国会でウイグル問題に関する対中非難の国会決議が見送られた。全野党が賛同する中、自民党の執行部が承認をしなかったという。
人権問題などにかかわっても、(高齢者の投票行動が結果を左右する)選挙の際には利点はない、という実利的な考え方が背景にあるようだ。もっともさらに言えば、日本社会の組織的・世代的な政治文化の違いの問題なども背景にあると言える。
誰が「対中非難決議」を潰したか? 全野党は承認も自民党内に「あんまり興味ないんだ」と言い放つ人物
「自民党の風当たり強くなる」有本香氏のコラム「以読制毒」詳報で波紋 対中非難決議見送り 本紙ツイッターには「日本人として申し訳ない気持ちだ」
有本香氏は、ミャンマー国軍非難決議が採択されたことを引き合いに出し、対中国だから及び腰になっていると指摘する。正しい指摘だが、ミャンマーについても、逢沢一郎衆院議員、中川正春衆院議員、石橋通宏衆院議員らの精力的な働きによって、ようやく雰囲気が変わったところもある。
外務省が主導した場合、国際的なミャンマー国軍非難の共同声明の機会において、日本はことごとく参加を忌避してきた。だが日米共同声明やG7首脳声明や、国会決議の政治主導の流れが作られて、6月18日の国連総会におけるミャンマー国軍非難決議への日本の賛成票が生まれたと言える。
日本は、ロヒンギャ問題などをはじめとして、ミャンマーに関する国連決議では、徹底して棄権する態度をとってきた。そのため、ミャンマーに関心を持つ人々は、今回の日本政府の賛成票を、画期的な動きと歓迎している。119カ国が賛成し、反対票はベラルーシのみだった。中国やロシアなど36カ国の間に入って、日本が棄権していたら、いよいよ日本の国際的地位が危ぶまれたところだった。
高度経済成長期に育ち、バブル経済を懐かしむ世代の人々は、アジアの大国・日本が、他のアジア諸国(の独裁者たち)に事なかれ主義の態度をとることを「日本独自の外交」などといった表現で脚色してきた。1989年天安門事件後に、日本が主導して中国共産党指導者を許す国際的気運を作ったことは、彼らにとっては栄光の自慢話である。
1947年生まれで典型的な団塊世代に属する寺島実郎氏は、「G7は対中包囲網みたいな形で捉えがちなんですけども、日本の立ち位置をしっかり考えなきゃいけない」と述べ、「日本はアジアの国なんです。G7の一番しっぽにくっついてるんじゃなくて、アジアの国としてG7に参加してる」との見解を主張したという。
寺島実郎氏「サンデーモーニング」で「日本はG7のしっぽ」発言 対中包囲網参加に疑問
こういったふわっとしたアジア主義・反欧米主義は、広く日本社会に存在するものだろう。だがやはり世代が高くなればなるほど、大東亜共栄圏的なものへの郷愁と反発が、左右のイデオロギー陣営の双方にそれぞれ別個に強く存在する度合いが高くなる。そのためこのふわっとしたイデオロギーが、思想傾向や政治判断に深く浸み込み、合理的な判断を阻む傾向も強くなる。
「G7」を「先進国首脳会議」と勝手に意訳する謎の風習が、かつて日本に存在していた。それは、「日本が一等国の仲間入りをした」、「日本はアジアの代表として先進国クラブに参加している」、といった団塊世代特有の感情論などに配慮した非国際的なG7であった。
だがオイルショック後の危機に対応する国際協調体制を作るために開始されたG7は、名誉クラブのようなものではない。同じ価値観を共有し、同じ問題に共同で対応しようとする有志諸国の政治フォーラムなのだ。そのメンバーが、「俺はアジアの代表だ、だから欧米諸国の連中とは価値観は共有できないし、問題意識も異なる、アジアでは独裁政権が人権侵害していたって誰も気にしないんだ、欧米人はちょっとくらいはアジア人のことを勉強しろ」、と主張する態度を英雄視するのだとしたら、それは単に日本の外交政策が混乱していることだけを意味する。
中国のGDPは日本の約3倍だ。日本がアジアの代表だという感覚には、もはや全く根拠がない。中身のない感情論を振り回すだけでも、なお皆が日本を尊重してくれていた時代は、もう終わっている。そのことに高齢者の方々は、早く気づいてほしい。