野党が内閣不信任案を提出しました。ところが菅首相はそれをスルーし、不信任案を否決し、国会は閉会となります。かつて、内閣不信任案とは重い意味があり、内閣総辞職とか、解散総選挙がついて廻ったものです。ところが今回は二階幹事長が「やるならやってみろ」的な発言をしていたもののその裏は見透かされており菅総理はこの時期に解散などしないことは概ね分かりきっていました。
ただ、二階幹事長は自身の経験からも政局だけを考えれば「売られたケンカを買わないでどうする?」という意識をお持ちです。当然、G7から帰国した菅総理に「どうする?」と相談を持ち掛けます。菅総理はG7で様々な刺激を受けてきたばかりで諸外国へのコミットメントも多く、特に五輪への期待を各国首脳から託されました。初めての重要国際会議、サミット。しかも菅総理の立ち位置や他の首脳の輪の中に入れない寂し気な写真が大々的に報じられるにつけ、総理は「俺は実績で残す」と肝に銘じたであろうことは容易に感じます。
その心理状況からすれば解散総選挙などはほぼ微塵もあり得ないのであり、二階氏のそのあとの会見で解散総選挙はないという言葉にやや残念な面持ちがあったように感じています。
総理がG7で刺激を受ける前から自身の国民からの信任はコロナ対策と五輪の無事な運営が7-8割を占めています。今は外交も国内で山積する諸問題も全部、コロナと五輪に劣後しています。
日経は「衆院解散9月前半濃厚 不信任案否決、五輪は開催の流れ」と報じていますが、衆議院解散の日程の予想はまだ早いと思います。菅総理は3つの選択肢、つまり、①日経の指摘する9月前半解散、②解散なしで任期満了、③衆議院選挙をひと月ほど繰り下げる裏技のカードを最後の最後まで見せないとみています。
菅総理の頭の中でそのカードを切るエレメントは①コロナの収束状況②五輪の成果③自民党内の動き④都議会選の結果⑤野党の動き⑥世論調査における内閣信任度の動向を天秤にかけながら決めていくとみています。仮に第一義であるコロナ対策と五輪が自分の期待以上の成果があれば9月中の解散総選挙に進む公算は十分にあり得ると思います。一方、何かつまずきがあれば解散しないカードはアリで国会の閉会を10月21日ぎりぎりにして衆議院の期間満了を先送りする力技はワーストケースの選択肢になるのではないかと思います。
言い換えれば菅総理は実務派の方だけに歴代首相のような「俺の力を見よ」的な勝負には打って出ないのです。緻密な計算としたたかさがあるはずで、仮にその計算通りになれば自民党は大勝できるでしょう。
むしろ、今回、内閣不信任案を出すまでのプロセスを含め、立憲民主党の枝野幸男代表の力量不足が目立ったのが気になります。私は野党があまりにもふがいないのは中立的立場からすればよくないと思っています。よってもう少しまともな野党があれば自民党ももっと緊張感を持つと思うのです。今の政治は与野党共にユルユルでぬるま湯なのです。理由はこの1年強、コロナ対策しか主役に上がってこないため、論戦というより対策の処置の問題であって本質的な政治マターではないのであります。
よって私はいまだに小池百合子氏の出方に注目をしているのです。野党には顔がありません。一方、小池氏は東京都に敵を作り過ぎました。知事のやり方に辟易とする職員が多く、都議会選もちっとも盛り上がりません。彼女の性格からすれば五輪が終わり、おいしいところがなくなったら投げ出す公算はあり得るとみています。その時、立憲公認で選挙に出るという芽がないとは言えないと思います。
「盛り上がらない政治家のための政治」とは裏返せば、国民目線が「そんな状態じゃないだろう」なのです。今、政治家のゲームに付き合っている場合ではありません。挙国一致体制でコロナを克服し、五輪を成功裏に納めることに集中すべきなのです。野党もメディアも足の引っ張り合いなどせずにここは気持ちを入れ替えてどうやったらうまくいくのか、その姿勢こそ、もっとも重要です。枝野氏は1時間半も国会で演説し、自分が首相になった際の所信表明を一部先行して述べたと発言しているようですが、まったく時局を読んでないと思います。このセンスのなさは恥ずかしさすら感じてしまうのであります。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月16日の記事より転載させていただきました。