会長・政治評論家 屋山 太郎
NTT/NEC、6G分野でトップを目指す日本
米中の対立は一段と先鋭化しつつある。地政学的には日米が一体化し、英仏も太平洋の自国の領土防衛を開始し出した。独もインド太平洋海域の中国化に、軍艦を出して、反発し出した。一方の中国はロシアとの同盟を強化し、東南アジア諸国を味方に取り入れようとしている。この地政学的情勢が大きく変化する予想はない。今後の米中の勝負は半導体の生産性競争で決まると言われるが、日、米、台湾三国が先頭を切っている。日本は台湾のTSMC(台湾積体電路製造)と組んで次世代の精密研究所を日本に作る予定だ。一方で米国は同社の工場を誘致することを決めた。
中国はハイテク技術を使った「知能化戦争」で米国を凌いで覇権を握ろうとしている。
このため国を挙げてハイテク技術を世界中から盗みまくり、ほぼ世界一の地位まで登ってきた。知能化戦争でポイントになるのは①人工知能(AI)、②半導体、③高速通信、と言われる。
①は大量の知識やデータに対して高度な推論を的確に行うものとされる。軍事に転用されれば人間の頭脳を上回る力を発揮する。国民全員の個人情報を把握すれば、共産党の支配は容易になるから、中国は開発の手を緩めないだろう。
②の半導体について、中国政府は半導体をどこからでも買えたから、とくに製造機械を持たなかったという。米中が緊張し出してから、いきなり米側が輸出を禁じたため、中国に大痛手となった。それまで中国は米国資本を使って米国内に軍事企業を乱立させた。製造機械も材料も何でも手に入れる状態だったが、米国が安全保障に関係ある24社の輸出を禁止した。日、EUも米国の方針に従うという。米国が半導体市場から中国を締め出せばファーウェイなどのスマートフォン生産や5G基地の建設などは厳しくなる。
もともと半導体は日本が発明したものであり、1980年代は「人工資源」を手に入れたと言われたもので、当初は儲け放題儲かった。ところが「日米半導体協定」以降、日本の半導体は弱体化していき、その後、中国、韓国に押されまくって滅亡寸前になった。中韓が強くなったのは、政府補助金を3割も注ぎ込み、競争力で日本企業にボロ勝ちしたからだ。その上で中国は弱体化した日本企業を次々に買収した。日本企業は漫然と負け続けたのである。
もう1点、③の高速通信(5G)で日本は若干遅れているようだが、6月にNTTとNEC(日本電気)が業務資本提携を発表し、6G分野でのトップを目指すという。
自民党は甘利明氏が「半導体戦略推進議員連盟」を結成し、半導体関連企業や有識者らとの議論を始めた。半導体の分野で大失敗したのは財界の知恵が無に等しかったからだ。財界も半導体再興を目的に連盟を設置したが、そのトップに酒造会社の社長を据えるという。酒と半導体は関係ないと思うが大丈夫か。
(令和3年6月9日付静岡新聞『論壇』より転載)
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年6月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。