止まらない官製談合:犯罪の背景を読み解くことが重要

官製談合防止法での摘発が相次いでいる。19日にも、こんなニュースがあった。何度も繰り返し聞いたような話だ。

去年、糸魚川市が発注した公衆トイレの整備工事の入札を巡り、事前に工事価格を業者に教えて落札させたなどとして、糸魚川市の48歳の係長と建設会社の営業担当者が官製談合防止法違反などの疑いで19日夜、警察に逮捕されました。

筆者はこれまでに数回、官製談合関連の論考を書いてきたが、改めてこのトレンドをどう説明したらよいのだろうか、を考えてみる。

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最近特に目立つのが、価格に関する情報漏洩である。特定の業者を意図的に排除する入札参加資格の設定とか、指名業者選定に係る恣意的な操作のケースもあるが、情報漏洩、それも発注者側の積算価格に関する情報漏洩のケースが、報道に接する限り、大半を占めている。

ただこの価格に関連する情報には二つのタイプがあることに注意が必要だ。一つは業界の中で競争が激化し、値段が下がり切っている状況での情報漏洩だ。この場合、最低制限価格という下限価格(それ未満の入札は失格になる価格)付近での受注を目指して競争しているから、その設定された額を行政から聞き出せばその業者の受注の可能性が格段に高まる。そこで、特定の業者と行政職員の癒着という構造が見えてくる。警察は、この特定の人間関係の中での接待とか金品の授受とかを狙うことになる。

もう一方が、予定価格付近での受注を狙っての情報の受領だ。この場合は競争が激しくなく、業界で談合構造が成り立っていることが推測される。その仕切り役が行政の幹部や担当者から情報を聞き出し、それを元に業者間で調整するというものだ。この場合、個別の入札に関する金銭の授受といった不正には結び付きにくい。どちらかというと「官民間の長年の付き合い」だからだ。金銭の授受があるとすると、それは相当長期間の、それも中枢に至る癒着の構造が疑われる。

手口は複雑である。談合構造に反発する業者、除け者にされている業者に入札参加資格を与えないように発注者が恣意的に操作することもあり得る。アウトサイダーが応札する場合には他の業者が意図的にダンピング受注し、割りが合わないと諦めて入札に参加しなくなったらまた高値受注をするといった「いじめのような慣行」を聞いたこともある。この場合、指名業者や応札業者の名前を行政が漏らしているのだろうか。行政が協力すれば「何でもあり」になる。

談合が行政にとって高くつくならば反発するはずだが、談合を見て見ぬふりをする行政も少なくないように思う。何故か。例えば、次のような理由を挙げることができる。

第一に、談合による高値受注よりも業界の安定を優先しようとするマインドが行政の一部にあるからだ。業界が安定すれば公共の事業も容易になる。そう考えているのだろう。行政が業界に協力的であれば、安定受注の見返りに、行政に何か不都合な事態が生じたときに業者は「うまい具合に」対応してくれる。地元でのトラブルなど予想外の出来事に柔軟に対応できるのは行政の方ではなく、民間の方である。「貸し借り」がないと頼めるものも頼めなくなる。談合がないと困るのは行政である…そんな本音がどこかにあるのではないか。

第二に、計上された予算を有効利用しようという発想が足りないからだ。それは自分のポケットマネーではないので、予算を目一杯使用することに抵抗感がない。一昔前は、予算は計算されたものなのだから全部使うのは当たり前という感覚すら行政にはあった。行政にとって計画は無謬でなければならないようだ。そんなことは「決して」ないはずなのだが。

当初契約では低入札価格で落札しておいて、その後、設計変更、契約変更によって「埋め合わせる」、そういった受発注者間での結託のケースに注意が必要だ。契約変更でどれだけ金額が変わったか、そしてそれが適正な根拠に基づくものなのか、ここに注目である。「入札」ばかりに目を奪われると悪質な不正は見抜けない。しかし、このようなケースは多くの場合、「入札の公正」を害すべきことを禁じる官製談合防止法の射程外となるだろう。刑法典であれば背任の射程に入るものだろうが、立証は大変だ。立法論として、公共契約における不正な操作に関する罪の創設は一考に値するのではないだろうか。

公共契約について警察向けの研修をする場合でも行政向けの研修をする場合でも、私は官製談合防止法の射程の広さを強調するだろう。官製談合防止法において罪となるのは「入札等の公正を害すべき行為」である。秘密にすべき情報の漏洩は形式上、これに該当する。判例の傾向を見ると、競争の結果に重大な影響を与えなくても、競争手続への信頼を害することそれ自体で、この「公正を害す」るとの認定がなされているようである。手続違背、即犯罪という運用がなされてもおかしくない状況にある。そもそもどのような情報が秘密にされるべきで、あるいはそうでないか微妙なものも少なくない。警察にとってはとっかかりとして「狙い目」であり、行政にとってはひたすら「脅威」である。地方自治体の幹部職員には業界との調整に長けた人が少なくないが、そういった「遣り手」ほど、リスクが高いともいえそうだ。射程の広すぎる犯罪の存在は、法の支配という観点から決して望ましいこととは思わないが、それが現実である。