カナダは世界から多くの移民を受け入れ多民族多文化国家として世界でも最も人気がある国で、リベラル色の強い人権派の国家であり、住みやすく、留学生も多くなっています。しかし、5月下旬にBC 州の東部、カムループスという街のResidential School(寄宿学校)の跡地から215体の子供の遺骨が見つかり、カナダでは大騒ぎとなりました。次いで昨日、カナダ中部、サスカチュワンの同様施設からも751体の遺骨が見つかり更なる騒動になっています。サスカチュワンのこの学校は1899年から1997年までカナダ政府支援の下、ローマカトリックが主導したものです。(後年は政府などに引き継がれた。)先住民組合の広報官からは「これは始まりに過ぎない」ともコメントされています。
Residential Schoolとはいったい何なのか、そしてカナダ政府が焦っているのはなぜでしょうか?カナダが世界の中でとても良い印象国であるにもかかわらず実態は「やっぱりそうだったのか?」とがっかりさせる内容でありますが、単なる非難、批判だけではなく、全ての人が知るべき重要なテーマがここに隠されていると思います。
アメリカを含めた北米という国土は先住民の土地でありましたが、そこに欧州人が植民したのが歴史であります。歴史が浅い国では先住民問題が記録に残っており、身近なところでは台湾が同様の問題を抱えています。北米の開拓史に関しては一定年齢以上の方はインディアンと白人の戦いのアメリカ映画を見た記憶がある人も多いでしょう。最近はほとんど放映されないと思いますが、差別意識が背景にあるからかもしれません。
史実としてはアメリカとカナダは総称「インディアン戦争」を1622年から1890年の間に断絶的に行い、植民地化、民族同化、集団殺害を行っています。今の中国ウィグルと同じじゃないか、と思われるでしょう。人間の歴史は繰り返されるのです。
カナダにおいてその民族同化政策の実務を引き受けたのはローマカトリック教会であります。Residential Schoolがあったのは1883年から1998年までの約115年間で先住民の子弟をこの寄宿舎学校に入れさせ、白人式の教育を施したのです。その学校はカナダ全土で130数校あり、通った生徒は15万人程度、現在でも生存者は8万人はいるとされるつい最近までの実態なのです。
その寄宿学校は言語を強制(先住民語を使わせない)、文化的強要、暴力、体罰、虐待といった様々な行為があり、子供の死者は政府発表では3213人ですが、6000人はいるとされます。この件についてカナダ政府は2008年に調査を開始し、2015年までの8年かけて328ページに渡る膨大なレポートをまとめ、政府は謝罪し、自国が「文化的ジュノサイド」を行ったと認識しています。但し、カトリック教会は未だ謝罪していません。17年5月にトルドー首相がローマ教皇に会った際、本件を提議し、謝罪を求めましたが18年3月、カトリック教会幹部が首相に「教皇は謝罪しない」と書面を送り付けています。
我々は第二次世界大戦における欧米のアジアへの植民地政策について一定の理解がありますが、北米では自国内でも同様のことをつい最近まで行っており、カナダではその主導がキリスト教会であったのは衝撃と言わずして何と言えましょうか?
カナダでは3つの法律があるとされます。一般向け、ケベックのフランス系住民向け、そして先住民向けです。それぞれの立場を尊重し、別々のルールをあてがうことでしのいでいるのです。例えばスーパーなどで並んでいると、先住民の方は清算の際に先住民カードを提示して消費税を免除してもらっています。ノースバンクーバーなどバンクーバー近郊の海岸沿いの一等地は先住民の土地となっており、未だに開発に手をつけられない土地がごっそりあります。少し山の方に行けば先住民居住区はたくさんあります。ある時、私も迷い込んでそこに入ってしまった際、「ここはあなたが来るところではない」と追い出されたのですが、正直、独特の雰囲気があり、排他的であります。
当地の電車(スカイトレイン)の車内広告で先住民のための基礎教育を促す学校の宣伝を先週見ました。一方、ホームレスがたむろするエリアには先住民も多く混じっています。私はかつて先住民の若い女性を雇用したことがありますが、仕事が覚えられず1-2カ月で辞めました。
カナダにとって先住民政策は極めて頭の痛い問題であり、今のような世論ではない昔の時代に力づくでそれを推進しようとしたのは当時の苦渋の選択だったのでしょうか?カナダ政府は現在では先住民に対して下にも置かない姿勢を貫きますが、資源開発、不動産開発、パイプラインなどインフラ敷設などでは否が応でも取引をしなくてはいけません。その度に多大なる資金を投入し、先住民に有利なワンサイドディールが多いのも実態です。一般企業が彼らとのビジネスをする場合は特別な専門家を介す必要もあります。まさに同じところに住む別世界がそこにある、ともいえるのです。
もちろん、同化政策などは全くあり得ない話でカナダがかつて日本の蛮行を非難し謝罪決議などを採択したこともありますが、この実態を見れば誰も何も言えないのです。中国がウィグルや香港で行っている行為、韓国がベトナムで行った行為など人間はずっと過ちを犯し続けています。但し、人間は進化する動物であり、少なくとも改善をすることを心がけなくてはなりません。
一方、先住民をより開かれた社会に招くにはまだ厳しいギャップがあり、それを乗り越えるには幾重ものハードルが待ち構えています。本件はあまりにも奥深く、表層のホラーのような話だけではないとも言えそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月25日の記事より転載させていただきました。