低成長とデフレの本当の原因は、日本企業にあった

知民 由之

一人当たりのGDPが韓国に抜かれ、デフレは止まらず、低成長は止まらず、さらにはコロナだと、フラストレーションの波状攻撃に襲われる中、それでも、日本企業は歯を食いしばって頑張っている。

da-kuk/iStock

日本企業は2000年から2020年までの20年間で、自己資本を332兆円から748兆円に416兆円増やした。

俗にいう、内部留保である。

しかし、その使い道は、株式・長期貸付金(主に子会社投資)を20年間で386兆円まで260兆円増やしており、2/3近くを子会社投資、特に海外の現地法人投資につぎ込んでいる。(なお、残りの1/3は借金返済と、そして確かに手元資金も厚くしている。)

企業は内部留保をため込んで、従業員に回さず、けしからんと言う姿ではなく、生き残りを掛けて、必死に、自分で稼いだ金で海外に活路を求めているのである。

ここで少し頭の体操、この自己資本の332と748という数字を40倍してみよう。

13,280と29,920という数字が出てくるが、これを日経平均株価だと思って眺めると、最近の日経平均上昇の最大の立役者が、この日本企業の自己資本の増加に因っているとの考えに至ることは、極めて自然である。

昔は、円安になれば輸出が伸びて景気も良くなって、確かに、リーマンショックの2008年までは、世界景気が良くなると輸出も伸びた。

しかし、リーマンショックを境として、黒田バズーカで70円台の円高が120円まで円安になっても、もう、輸出が伸びることはなくなった。

東南アジアの生産体制が整って、生産拠点が中国に大挙して移動したことにより、工作機械等の価格に関係なく日本でしか作れないもの以外は、海外で生産するようになった。

もちろん、解雇規制を始めとする日本企業に課されている6重苦も影響しているだろうが。

輸出数量指数で見ても、2019年にはピークから30%近く落ち込んでおり、もしかしたら、もう元には戻らないかもしれない。

主要企業の海外売上高比率を見ても、JT、ユニチャーム、ユニクロ等のコンシューマー・サービス産業が、大挙して、生産拠点を海外に移動している。

彼らには、もう、本社を日本に残して置く意味すら薄くなってきている。

その結果、どうなったか。

日本企業が海外で雇う海外現地法人従業員者数がうなぎ上りである。

2018年までの10年間で、海外現地法人従業員者数は153万人増加した。

この人たちは、日本国内なら、みんながあこがれる超優良企業で“職”を得た、幸せな人たちである。

ちなみに、鳥取県人口57万人、島根県人口69万人、日本にとって153万人の雇用のインパクトは甚大である。

もし、これらの職が国内で創出されたら、日本のデフレとか低成長を始めとする閉塞感は、随分ちがったものになっていたであろう。

最後に一つだけ、明るい話題を。

実は、これだけ、日本企業が海外投資を増やしても、まだ、世界レベルで見ると、はるかに上がいる。

日本の対外直接投資残高のGDP比率は ’18年までの10年間で10%増やして33%まで増加したが、世界の大家さんである、前覇権国イギリスは77%であり、まだまだ、日本も頑張れる。

リーマンショックの2番底に世界がおびえた2010年、藻谷浩介氏の「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く (角川oneテーマ21)」がベストセラーとなり、日本人誰もが日本のデフレは日本の人口動態による宿命であると納得した。

しかし、実際には世界の覇権国が過去に経験した運命をたどっているだけだと今わかった。

これからは、成熟国として、日本国内に住んでいる人が、どの様に生きていきたいのかをよく考える必要があるのだろう。