視していかなければなりません。

また、真夏の大会ということで有観客で開催する場合には熱中症のリスクが高まります。観客数によって必要とされる医療体制も変わってくることが予想され、この点も丁寧な議論が必要です。

まとめ

先週時点で、35万筆を超える東京2020大会の中止を求める署名が東京都に提出されました。新型コロナに対する日本及び東京都の対応をみれば、そのような感情が強まるのは当然と言えます。一方で、今日お伝えしたような論点を整理していくと、中止することは別のリスクを高めることもご理解いただけると思います。

また、今日は書きませんでしたが、経済面のみならず精神面での回復のきっかけを得ることが難しくなるのではないかという意見もあります。これについては、不確定要素が大きすぎるので、今日は割愛します。

これから先、開催都市契約というかなり不平等な条件下で、協議を超えて、とてもタフな交渉が求められますが、私たち政治家は「開催か中止か」という議論ではなく、都民の皆さん、日本全国、世界の皆さんにとってより良い選択肢(ベストではなく、ベター)を見出していかなければなりません。都議会議員の私は、小池知事がそのタフな交渉に最後の最後まで、粘り強く臨むよう、後方から見守らなければならないと考えています。

これからも、丁寧かつ多角的に東京2020大会をめぐる議論に臨んでいきます。