オリンピックを決行するなら緊急事態宣言をやめよう

文春オンラインに掲載されたIOC(国際オリンピック委員会)のディック・パウンド委員のインタビューが大反響を呼んでいる。文春によると、彼はこう発言した。

パウンド委員(文春オンラインより)

――日本の世論調査では今夏の開催に8割が否定的だ。

「昨年3月、延期は一度と日本が述べたのだから、延期の選択肢はテーブル上に存在しない。日本国民の多くが開催に否定的な意見であるのは、残念なこと。ゲームを開催しても追加のリスクはないという科学的な証拠があるのに、なぜ彼らはそれを無視して、科学的なことはどうでもいいと言うのか。ただ『嫌だ』と言っているだけではないのか。開催したらきっと成功を喜ぶことだろう」

日本人だったら、開催を強行できる立場だったとしても「ご理解をお願いしたい」とへりくだるところだが、世界中の政府から陳情を受けるIOCの辞書には「謙虚」という言葉がないようだ。しかしIOCには、一方的に開催を強行する権限があるのだろうか。

――日本の首相が中止を決めた場合はどうするか。

「私が知っている限りでは、日本政府は非常に協力的だ。五輪の開催は、日本の当局、日本の公衆衛生当局、そしてオリンピック・ムーブメント(IOCなどの活動)が共有している決定だ。仮に菅首相が『中止』を求めたとしても、それはあくまで個人的な意見に過ぎない。大会は開催される

これは誤りである。菅首相が中止を求め、内閣が「競技場の使用を禁止する」という閣議決定をしたら、それをIOCがくつがえす方法は行政訴訟しかないが、裁判所が政府の敗訴という判決を出すことはありえない。

東京都とIOCの契約は、当事者の一方が破棄したら無効になる。政府が開催を拒否したら、東京都は破棄するしかない。これはどんな契約でも同じだ。IOCが単独でオリンピックを開催することはできない。「大会は開催される」などというのは思い上がりである。

IOCが日本政府に国家賠償を求めて訴訟を起こすことはできるが、それも日本の裁判所に起こすしかない。感染症の被害を防ぐための内閣の正式決定に対して、裁判所が国家賠償を認めることは考えられない。

IOCは主権国家を超える存在ではない

IOCは条約にもとづく国際機関ではなく、何の法的根拠もない国際スポーツ同好会にすぎない。それが腐敗しており、JOCの竹田恒和前会長が東京オリンピックの誘致のためにIOCに巨額の賄賂を渡したことも周知の事実だ。そんな組織が、主権国家を超える権限をもつはずがない。

IOCに可能な唯一の報復は、今後オリンピックやパラリンピックの開催を日本に認めないことぐらいだが、今やオリンピックは数多くの国際スポーツ大会の一つにすぎない。日本政府には何も失うものはない。

しかし世界的にみると、日本のリスクが小さいというパウンド委員の評価は正しい。日本のコロナ死亡率(100万人あたり)は0.7人と、ワクチン接種で感染が減ったアメリカやEUの半分以下だ。「日本のリスクは小さいから開催する」というIOCの見解を菅政権が認めるなら、それと同じ基準で国内の規制も改めるべきだ。

海外から8万人が入国して、未知の変異株を大量にばらまくリスクを政府が容認するなら、デパートや映画館の営業を制限するのは論理的におかしい。緊急事態宣言を続けたまま、オリンピックを開催することはありえない。オリンピックを決行するなら緊急事態宣言は解除し、ハイリスクの外国人や高齢者だけを隔離する政策に移行すべきだ。

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