米国とEU、航空補助金めぐる報復関税措置につき5年間停止で合意

バイデン大統領の主要7カ国(G7)首脳会議デビューは、華々しいものとなりました。

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中国を始めコロナ、サプライチェーン問題で結束を果たし、メルケル独首相を「素晴らしい」と言わしめ、自身が引っ提げた「より良い世界の再建(B3W)」で合意に至りました。米国とG7の復活を成し遂げたと言えるのではないでしょうか。

さらに米国と欧州連合(EU)の首脳会談が開催された15日、17年に及ぶボーイング・エアバスの補助金をめぐる紛争に幕を下ろす一歩を踏み出しました。両者は、5年間の報復関税措置の停止で合意しました。ホワイトハウスが公表した声明では、中国の躍進に対抗するためと明記されてあります。ただし、EU側からの声明に中国の文字は見当たりません

振り返れば米国とEUの紛争は、2004年10月に米国が世界貿易機関(WTO)に提訴したことに端を発します。EU側が応戦するなか、2019年10月にWTOが米国に年間で最大75億ドルの報復関税措置を承認。トランプ前政権は、エアバスを運営するフランス、ドイツ、スペイン、英国からの輸入品に航空機で10%、チーズを始めオリーブ油、ウイスキーなどの商品や工業製品の一部に25%の追加関税を発動したものです。WTOは2020年10月、今度はEUに米国に対する年間40億ドルの報復関税を認可し、泥仕合となっておりました。

潮目が変わったのは、バイデン氏が大統領に就任してまもなくの3月5日です。フォンデアライエン欧州委員長とバイデン氏の電話会談を経て、報復関税の4ヵ月間停止で合意。停戦期限切れを迎える前に、G7で欧州に飛んだバイデン氏とEU側が歩み寄る利点を見出したに違いありません。

さらに、トランプ前政権で国家安全保障を理由に発動した鉄鋼・アルミ追加関税も5月に関税引き上げ見送りで合意しており、少なくともフォンデアライエン氏は期限となる12月までの関税撤廃を望むとアピールしています。

後任者は前任者否定に走る傾向があるといいますが、自身を「タリフマン」と呼んだトランプ氏とは正反対に、選挙戦から多国間主義を打ち出すバイデン氏。価値観を共有する国々との関係改善を目指し、通商摩擦の解消へ向け一つ実績を積み上げました。

画像:上院議員、副大統領時代のネットワークも、奏功したに違いありません。(出所:European Parliament

もちろん、バイデン陣営の友好的な姿勢には理由があるはずで、筆者は前述の中国を除き、ざっくり以下の3つではないかと推察します。

まず、コロナ禍での米経済回復支援です。中間選挙を控え、経済回復はバイデン政権の命題といっても過言ではありません。余談ながらに鉄鋼・アルミ追加関税をめぐるEUからの追加関税措置の対象に、南部ケンタッキー州やテネシー州などが含まれるため、関税撤廃で合意できれば共和党州地盤に恩恵を与えられますが・・。

第2に、ボーイングへの救済措置としての位置づけが考えられます。同社は737MAXの墜落事故や電気系統の不具合などの問題が相次ぎ、業績悪化に喘ぐ状況。そこへコロナ禍が重なり、同社が本社を構えるワシントン州は人口では全米13位ながら、年初来の人員削減予定数ではカリフォルニア州やNY州を抜き、今年トップという不名誉に預かっています。

最も重要なポイントは、中国やサプライチェーン構築などを念頭に入れた多国間アプローチ維持への種蒔きという側面ではないでしょうか。今回のG7首脳宣言ではB3Wの設立に加え、「台湾海峡」の明記、途上国のワクチン支援などで合意したわけですが、次の政権がこれらをどのように引き継ぐかは不透明なんですよね。そう、ドイツでは今年秋にメルケル首相が引退し、総選挙を予定します。フランスでは22年4月に大統領選を控え、EUの二大大国で政権交代リスクが決してないとは言い切れない

だからこそ、バイデン陣営は政権交代リスクの低減と、次期政権への手土産の両面から、EU圏内の景気回復の追い風となる追加関税措置撤廃でEU側との合意を選んだのではないでしょうか。1992年の米大統領選で、クリントン陣営による「It’s The Economy, Stupid」との名言を覚えているはずのバイデン氏ならば、経済の安定が与党の勝利につながると考えていたとしても、不思議ではありません。逆に政権が交代しても、目の上のたんこぶを処理してくれたバイデン政権との関係悪化を選ぶとは考えにくい。

振り返って日本はというと、秋ごろの衆院解散・総選挙が囁かれるとはいえ、政党支持率を踏まえれば政権交代のリスクは限りなく低い。こういった事情も、菅首相が初の首脳会談に選ばれた理由なのかもしれませんね。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2021年6月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。