タカラトミー「変形」技術で月面へ

関谷 信之

ある映画の話。

砂嵐に遭遇し、砂漠に不時着してしまった旅客機。乗客たちが絶望する中、一人の男が提案する。

「私は、飛行機の設計技師だ」

「ばらばらになった機体の部品を集めれば、新たな飛行機が作れる。それで脱出しよう」

全員が同意し、飛行機作りが始まる。だが、この男。実は「おもちゃのラジコン飛行機」の設計技師だった…。

映画「フライトオブフェニックス」のストーリーです。

実際に、「おもちゃ」の設計技師の力量は、「本物」を超えているかもしれません。玩具メーカーのタカラトミーが開発した探査ロボットが、月に送り込まれます。

JAXAとタカラトミー開発の探査ロボットが月へ…8センチの超小型、車輪に「変形」も (読売新聞オンライン)

JAXAとタカラトミー開発の探査ロボットが月へ…8センチの超小型、車輪に「変形」も : 科学・IT : ニュース
宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))が玩具メーカー「タカラトミー」(東京都)などと開発する超小型の探査ロボットが2022年、月に降り立つことになった。JAXAが27日、発表した。探査ロボットは宇宙新興企業「アイ

JAXAが、「変形型月面ロボット」と呼ぶ、この探査機。直径8cmの球形です。球体が中央で割れ、中からカメラが浮き上がる仕組み。月面を自走しながら写真を撮り、月着陸船経由で地球にデータを送信します。過酷な月面環境でも稼働可能とのこと。

トランスフォーマーやシンカリオンなど。おもちゃで培った「変形」技術が月面へ。タカラトミー公式アカウントのツイートもあり、大きな話題となりました。

今回は、タカラトミーについて考察したいと思います。

「変形・合体」の源流

タカラトミーといえば、「変形・合体」。トランスフォーマーやシンカリオン(※1)など、変形・合体する商品が多く、自社サイトに、「変形・合体」カテゴリーページがあるほど。

その源流は、合併前のタカラ時代まで遡ります。

1975年に発売された、サイズ10センチの超小型フィギュア人形「ミクロマン」。これまで主流だった、ソフビ人形(ビニール人形)とは全く異なるものでした。

ソフビ人形が動かせるのは、肩と脚だけ。一方、ミクロマンは、全身「14箇所」の関節が可動。肘や膝はもちろん、腰まで曲がるため、複雑なポーズをとらせることができます。450円と安価だったこともあり、爆発的なヒットとなりました。

ただ、遊び過ぎると、プラスチックの「関節」部がゆるくなるという欠点がありました。タカラは、新シリーズ「ミクロマン・タイタン」でこれを改良。腕と脚の関節に、「磁石」接合を採用します。大幅に耐久性が向上したうえ、腕をライフルに、脚をキャタピラーに、など「パーツ」交換が可能になりました。

「変形・合体」の始まりです(※2)。

「変形」技術という強み

映画「トランスフォーマー」のロボット変形シーンは、わずか数秒。子供たちは、そのシーンを思い描きながら、おもちゃで遊びます。変形に、時間がかかるとシラけてしまう。「スムーズ」な変形が必要です。また、おもちゃ同士をぶつけて、戦わせることも。「頑丈」さが必要です。スムーズさと頑丈さ。両方を兼ね備えた「変形」が求められるのです。

今回、JAXAが期待したのも、その「変形」でした。

「月面到着後に走行用の形状に『変形』することにより、月着陸船搭載時の容積を小さくできる特徴があり、今後の月面探査ミッションで活躍することが期待されています」
有人与圧ローバの実現に向けた変形型月面ロボットによる月面データ取得の実施決定について(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構:JAXA)

月面のような過酷な環境でも、確実に「変形」させる。タカラトミーはその技術に長けています。

「拡玩具」という意志

タカラ(合併前)は、1999年11月発表の経営再建計画(※3)で、玩具の枠を超えた商品開発を行う「拡玩具」戦略を提唱します。

それを受け、家庭用のカラオケ「e-kara」や、ビアサーバー「レッツビアー」などさまざまな「拡玩具商品」が世に送り出されます。最も話題になったのは、同社のミニカー「チョロQ」(※4)をモチーフとした、一人乗り電気自動車「Q-CAR」でしょう。

Q-CARは、乗れる「チョロQ」です。最高速度は時速50km。燃料は電気。普通免許が必要なものの、公道を走ることができました。

チョロQの発売は1980年。当時の子供たちは、チョロQに乗っている自分を想像したことでしょう。それから、22年を経ての「Q-CAR」発売。免許を取った「かつての子供」たちの間では、

『チョロQ』に乗れる!

と、大変な話題になりました。

タカラトミーの企業理念に

「こどもたちの『夢』の実現のために」

という一行があります。

子供の「夢」を実現したQ-CAR。事業としては失敗(※5)したものの、その「拡玩具」の意志は、現在も継承されているようです。今回の「変形型月面ロボット」は、「変形」技術と「拡玩具」の意志が結実したもの、と言えるでしょう。

おもちゃ作りを突き詰めたタカラトミー

冒頭の映画「フライトオブフェニックス」の男は、ラジコン飛行機の設計技師であることがばれたとき、こう訴えます。

「おもちゃの飛行機であっても、航空力学に基づくのは同じ」

「むしろパイロットがいない分、より効率の良い設計が求められる」

タカラトミーも同じ思いではないでしょうか。おもちゃ作りを突き詰め、本物を超え、月面に辿り着こうとしているタカラトミー。「玩具メーカー」と呼べなくなる日が、近いかもしれません。

 

【参考・補足】
※1
トランスフォーマー
タカラトミーの発売した変形ロボット玩具、及びそれを基にしたアニメ、コミック、実写映画など

シンカリオン
「新幹線」から変形する巨大ロボットならびにタカラトミーより発売されるプラレールの玩具シリーズ

※2
ミクロマン以前に販売されていた「変身サイボーグ」でも、合体が実現されており、ミクロマンはこれを継承している

※3 事業再建計画
「『タカラ』の山 老舗玩具メーカー復活の軌跡」(著者:竹森健太郎 出版朝日新聞社)参照

※4 チョロQ
タカラトミー(旧・タカラ)製のミニカー。主にぜんまいばねで駆動する。人気車を3~4センチ四方のサイズにデフォルメしたデザインが特徴。Q-CARは、デフォルメした車体をそのまま実「車」化したことが、人気要因のひとつであった

※5 Q-CAR事業の失敗
新会社設立、部品会社買収、公認レースコースの獲得など過剰投資が主要因