恵まれている日本のワクチン接種

筆者は現在、タイのバンコクに住んでいる。昨年3月にタイでロックダウンが始まって以来、タイへの再入国時に2週間の隔離検疫や高額なコロナ保険への加入が課されたために、日本への一時帰国もなかなかできないまま、もう1年以上が経ってしまった。

その間、タイ国内でも第2波、第3波とコロナの感染拡大が続いてきたのであるが、ここにきてやっとタイでもワクチン接種が始まった。しかし、日本もタイもワクチン接種の普及が欧米に比べるとかなり遅れていることから、どちらの政府もワクチン接種に必死である今の状況は似たようなものだ。

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しかし、日本のニュースなどを見ていると、高齢者が我先にとためらわずにワクチンを接種したがるのに比べ、タイ国民やタイ在住の外国人には温度差がある。というのも、タイで現在接種可能なワクチンは、有効性が50%しかないといわれる中国のシノバックだけだからである。

先日、現地のオンラインニュース、カーウソッドで「シノバックジレンマ」と題してこんな内容のコラム記事が掲載されたが、中国製ワクチン、シノバックしか手に入らなかったタイ政府の今の難しい状況をよく表している。

プラユット首相は今、コロナの対応に関して二重の困難に直面している。一つは感染拡大が危機的状況になる前に十分なワクチンを調達することであり、もう一つはタイ国民にシノバックは十分安全で効果のあるワクチンだと納得させることである。(カーウソッドより)

また、現地のSuan Dusit Rajabhat Universityがタイ人2,644人に対して行ったアンケート結果では、64.39%が政府のワクチン接種プログラムを受け入れる、13.31%が断る、22.3%が未決定とのことで、やはり日本に比べればワクチン接種に対して温度差があることがわかるが、これにはシノバックに対する不信感もかなり影響しているものと思われる。

実際、このアンケートによると、タイ人が接種したいと思うワクチンの人気順位は、1位ファイザー(75.11%)、2位モデルナ(72.14%)、3位ジョンソンアンドジョンソン(68.52%)、4位アストラゼネカ(65.89%)、5位スプートニク(61.89%)ということで、誰もシノバックでいいとは答えなかったとのこと。

ところで、日本ではファイザーのワクチンだけでは間に合わないので、政府が急遽モデルナとアストラゼネカの2つのワクチンを特急で認可したところ、5月23日には早速モデルナが到着したということであった。また、アストラゼネカについてはごくまれに血栓が発生する問題があることから、今後接種方法について検討していくそうで、余裕さえ感じる。

なんだかんだいいながらも、先進国としての権威と資金力のある日本は世界で最も信頼できるワクチンを比較的容易に入手でき、少し時間はかかっても無料で国民に接種できるのを見て、タイに住む筆者などは、日本はやはり恵まれていると思った次第である。

また、ASEAN諸国の中でも一人当たりGDPが先進国と肩を並べるシンガポールは最初からファイザーを国民に接種しているが、まだまだ中進国の域から抜け出せていない、タイ、インドネシア、フィリピンなどはシノバックを購入していることから、こんなところでも国の経済力の違いを垣間見ることになる。

ところで、EUでは7月1日から5つのワクチン(Pfizer, BioNTech, Moderna, AstraZeneca, Johnson & Johnson)接種証明書のどれかを持っていれば、EU域内27ヶ国を自由に往来できることが決まったが、EU外のアメリカ人観光客も同様にこのワクチンパスポートを持っていれば、EUに隔離検疫なしで入国できるようになるということだ。こうやって世界ではワクチンパスポートが広がるにつれて、観光産業も復興し始める。しかし、シノバックはこの対象に含まれていないし、現時点ではWHOの認可も取れていないのである。

従って、タイに住む欧米人の多くはシノバック接種に消極的で、有料でもいいのでファイザーやモデルナのワクチンの接種ができるようになるのを待っている状況である。

筆者もそうだが、彼らにしてみればシノバックに対する不信感だけでなく、将来EUや北米等の先進国間でワクチンパスポートによる検疫なしの往来が広がっていく中で、シノバックの接種証明書が認められず隔離検疫となるリスクを考えると、やはりEU、アメリカそして日本などの先進国が共通で認可しているワクチンの接種証明書が欲しいのである。

ただし、タイの場合はそう暗い話ばかりではない。以前このサイトで「タイ政府、英アストラゼネカの技術移転でコロナワクチン国内生産へ」と題してタイのサイアムバイオサイエンス社を紹介したが、いよいよ量産体制に入ったアストラゼネカのワクチンが、6月か7月にはタイ国内で出回り始める予定である。そうなれば、タイでも世界で通用するワクチンパスポートが入手できるようになるので、もう少しの辛抱だ。