河合雅司氏著「未来のドリル」など

石破茂です。

通常国会は波乱なく閉幕し、今月後半から九月初頭にかけて、東京都議会議員選挙、オリンピック・パラリンピックと行事が続きます。

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パラリンピック閉会後の9月はじめに臨時国会召集、所信表明・質疑や補正予算の審議があるのかは現時点ではわかりませんが、10月中に衆議院議員は間違いなく任期満了を迎え、いずれ総選挙が行われます。自民党総裁任期と衆議院議員の任期がこれほど近接するのは初めてのように思いますが、総選挙が先に行われる場合には総裁選の日程をずらして、国民の意思として示された総選挙の結果を勘案することも理屈の上からは一般論としてあり得ることです。明日何が起こっても不思議ではないのですから、日々心して臨んでいく他はありません。

沖縄を除いて緊急事態宣言は解除されました。蔓延防止措置に移行する地域もありますが、そうであればこそ、梅雨に入り酷暑に向かう時期でもあり、医療体制の拡充と、免疫力の強化をより一層図らなくてはなりません。第二次医療圏ごとのコロナ受け入れ態勢の推移を数値化して示すことも必要です。

相手がウイルスである以上、陽性となったり、感染したりすることを完全に避けるのは困難でも、免疫力を強化して発症しないようにすることは、ワクチン接種の推進とともに、もっと国として取り組むべきことです。特に高齢者の方々がひたすら感染を怖れ、ほとんど外出もせずに「おうち生活」を続けることは免疫力の低下に直結します。新型コロナについて、陽性・感染・発症を正確に区別しておかなければ、「正しく恐れる」ことはできず、ただいたずらに不安や恐怖が増大するばかりです。

オリンピック・パラリンピックは、観客数を制限した上で開催される方向のようですが、これだけ国民の懸念がある中で開催するのであれば、万が一にも発症者や重傷者を増大させれば極めて深刻な事態となることをよく認識し、これを避けるための体制構築には閉会まで可能な限りの策を施すのは当然です。「史上最も安価で」「アスリートにとって最良の環境で」行われる五輪、という触れ込みがかなり実現困難となりつつある以上、これは最低限の義務であると思います。間違ってもスポンサーやメディア本位の大会であったと言われるようなことのないように努力しなければなりません。

個々人で差は当然ありますが、学校を卒業し、社会に出てしばらく経って中年・熟年の域に達すれば、日々にそれほど大きな変化があるわけではありません。今年何かが出来なくても、それを翌年に延ばすことも可能です。

しかし学生にはそれが出来ません。大学一年を二度経験するというのはあまりないことですし、最終年次となれば尚更です。

授業の多くはオンラインで行われ、サークル活動も十分に出来ず、生涯の友も得られず、恋愛の機会も制限され、安酒場で談論風発の機会もない。このようなことが本当にあってよいのか。河合雅司氏が最新著「未来のドリル コロナが見せた日本の弱点 未来の年表」の中で、「『若者が高齢者に感染させることを防ぐためにはやむを得ない』という高齢者本位の一言で片付けられる問題ではない」と指摘されていることに深く共感致したことでした。彼ら自身、そして彼らが築く日本の未来を奪う権利は、我々シニア世代にはありません。

妊娠すれば母子手帳の交付を受けるのがほとんどですから、2021年の出生数は現時点でほぼ確定した数字が判明しているはずで、それによれば今年の出生数は、政府(国立社会保障・人口問題研究所)の予測よりも18年も早く75万人台になるのだそうです。このコロナ禍の1年で日本の少子高齢化は10年進んだ、と言われますが、具体的な数字を目の当たりにすると愕然とします。

河井元法務大臣に実刑判決が下りました。軽々な論評をすることは避けたいと思いますが、河井氏自身が事実を認めていること、弁護側も本人が認めていることを前提に情状酌量による執行猶予付き判決を求めていること、を考え合わせると、上級審に行ったとしても、事実関係についての争いはないものと思われます。そうなると、党からの1億5000万円支出は誰の指示によるもので、それがどのように使われたのかを明らかにすることが、自民党の責任として問われることになるはずです。これを避けるようなことがあれば、自民党はやがて国民の信頼を失うことになると考えています。

他党の議員ではありますが、山尾志桜里議員が政界引退表明の際に述べたコメントには共感するところが多くありました。「現職であっても選挙の際には、その都度党員による選考を経るべきであり、同一選挙区からの過度に長い在職を制限しなければ新陳代謝は生まれない」という指摘は、我々が自民党内の政治改革論議の際に強く主張して、結局実現を見なかったものでした。自身を省みて、内心忸怩たる思いです。結論は異なるにしても、同議員の憲法についての主張には論理的に頷かされる点が多かっただけに、とても複雑な思いが致しました。

ご紹介した「未来のドリルコロナが見せた日本の弱点」(河合雅司著、講談社現代新書)からは本当に多くの示唆を受けました。ご一読を強くお勧めいたします。同氏の著書では「日本の少子化百年の迷走人口をめぐる静かなる戦争」(新潮選書)も深い内容を持つものです。「NATOの教訓 世界最強の軍事同盟と日本が手を結んだら」(グレンコ・アンドリ―著・PHP新書)も強い共感を持って読みましたが、本を読めば読むほどに、自分の知識の無さ・浅薄さを思い知らされて情けない思いが致します。

小林亜星氏が逝去され、昭和がまた一つ終わった、との感を深くしています。

数々の名曲がありますが、個人的には「夜がくる」がとても好きでした。お聞きになれば、きっと「ああ、この歌か」とお思いになるはずです。是非ネットででもご検索になってみてください。


編集部より:この記事は、衆議院議員の石破茂氏(鳥取1区、自由民主党)のオフィシャルブログ 2021年6月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は『石破茂オフィシャルブログ』をご覧ください。