国会・G7首脳 vs.日本ミャンマー協会

篠田 英朗

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先月、「日本外交を「指揮する」渡邊親子の破壊力」という題名の記事を書いた。日本ミャンマー協会事務総長・渡邉祐介氏(渡邉秀央会長の子息)による、「欧米諸国は愚かだ、ミャンマー国軍と提携して中国に対抗しよう」、という英字紙投稿文に触発されて書いたものだ。

その後の6月8日、ミャンマー研究者やミャンマーで活動する市民社会組織などが、日本ミャンマー協会の会員企業と役員の国会議員に、企業の人権理念を問う公開質問状を出した。

公開質問状(日本ミャンマー協会事務総長の寄稿について)|日本ミャンマー協会公開質問状プロジェクト
日本ミャンマー協会の役員の国会議員6名と会員企業137社に公開質問状を送付し、国会議員 1名と会員34社より回答がありました。 <寄稿への賛否> ・賛同する:0社 ・賛同しない/賛同しない部分がある:6社 ・賛否の回答を控える:1名 & 23社 ・クーデター後に退会した:5社 お忙しい中ご回答頂いた皆様に...

国会では、同じ6月8日に衆議院で、そして6月11日には参議院で、ミャンマー国軍を非難する決議が採択された。6月13日、G7首脳の共同声明でも、一段落がミャンマー問題にあてられ、国軍の利益につながる開発援助や武器供与をしないことなどが宣言された。

日本の唯一の同盟国であり、日本が推進する「自由で開かれたインド太平洋」の熱心な信奉者ともなったアメリカのバイデン大統領は、「われわれは中国だけでなく、世界中の専制国家と競争している」と述べ、民主主義勢力が団結して対抗する必要性を訴えた。

しかし、日本とミャンマー国軍の「特別な関係」を取り仕切る日本ミャンマー協会の渡邉事務総長によれば、これらの動きは「愚か」なものでしかない。ミャンマーにおける中国の影響力に対抗するためには、大日本帝国軍人によって創設されたミャンマー国軍と連携するしかないという。

こうした動きの中で、外務省はどうなっているだろうか。茂木外相は、ミャンマー国軍に対応するには、「北風と太陽」の両方が必要だ、と国会で説明した。国会決議の際の茂木外相の元気のない演説は、SNS上で話題となった。

ミャンマー問題では、外務省OBで菅首相の外交アドバイザーを務めている宮家邦彦氏が、クーデター直後から制裁反対論を早くから唱えていた。宮家氏は、アウンサンスーチーにも問題があるといった論点ずらしの主張や、アメリカもやがて日本のやり方を模倣するだろうと言った予測まで披露していた。

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その他,河東哲夫氏ら外務省OBの方々が、次々と人権外交を批判する文章を発表している。

日本が求められている「人権外交」は本当に効果的なのか
<現地政府に圧力をかけても逆効果になりやすい。G7や国連などの場で態度を表明するのが限度> 香港、ウイグル、タイ、ミャンマー(ビルマ)......。2000年代の旧ソ連諸国や中近東諸国に代わって、この...

日本ミャンマー協会に財政支援を行って支える日本財団は、会長の笹川陽平氏が2013年からミャンマー国民和解担当日本政府代表として活動しており、ミャンマー国内でも活発に事業活動を行っている。ミンアウンフライン国軍最高司令官をはじめとするミャンマー関係者に太い「パイプ」を持つとされる。笹川氏は、ミャンマーでのクーデターの翌日の2月2日の自身のブログで、「アメリカがミャンマーの経済制裁に走れば、同盟国の日本は苦しい立場に追い込まれる。ここは何としてもアメリカを説得する日本の外交努力が喫緊の課題となってきた」と書いた。

その笹川氏のブログを見ると、2月5日にはさっそく「秋葉剛男 外務省事務次官」が訪問してきていることが記録されている。秋葉氏は、4月20日にも訪問面談している。これらの機会に同伴者がいたかは不明だが、秋葉事務次官の訪問後、「小林賢一 外務省アジア大洋州局南部アジア部長」(ミャンマー担当地域局長級)が4回、「植野篤志 外務省国際協力局長」(ODA担当局長)が3回、笹川会長と頻繁に訪問面談していることがわかる。最近の笹川会長への訪問面談者リストには、「国軍寄りだ」と批判されている「提言」を外務省に提出した6名のシニア国連・外務省実務家の中の3名の名前も見られる(大島賢三・元日本国国連大使、明石康及び長谷川祐弘・元国連事務総長特別代表)。なお笹川会長は「ミャンマーとのオンライン会議」を頻繁に開催しているので、在ミャンマー大使館との協議も行われていると考えるべきだろう。さらに言えば、笹川会長は、もちろんミャンマー協会主催の「懇親会」(2月26日)に出席しているだけでなく、渡邊祐介事務総長とも面談している(4月19日)。

かなりのことが笹川氏の周辺で発生していると考えざるを得ないが、笹川氏は「日本政府代表」とはいえ、民間人でもあるので、公式の場で自己の考えや行動を説明しない。これでは少なくとも日本外交の動きが不明瞭になるのは当然だろう。

ミャンマー国軍は、5月14日に拘束したジャーナリストの北角祐樹氏を解放する際、「(笹川陽平)ミャンマー国民和解担当日本政府代表の要請」で解放を行う、と説明した。ただし、その同じ5月14日に、日本政府が、ヤンゴンへの食糧援助を支援するために400万ドルの寄付を行う(WFP経由)と発表したことは、波紋を呼んだ。なぜ同じ日に、ヤンゴンなのか、という印象を与えざるを得なかったからだ。

5000億円を踏み倒したミャンマー国軍に「配慮」し続ける日本の政官財トライアングル 日本のODAが市民を苦しめている (6ページ目)
日本は、返済不能になったというので借金を取り消してあげた相手に、さらに追加的に巨額の借金を貸し出し続けているわけである。常識で考えれば、かなりリスクの高い行動だといわざるを得ない。他のドナーが日本の…

G7共同声明は、ミャンマーの喫緊の課題が人道支援であることを確認している。国軍への「太陽」としての支援ではない。ミャンマーの人々全てに向けた支援のことだ。日本政府は、北角氏解放の日へのヤンゴン向け支援だけでなく、追加的な他の地域への人道支援を行う道義的責任を負っている。

ミャンマー国軍は、「(民主派勢力が)学校などを襲撃している、治安作戦が必要だ」といったプロパガンダ作戦としか思えない発言を繰り返しながら、地方部への人道支援を邪魔し、援助物資を破壊したりしている。

笹川氏を訪問し、十分に協議してからでもいい。日本政府は、WFP(世界食糧計画)等が行うミャンマー全国への人道支援を、国軍に遠慮することなく、大々的に支援していくべきだ。それこそが、日本の長期的な国益にも合致する。