グローバル・インテリジェンス・ユニット シニア・アナリスト 二宮 美樹
新型コロナ・パンデミック以降、G7諸国が「グリーン・エネルギー」よりも「化石燃料」に数十億ドル多く拠出しているとの報告書が先日のG7開催直前に発表された(参考)。
昨年(2020年)1月から今年(2021年)3月までの間に、G7諸国が石油、石炭、ガスといった「化石燃料」の支援に1,890億ドルを投じた一方で、「クリーン・エネルギー」に費やしたのは1,470億ドルだったというものだ。
G7諸国は世界人口の10分の1でありながら、CO2排出量のほぼ4分の1を占めているとされ、世界で最も汚染度の高い国々として挙げられている。
報告書を発表した英国およびカナダを拠点とする慈善開発団体/シンクタンクの3組織によれば、世界で最も裕福な7か国によって化石燃料プロジェクトに投じられた支援の80%は、排出量や汚染の削減を要求する条件を課されることもなく、無条件で与えられていた(参考)。
バイデン政権による「グリーン・エネルギー」を中心とした「エネルギー政策」に対しては批判の声も挙がっている。新しいインフラ・エネルギー計画は「何百万もの新規雇用」を創出するとされている一方で、米国内における最大の新規雇用源のひとつである国内のエネルギー生産者に対する宣戦布告に等しいというものだ(参考)。
バイデン米政権による新エネルギー計画で一番の勝者となるのは「中東」なのではないか、というのがその指摘のポイントである。なぜなら今提唱されている「クリーン・エネルギー」による解決策では、今後数十年間のエネルギー需要を満たすことは不可能なためだ。
現在、米国のエネルギーの75%以上は化石燃料によるものであり、風力や太陽光によるものは7.5%にも満たない。また、道路を走っている車のうち、電気自動車は2%にも満たない。つまり、国内で石油やガスを生産しなければ、中東やロシアからの石油やガスでタンクを満たし、その過程で中東の石油王やロシアを豊かにすることになるのではないか、というのだ(参考)。
他方で、トランプ前米大統領は、国内エネルギー生産者連合(DEPA)のような団体に定期的に助言を求めており、その結果、最後の月(2021年1月)には、米国は半世紀ぶりにサウジアラビアからの原油輸入がゼロになっている(参考)。
今年(2021年)11月に予定されているCOP26(国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第26回締約国会議)は、スコットランド・グラスゴーで開催される。重要なのは、このサミットで世界的な「炭素取引(carbon-trading)」の枠組みが設定され、「カーボン・ニュートラル(carbon neutrality)」の公約が強化されるなど、長期的な緩和のための取り組みに焦点を当てる予定である点だ(参考)。さらに翌12月には、国連と英国が世界気候サミットを共同開催予定である。「パリ協定」の締結から5年の節目を迎えるタイミングとなることからも、象徴的なメッセージを発信する可能性が高い。
国連は、今年(2021年)を気候変動との戦いにおいて「運命の分かれ道となる年(Make or Break Year)」であるとの報告書を発表している(参考)。
しかし、「気候変動」は閾値(いきち)を超えた場合、再び安定する可能性があるとの研究論文も今年(2021年)4月に英国科学雑誌である『ネイチャー』誌に英国の研究者により発表されている(参考)。
「気候危機」に対する世界のトレンドは「政治的」なものであることも踏まえつつ、今回新たに明らかになった事実がG7においてどのように扱われるのか、あるいは触れられることもなく、G7以外の諸国を縛る形で標準作りが進んでいくのだろうか。引き続き注視して参りたい。
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二宮 美樹
株式会社 原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
米国で勤務後ロータリー財団国際親善奨学生としてフランス留学。パリ・ドーフィンヌ大学大学院で国際ビジネス修士号取得。エグゼクティブ・コーチングファームでグローバル情報調査を担当、2020 年7月より現職。