お金は人を幸せにするか?

お金は人を幸せにしますか、という質問に対して私は瞬間にお答えします。幸せのの一部ではあるかもしれないけれど本当の幸せにはなれません、と。

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何でも買えるという消費意欲は一部の人の満足感を満たすかもしれませんが、それは食事をしたときに満腹中枢が壊れるまで食べるのと同じようなものではないでしょうか?YouTubeで大食い系のビデオがたくさん流れていて、こんなに食べられるのかな、と思ってみていると基本的に流し込んで早く食べるところにコツがあるように見えます。そしてチャレンジしている方々は初めの数分は「おいしい」とコメントするのですが、そのうち、ひたすら食べ、苦悩に満ちた顔になり、最後、食べ終わった時に達成感の顔をします。しかし、一般の人は満腹なのに更に食べろと言われたらNOというでしょう。

これはお金持ちになる過程でも同じで、今の生活よりちょっと上向いたときの幸福の「効用」(経済用語で主観的満足の度合いのこと)が最大でそのあと、満足度は下がっていきます。わかりやすい例で言うとビールを飲んだとき、初めの一口目はめちゃくちゃうまいけれど3杯、5杯と重ねていくとあとは惰性なんです。これを「効用が下がっている」と経済学では言うわけです。

給与所得者が年に一度、給与明細を見るのが楽しみな時があります。それはベアアップで同じ仕事をしていても給与が数千円上がっていたりするわけです。この満足度は高いはずです。安倍さんが首相になってベアが上がり、2018年に0.45%まで行ったのにその後、急落して21年はゼロ。もしも景気を良くしたいなら景況という言葉があるように個人所得の効用を最大限にすることがベストの方法です。

では近年、株成金、ビットコイン成金などにわか「金満長者」が出てきていますが、その人たちは幸せなのでしょうか?私も株を長年やっていますので当然、儲かった、損をしたを繰り返しているのですが、仮に大きく儲かって売却しても「この株はこれでゲームオーバー。僕の勝ちでした」で終わりなのです。口座の残高は増えるけれどそのお金が自分の懐に直接入るわけでもなくそれを元手に更に投資をする方が多いと思います。儲かって美酒に酔うケースはよほどの時ではないでしょうか?淡々としています。そうなると一種の作業で、幸せのかけらもないのです。

もちろんお金はあればそれに越したことはないですが、ベーシックプラスアルファぐらいあれば全然暮らせるし、問題はそのお金をどう使うか、それの方が大事だと思います。カナダにいるとお金を使わなくてもいろいろ工夫して幸せになれることはあります。自転車に乗り、ハイキングに行くのにさほどお金はかかりません。雪山でスノーシューで遊ぶなら高いリフトの代金はいりません。

私の知り合いはクラッシックカーを現役の車として維持するため、あちらこちらから部品を集めてきて自分で直して乗っています。私の会社の従業員の一人は家を直すのが大好きで何年もずっと改築し続け、時間が余ると他人の家の修理をしています。彼はその謝礼にビールやウィスキーを貰ってほくほく顔なのです。女性の方は料理や園芸もあるのでしょう。幸せとは自分の好きなことに没入したり親しい友人や家族と大河のごとくゆるやかに流れる時間を共に過ごすことかもしれません。お金はそれを媒介するかもしれないけれどそれが第一義ではないのです。

ではお金が全然なくても大丈夫か、といえばそこまで私は言い切る自信はありません。上述したような「ベーシックプラスアルファのお金」のうち、プラスアルファをいくらにするのか、ここだと思います。例えば既に持ち家で子供も大きくなっていて、とりあえず健康であればアルファの部分は割と少なくても大丈夫かもしれませんが、生活が不安定であったり健康上の問題を抱えていたりすればアルファは大きめになるでしょう。

では具体的に金額を述べよ、と言われたらどうでしょうか?私の場合、一定の年齢になると日本の国民年金、厚生年金とカナダの年金が入るので25万円/月程度は貰えそうです。現在、私がつけている計簿上、この10年、月3000㌦(=24万円)の予算で食費から住宅の管理費、光熱費まで全部やりくりできているので計算上、プラスアルファはなくても生活は維持できます。いざという時の出費を補うのがプラスアルファが貯金でこれも人並みにはありますので私はお金に執着しなくても全然大丈夫なのです。

若い層に年金を馬鹿にしている方がいらっしゃいます。そんなもの、自分がその年齢になったらもらえないだろう、と。それは払わない自己勝手な理由です。65歳でもらうか、75歳になるのか、それは知りません。ただ、平均余命が100歳ぐらいになりつつあることを年金を馬鹿にする層は忘れています。年金の仕組みとは今、株やビットコインで一時的に儲かるよりもずっと安定的に貰える点で我々を幸せにすると思います。私の老後の幸せ設計もこの年金があるからこそ、ともいえるのです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月23日の記事より転載させていただきました。