コロナワクチンの副反応から考えるファクターX

鈴村 泰

コロナワクチンの場合、インフルエンザワクチンに比べて、発熱などの副反応が強いことが報告されています。しっかりと免疫反応しているわけですから、副反応が強いことは、必ずしも悪いことではないという事は、徐々に理解されつつある感じがします。

ただし、

「接種1回目と2回目では、発熱などの副反応が生じるメカニズムは異なる」

ということまで理解している人は、まだ少ないと思われます。

今回は、そこにスポットを当てて解説してみます。

Urupong/iStock

ファイザー社のワクチンの目的は、新型コロナウィルスのスパイク蛋白質に対する獲得免疫を得ることです。獲得免疫やアレルギー反応は、2段階の反応です。第1段階では、ワクチン接種により体内に発現した抗原(スパイク蛋白質)を、免疫細胞が認識し記憶します。記憶が完全に成立するのには、2週間ほどかかります。第2段階では、免疫細胞が抗原に再び接触し、獲得免疫の反応が生じます。したがって、接種1回目の時には、まだ抗原の記憶は成立していません。つまり、1回目の副反応は、獲得免疫の反応ではなく、自然免疫の反応ということになります。2回目では、自然免疫に獲得免疫の反応が加わるため、より強い副反応となるわけです。

接種1回目の副反応は、自然免疫によると説明しましたが、実は例外があります。コロナワクチンは、既感染者にも接種が推奨されています。抗体検査陽性の人の副反応は、陰性の人のそれに比べて、発熱、倦怠感などの全身性副反応の頻度が高いことが報告されています。この場合は、獲得免疫の反応が加わるため、全身性副反応の頻度が高くなるわけです。

1回目において強い全身性の副反応が生じる機序としては、

  1. 診断確定している既感染者の場合
  2. 無症状または症状が軽いため病院を受診せず、自然治癒した場合
  3. 未感染であるが、他の機序によりスパイク蛋白質に対する特異免疫を得ていた場合
  4. 自然免疫の反応が強く生じた場合
  5. その他の要因(ワクチンに含まれる他の抗原の免疫反応、プラセボ効果など)

が考えられます。

3. と4. は、いわゆるファクターXの可能性があります。

3. の機序について、補足します。

旧来のコロナウィルスに感染した時には、そのウィルスが有する複数の蛋白質が免疫細胞に記憶されます。この時、交差免疫により、新型コロナウィルスのスパイク蛋白質に反応する免疫細胞が作られる事があり得るわけです。未感染者の一部に、スパイク蛋白質に対して交差反応を示す抗体が検出されたということが、既に報告されています。なお、この研究では、感染拡大前または感染拡大初期に採取されたものを、未感染者の検体としています。

スパイク蛋白質には、S1とS2のサブユニットがあり、S2の方が交差反応が生じやすいと報告されています。したがって、抗体検査をする場合には、交差反応を調べたい時は抗原にS2を用い、除外したい時はS1を用いればよいことになります。交差反応を除外できる、特異度が100%に近い検査キットを使用すれば、抗体保有者を、機序1.と2.の人と見なすことができます。

単純に考えますと

ファクターXを有する人 = [ 1回目で強い全身性の副反応が生じた人 ] - [ 抗体保有者 ]

となります。

ただし、この数式は、あまり正確とは言えません。公開されている副反応のデータによると、1回目の37.5℃以上の発熱は3.3%、2回目で38.5%でした。2回目の発熱のデータが示しているように、獲得免疫が成立しても、全員に強い全身性の副反応が生じるわけではありません。また、1回目の倦怠感(疲労)は、海外の臨床試験のプラセボ接種群で28.7%でした。このため、倦怠感のデータで計算する事にも無理があると判断しました。

上記の数式では、残念ながらファクターXの正確な割合を導く事はできません。このため、欧米との比較も困難です。

以上まとめますと、未感染者のなかに新型コロナウィルスに対して強い免疫を有する人が、国内に存在する可能性は高い。ただし、その割合が欧米と比べて有意に多い事を示せないため、その免疫がファクターXと言えるかどうかは不明という事になります。

ファクターXに関しては、基礎的研究も進んでいます。吉村昭彦氏が、現状を詳細に報告されています。それによりますと、日本やシンガポールにおいて、未感染者の約4割の人に、新型コロナウィルスに反応する免疫細胞が確認されたという事です。その機序は、交差免疫です。ただし、アメリカでも同様に約4割確認されているため、それをファクターXと認定することは、現時点では難しいとしています。

補足1)
副反応で問題となるアナフィラキシーは、獲得免疫によるものです。ただし、原因抗原は、ワクチンに含まれる添加物と推測されています。

補足2)
ワクチンの副反応と効果は無関係という発表がありました。副反応の強さと中和抗体(スパイク蛋白質に対する抗体)の量は、相関しなかったという報告でした。ただし、この研究では、中和抗体という液性免疫のみの調査で、細胞性免疫は調べていません。ウィルス感染症では、細胞性免疫も大きな役割を果たしています。したがって、「副反応の強さと効果は全く関係ない」と断定することはできないと、私は考えます。

鈴村 泰
医学博士、第一種情報処理技術者、元皮膚科専門医、元漢方専門医
1985年名古屋大学医学部卒業。
アトピー性皮膚炎などの漢方薬治療と医療情報処理を得意とした。
現在はセミリタイア。画像アプリ「皮膚病データベース」を公開中。