日本は「重装備平和主義」をスイスに学べ --- 並木 浩一

日本の防衛戦略が目指すべき道は「重装備平和主義」にほかならない。もうすこし直截にいえば、重武装平和主義ということだ。すなわち火器・航空機・船舶や人的資源を含む「防衛力」の最大化・最適化こそが、日本国憲法の基本原理をなす「平和主義」ともっとも適合する。

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平和主義という言葉は、まさに「武装」に反対する人々によって好んで使われがちである。素手で、無防備でいること、いかなる場合にも攻撃も反撃もしないこそが平和である、我が国の平和を保つことであるという幻想を、我々はどれだけ聞かされてきただろうか。しかしいま我が国の自衛力を低下させる、武装のレベルを下げれば、日本はたやすく侵略される国になり下がる。

無抵抗の平和主義を殊更に言い立てる人々の頭の中にある、ひとつの理想が「永世中立国スイス」であろう。どこの国にも与せず中立の立場を保つ、のどかで牧歌的な国は、第二次世界大戦の戦禍すら逃れたではないか。いまもハイジが住んでいそうに思われたその国は、しかしそのような甘い先入観を断固拒否するだろう。 スイスは正確な言い方をすれば、間違いなく「重武装永世中立国」なのである。

小学校の社会科で学んだ知識では、永世中立国は戦争をしない国であるという誤解を生みがちだ。しかしスイスは間違いなく、戦争ができる国である。他国間の紛争に対して中立なだけで、永世中立は「非武装」でも「不戦」でもない。スイス自身は、攻められれば徹底的に反撃する、しかも重武装の国である。

なによりスイスはいまも、事実上の徴兵制を守る、欧州でも数少ない国である。いまでこそ社会奉仕で代替できるようになったが、過去には何千人もの男性が、兵役拒否で刑務所送りになってさえいる。そしてスイスは腕時計や薬品だけでなく、品質の高い武器の生産にも定評がある。

知るべきは第二次世界大戦時のスイスである。ヨーロッパ戦線の終結まで、スイスは枢軸国に常に脅かされていた。ベルギーは同じく中立国であったはずなのだが、ナチス・ドイツはまったく意に介さず全土を占領した。そのドイツにとって、同盟国イタリアとの間に挟まるスイスは、のどから手が出るほど欲しい次の標的であった。

スイスを守ったのは、スイス軍最高司令官アンリ・ギザンの強硬な作戦である。40万人以上の民兵を動員した防衛計画「レドゥイット・プラン」を策定し、国中に防衛線を張り巡らせ、有事には徹底抗戦する構えを見せた。さらにドイツ語圏スイスとイタリアを結ぶ天然の険地ゴッタルド(ゴットハルト)のトンネルを自爆させるという予告をし、ナチス・ドイツを牽制した。非常に厄介な“重武装永世中立国”は、スイスを攻めれば、スイスを欲しがる最大の理由を焦土化、無力化すると逆の脅しをかけたのである。

それだけではなくスイスは対戦中、領空を侵犯する軍用機を枢軸国・連合国の別なく、片っ端から攻撃・撃墜した。それこそが揺るがない“永世中立”の姿勢そのものなのである。いまも自身を脅かす国があるとしたら、何度でもスイスは同じことをするだろう。だからこそ重武装永世中立国スイスは、いまも平和である。

振り返って日本のことを考えてみよう。取り囲む国々から狙われ、固有の領土を不法占拠され続ける国が取るべき途は何だろうか。我々の平和を守ること、国是の平和を守ること。そのためにこそミサイルは配備すべきであり、水陸機動団が望まれ、護衛艦「いずも」の改修が必要なのである。我々の平和を脅かすものがあれば、どれだけの代償を払わなければならないのかを、伝えなければならない。

日本よ、平和主義を守れ。そのためにこそ重武装せよ。我々の生きる道は、重装備平和主義にある。

並木 浩一 桐蔭横浜大学教授、博士。
1961生まれ。神奈川県立希望ヶ丘高校、青山学院大学、放送大学大学院修了、琉球大学大学院中退。京都造形芸術大学大学院博士課程修了。ダイヤモンド社編集委員を経て2010年に大同大学教授、2012年より現職。2017年には希望の党より衆院選出馬(比例九州・沖縄)