インフルエンサーに騙されるな

人は誰でもある程度はインフルエンサー(影響力がある人)になりたいという願望がある気がします。ツィッターでリツィートされる、フェイスブックで何人と繋がっていることにちょっとした喜びを感じるかもしれません。リクルート社も出資するアメリカの中小企業家向けSNS、アライナブル(Alignable)には私も引きずり込まれたのですが、毎朝、確実にプッシュ型のメールが来て、何人があなたをチェックしているとか、何人からのメッセージが未読だとか、執拗にそこに誘導しようとします。私は冷徹に「削除」ボタンを押し続けています。

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ツィッターを自己表現の手段として使ったのがトランプ氏でした。通常、大統領の発言となれば報道官が様々な調整を行ったうえで発表するものですが、それにまどろっこしさを感じ、また報道機関が実際にそれを報じる時には政治色が付くことを嫌い、直接的に速攻でつぶやくことを就任期間、最後のアカウント停止時期を除き、ほぼ一貫して行いました。

「ツィッターインフルエンサー」役を見事に引き継いだのがイーロンマスク氏で仮想通貨でつぶやき、相場に波風を立てています。本業の自動車やロケットとは内容的に距離感があるからということもあるのでしょう。かつて「(テスラの)上場をやめる」とつぶやいたときは訴訟を起こされる始末でした。ただ、マスク氏は仮想通貨を全面的に支援するペイパル社の創業者の一人です。(今はもう株式を所有していないはずです。)そのあたりは意図してつぶやいているのか、単に気持ちの表れなのかははかり知れませんが。

YouTubeに出演する人も芸能人、有名人から一般人の方まで幅広くなりました。中にはプロ顔負けの知識や能力、才能をお持ちの方もいらして観る方からすれば思わぬ発見で「へぇ」と思わせるYouTubeはかなり増えたと思います。動画配信ですから当然、本人の顔も出やすいですし、トークは全面的に押し出され、私のブログなんか足元にも及ばない強いイメージを与え、好きになれば「チャンネル登録」すればいいし、そうではなくてもAIが最近見た番組内容に近いものをどんどん表示するので探すにも苦労しない仕組みになっています。

結局、視聴する側は否が応でもこのAI技術に侵され、ちょっと好きを積み重ねていけばいつの間にかはまっているという罠が待ち受けているのであります。つまり、ツィッターにしろ、フェイスブックにしろSNSやYouTubeは自分の気に入ったものが繰り返し、自分の前を通過していくため、それをチェックするのが常態化、ファンとなりやすくなるのでしょう。一方、発信側はその時点でインフルエンサーになりつつあるわけです。

恐ろしいのはツィッターやフェイスブック、インスタグラムと違ってYouTubeが画像メッセージとして確立され、かつ、お金を貰えるという仕組みである点でSNSとは圧倒的な違いを生み出します。発信者はあらゆる工夫をし、無理な取材も行い、時としてプロの取材を飛び越えるような驚きすら見せるのです。それが金稼ぎを理由とするのか、インフルエンサーになりたいのか、あるいはその両方かもしれません。

一昔前は個性がある人でもそれを発信する方法はあまりありませんでした。その点、企業や学校、団体などは統率を取りやすかったとも言えます。ところが萌芽ともいえる個性の開花で仮に社会人でも学校の生徒でも自分を表現し、公表し、それが支持される喜びを得ることができるようになりました。マズローの欲求五段階説の上から二番目、「承認欲求」が達成されつつあるということです。

承認欲求が高じるとどんな社会となるのでしょうか?多分、まとまりのないバラバラで小さな派閥がたくさん生まれる社会になる可能性があります。コアとなるインフルエンサーが数多くのフォロワーを従え、強い発言をする、そして政府や社会すら動かす、一方でそれを否定するグループが強い声明を出し、世の中が不和になることもあり得るでしょう。

つまり埋もれていた才能を引き出す道具としてのSNSやYouTubeは人間社会に極めて前向きの影響を与えた半面、その反動を我々は覚悟しなくてはいけないのだろうと思います。例えば大食いのYouTube番組を流しているインフルエンサーに対して十分な食事が出来なくて困っている人たちもいるという反論は当然ながら出てくるわけです。

株式や市場の個別案件についてあれこれ踏み込むと業として行っていないとして罰せらえることがあるほか、時として風説の流布で処罰されるかもしれません。「〇〇を食べると癌に効く」といった健康関係についても薬事法の問題やその効用がないにもかかわらず暴利をむさぼったとして時折、社会問題になりますが、そのような素地を作りやすいとも言えます。

とすれば我々視聴する側、あるいはフォローする側からすれば情報をうのみにしないこと、これに限るということでしょう。インフルエンサーに騙されるな、これが一つのキーワードになるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年5月30日の記事より転載させていただきました。