中国経済が抱える巨大なリスク

中国経済は果たしていつまで持つのか?

このテーマは隣国である日本にとって、無縁ではいられない極めて重要かつ切実したテーマです。政府・与党としても、様々な要素を的確にとらえ、どのような仮定の下でどうなるのか、そして日本として、そこにどのように対応すべきなのか、きちんとしたシミュレーションを常に行っておくべき問題です。

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その意味で、中国の脆弱性という観点からは、次の4つのポイントにまとめられると考えられます。

① 資本規制や通貨制度の自由化を行った場合の人民元の動き
② 少子高齢化に伴う人口・社会保障・財政問題にどのように対処できるか
③ 国営企業関連の不良債権を事実上の隠れ政府保証により国有銀行等を通じて糊塗してきたものを今後どうするのか、また個人の所有する事実上元本保証されてきた莫大な理財商品等をどう処理するのか
④ 大都市を中心に異常に高騰している不動産バブルの処理をどのようにするのか、の四点です。

キーワードだけここに書かせていただければ、

①については、これまでの通貨・資本規制の「自由化の不徹底」、「制御可能な匿名性」(人民銀行・国家監察委員会)を目的としたデジタル人民元の導入による当局の情報把握等の動向が指摘される中で、自由化した場合にキャピタルフライトが起こる可能性は低くはないという点を指摘したいと思います。また現状国内のゾンビ企業の借り換えによる資金ニーズで金利が高い状況を人工的に作り出している状況が剥落すればその可能性はさらに強まる可能性があります。

②については、「豊かになる前に高齢化する」最初のケースといわれてきた中国ですが、国営新華社通信が本日報じたところでは、本日、5月31日の中国共産党政治局会議で、これまで既に原則2人までと緩和されていた「一人っ子政策」がさらに緩和されて一組の夫婦で3人まで子供の出産を認める方針を表明したとのことで、人口の減少が極めて深刻な状況であることが類推されます。実際2020年の公安部届出出生数は「2019年1179万人→2020年1003万人」と15%の激減を見せており予想より早く実質人口減に転じている可能性は高い。またその一方でこれまでの社会政策により年金等の水準も高いため財政赤字の増加のペースが想定より大幅に速いということが言われています。中国は今後、いわゆる「中進国の罠」に陥る可能性が高いうえに財政状況も急速に悪化という状況に直面しつつあります。

③については、雇用や政治的背景の観点から潰すことが出来ない(事実上のゾンビ企業である)非効率な国有企業を、暗黙の政府保証により国有銀行を通じた借り換えにより生き延びさせてバブル崩壊を免れている実態及び、リーマンショック後の景気対策により収益性の低い投資案件が乱発され過剰生産能力の急増、地方における住宅過剰在庫、地方政府債務や企業債務の急増につながったこと等を背景に、過去の世界での金融危機と比較しても、リスクがかなり高まっていることが懸念されます。

④については不動産価格が大都市において実態とかけ離れて高騰していて、社会問題化する一方で、中国の不動産の時価総額は日米欧の合計を越えると指摘されるなど、あまりに規模の大きなバブルとなってしまっています。特に人口が減少に転じ実需は減少していくことが予想される中で、最大の問題とされています。また不動産投資が「持てる者」「持たざる者」の格差を拡大しているとの批判が大きいことから当局がその是正に動き出していることも注目されます。

こうした状況の中で、中国政府は、まさに、バブル的様相の中での社会的リスクと経済的リスクのトレードオフ、リーマンショック以降のバブル崩壊を暗黙の政府保証で糊塗してきた結果としての長期的な正常化と短期的危機のトレードオフに直面していると言えます。それはつまり、長期的視点から構造的是正に動けば経済金融危機を誘発しかねず、かといって問題を放置しておけば社会不安、共産党不信につながりかねないというジレンマでもあります。

こうした状況を踏まえ、今後習近平政権が三期目を目指すといわれている来年の共産党大会に向け、あるいはそれ以降、どのような政策を打っていくのか、それを正確に分析し、起こりうる事態に我々日本も世界もどう対応していくのか、注視・警戒と検討が必要です。


編集部より:この記事は、衆議院議員の鈴木馨祐氏(神奈川7区、自由民主党)のブログ2021年5月31日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は「政治家  鈴木けいすけの国政日々雑感」をご覧ください。