韓国の文在寅大統領の任期が1年を切った。同大統領が願っている米朝、南北首脳会談の再現の可能性は限りなくゼロに近い一方、国内の政治・経済状況は限りなく厳しい。米韓首脳会談では北朝鮮の核問題への両国間の連携を確認したが、文大統領の本来の願いは米朝首脳会談の調整役を演じることで、任期満了、退任前にもう一度花を咲かせることだが、現時点ではそれも難しくなった。バイデン大統領はトランプ前大統領とは明らかに政治スタイルが異なる。バイデン氏は外交と対話を通じてじっくりと取り組む姿勢を見せている。
一方、バイデン大統領は文大統領から対中包囲網の一員であるという言質を取れば、米韓首脳会談の成功と考えていたはずだ。首脳会談後公表された共同声明の中に「台湾海峡の安定」や「クアッド(日米豪印4カ国の枠組み)の重要性」などが盛り込まれていることから、バイデン氏にとって及第点を付けることが出来る首脳会談となったはずだ。
文政権は就任当初から「反日」路線を突っ走り、その結果、日韓関係は戦後最悪の状況に陥った。対中政策では揺れが大きい。文大統領は今回、台湾海峡の安定を明記した米韓首脳共同声明文を承認したことで、韓国が対中包囲網の一員であることを米国側にアピールしたが、文政権の路線変更というより、その場しのぎ、といった印象が強い。中国側は韓国が対中包囲網に入ることを黙認しないだろうから、これから様々な外交、経済ルートを通じて韓国に圧力をかけてくることは間違いない。その時、韓国側が対中政策で日米の一員として留まることが出来るだろうか。文政権にとって大きな試練だ。
ところで、文政権は今、もう一つの試練に直面している。韓国ソウルで21日、中国の情報工作機関「孔子学院」を暴露したドキュメンタリー映画『In the Name of Confucius (仮邦題:偽りの儒教)』の初上映会が開催されたのだ。映画では「孔子学院」の実態が暴露されている。中国側が映画上演を歓迎することはないだろう。
「孔子学院」は、中国共産党の対外宣伝組織とされる中国語教育機関だ。2004年に設立された「孔子学院」は中国政府教育部(文部科学省)の下部組織・国家漢語国際推進指導小組弁公室(漢弁)が管轄し、海外の大学や教育機関と提携して、中国語や中国文化の普及、中国との友好関係醸成を目的としているといわれているが、実際は中国共産党政権の情報機関の役割を果たしてきた。「孔子学院」は昨年6月の時点で世界154カ国と地域に支部を持ち、トータル5448の「孔子学院」(大学やカレッジ向け)と1193の「孔子課堂」(初中高等教育向け)を有している。
驚いたことは、海外中国メディア「大紀元」によると、「孔子学院は2004年、ソウル市に世界で初めて設立された。これ以降、韓国の大学や教育機関など28カ所で運営されており、その数はアジアの中で最も多い」というのだ。
「大紀元」の説明によると、映画はカナダの「孔子学院の元教師で法輪功学習者のソニア・ジャオ(Sonia Zhao)氏の体験をもとに制作されたドキュメンタリーだ。孔子学院には教師に対して特定の信条を禁止する中国共産党の規定がある。これは、カナダが保障する思想の自由への侵害にあたるとして、ソニア氏は2011年、人権裁判所に異議申し立てを行った。その結果、孔子学院による問題がカナダ社会全体の懸案として浮上。13年7月、マックマスター大学は世界で初めて孔子学院との契約破棄を決定した。映画は、カナダ・トロント教育委員会の聴聞会などを通じて、孔子学院の閉鎖にいたった過程を描いている」という。
映画の狙いは明らかだ。「孔子学院」の実態を暴露し、韓国国民に中国共産党の情報工作に対して警戒心を強め、大学に設置された孔子学院を閉鎖に追い込むことだ。欧米では既に多数の「孔子学院が」が閉鎖されている。それに続けというわけだ。
もちろん、中国共産党政権は韓国の「孔子学院」閉鎖への動きを静観しないだろう。その時、文大統領の対応が注目されるわけだ。習近平国家主席は2014年7月、韓国を公式訪問し、韓国を「親戚の家」と表現している。反日外交を推進する朴槿恵大統領(当時)を支援する目的で、初代韓国統監だった伊藤博文を暗殺した独立運動家の安重根の記念館を2014年1月、中国のハルビン駅に開館させている。中国は韓国を米国の対中包囲網突破の先兵に利用してきた(「中韓の『記念碑』と『記念館』の違い」2014年1月22日参考)。
その韓国が米国主導の対中包囲網に参加するようになれば、中国はあらゆる手段を駆使して圧力を行使することは目に見えている。必要ならば、土足で親戚の家(韓国)に入ってくるかもしれない。「孔子学院」問題は、文政権にとって「台湾問題」、「クアッドの連携問題」とは違った、もう一つのハードル(試練)となるかもしれない。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年5月27 日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。