旅行会社は生まれ変われるか

JTBが21年3月期に1051億円の赤字を計上し、700人を追加リストラ、夏冬のボーナスはなしと従業員にとっては寒空に震える中で毛布まで取り上げるような状態となりました。1000億円を超える赤字もすごいと思いますが、逆にそれほどの赤字を出せるほど体力が残っていたともいえ、普通の旅行会社ならとっくになくなっているところでしょう。

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コロナ禍で旅行会社の青息吐息ぶりは飲食業界よりも厳しいのかもしれません。当地バンクーバーは観光都市でもあるため、観光業支援のための州政府の特別支援プログラムもありますが、今までのような助成金、補助金をばらまくばかりではなく、各会社の事業再生計画を承認してもらって支援金を貰う、あたかもの私的再生計画のような支援策もあり、旅行会社には特別上乗せ枠が設定されています。

その旅行会社、どう再生計画を練ったらよいのでしょうか?果たして今後も生き残れるのでしょうか?

ビジネスを俯瞰するという立場から見て大胆に言ってしまえば旅行会社はいくつかを残し、あとは淘汰されるかネット専業になると思います。理由は簡単です。旅行業者というのは一種の問屋と同じ業種なのです。ホテルルームや航空機の座席などを大量仕入れをすることで一般流通価格より大幅に値引きさせ、顧客に対して組み合わせを提示しサービスを提供します。

国交省の資料によると2012年の団体旅行と個人旅行の比率は約40%:60%でした。これが5年後の2017年には25%:75%になっています。もっと長いトレンドで見れば一目瞭然で団体旅行がピークを付けたのは1992年です。それ以降、凋落気味です。

団体旅行とは何でしょうか?かつてはノウハウがなくて一人で旅行できませんでした。旗についていけばいいんじゃよ、とお年寄りの集団がぞろぞろ歩いていたのは今は昔。その次に企業や学校の団体旅行が増えます。企業側は儲かっていたこともあるでしょう。研修旅行と銘打って半ば福利厚生でした。学校は修学旅行で海外ブームとなります。

ただ、この団体旅行のトレンドに成長力があるか、といえば私はNOだと言い切っても良いと思っています。何故かといえば企業からすれば賛否両論ある社内旅行にお金をつぎ込むよりもっと社員にやる気を与えるネタはいくらでもあるのです。そもそも女性社員や若い世代から不評が多い社内旅行や研修旅行が一流旅行会社の稼ぎ頭になるとは今の時代、逆立ちしても理解しがたいです。

修学旅行は2000年に1000校20万人を達成して以降、増えていません。少子化もありますが、修学旅行として海外に学びに行くというスタイルも時代遅れになりつつある感が否めません。

そもそも「問屋」という中間卸の業態が各産業の中でどんどん衰退しています。初めは衣料あたりだったと思いますが、最近は書籍の問屋、つまり取次の不要論すらあります。

旅行に関していえば私もかつては航空券を旅行会社で買っていましたが、今では航空会社のインターネットで直で購入します。ホテルも旅行サイトで比較して予約できます。とすれば個人旅行での旅行会社のニーズは減ってきており、どうしても言葉が分からない、あるいは特殊なところに行く場合に限定されるのかもしれません。それでも現地でのツアーコーディネーターがいれば十分で「成田を出てから成田に戻るまで」なんていうサービスはよほどの団体旅行でない限り無用ということになります。

もう一つは地球の歩き方世代で個人旅行を楽しんだ層が60代になることも大きいでしょう。旅行というのはカスタマイズするのが一番楽しいのですが、ネットにあふれる様々な情報をうまくまとめていけばかなり発見も多く、旅行会社しか知らないあの場所、この場所の数は減っていると思います。

とすれば厳しいようですが、旅行会社は大きく淘汰されるのがありうる方向性だと思います。企業向けの特殊なパッケージなどに限定されていくのでその世界でしっかり足場を固めるのが重要だと思います。わかりやすく言えば証券会社と同じでJTBが野村證券のようになる、あとはネット証券会社が個人旅行客向けのユニークなパッケージを提供するといった感じでしょうか?ただ、こちらはレッドオーシャンで更に厳しい企業間生き残り戦争が展開されるように感じます。

旅行そのものは今後も増えていくはずで潜在需要を中間業者である旅行会社がどう取り込むうか、これが事業再生のカギではないでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月1日の記事より転載させていただきました。