「赤木ファイル」が22日に開示され、その中身を各紙が報じている。筆者は赤木夫人が提訴した直後の昨年3月26日、「財務省職員の自殺、一部のマスコミや野党の加担はないか?」と題した投稿で、佐川氏が改竄を指示した背景をこう推論した。
佐川氏の理財局長就任は16年6月17日、森友問題での初答弁は翌17年2月17日だ。98年7月から暫く近畿財務局理財部長をしたので国有地取扱いの知識があったし、彼の性格からも部下の説明など余り良く聞かずに答弁に立ったのだろう、と筆者は推測する。
思うに彼の知識とは二つ。それは「面会記録は保存期限1年間」と「国有地の売払いは時価が原則」ということ。前者は理財局に限ったことではないが、後者では「時価だから価格交渉などあり得ない」と思い込んでいたのではなかろうか。
各紙の「赤木ファイル」(以下、ファイル)の要旨には次の一説がある。22日19時53分の朝日デジタル「赤木ファイル詳報『決裁済の調書修正は問題、強く抗議』」から引用した(太字は筆者)。
本省において、議員説明(提出)用に、決裁文書をチェックし、調書の内容について修正するとの連絡受。本省の問題意識は、調書から相手方(森友)に厚遇したと受け取られるおそれのある部分は削除するとの考え。現場として厚遇した事実もないし、検査院等にも原調書のままで説明するのが適切と繰り返し意見(相当程度の意思表示し修正に抵抗)した。
3月20日 売り払い決議書は佐川局長から国会答弁を踏まえた修正を行うよう指示があったとのこと。
なぜこの2ヵ所を引用したこといえば、「森友問題」と「改竄事件」の核心だからだ。朝日新聞が捏造した「森友問題」の本質は、安倍前総理が森友土地の約8億円の値引きに関与したかどうかに尽きる。が、ファイルには「現場として厚遇した事実もない」と書いてある。
この一説で「森友問題」は存在しなかったと判る。調書の執筆者として改竄に抵抗し、命を絶つほどの正義漢が虚偽を記すとは思われないからだ。「森友問題」がないなら「改竄問題」も、存在しないことの証明(=悪魔の証明)を時の総理に迫るという、一部メディアと一部野党が創り出した、本来起きないはずの事件だったことになる。
ならば赤木氏の自殺に「一部のマスコミや野党の加担」したといって過言でなかろう。
そこで筆者は21日からの「朝日新聞デジタル連載『森友問題』を追う 記者たちが探った真実記事①~③」と題した連載を読んで、この新聞がもはや救いようのない有様であると改めて実感した。
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それは21日から23日までの朝刊の連載だが、全て22日開示のファイルを読まずに書かれている。その体裁は「取材班を取り仕切った東京社会部の羽根和人デスク(現・経営企画室長補佐)の証言から再現する」形になっていて、書き出しはこうだ。
「私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」。安倍晋三首相がそう言った学校法人「森友学園」への国有地売却問題と、その後に起きた財務省による公文書改ざんは、いずれも朝日新聞の調査報道で発覚した。
のっけから「発覚」に違和感を覚えた。「隠していた悪事・陰謀・秘密などが人に知られること」(新明解)を意味する語だからだ。そこへ安倍首相を絡めれば、読む者はその人の悪事を連想する。朝日独特の誘導だ。そしてその「調査報道」がお粗末極まることを自ら3日にわたって曝け出す。
16年秋にある女性からの、払い下げ国有地の価格が公表されていないのはおかしい、との電話で取材を始めたと続く。その後、福島瑞穂議員と懇意の木村真豊中市議がこれを初めに告発したことが知られているので、「ある女性」は木村市議の知り合いか。
記者は「何かおかしい」と感じたそうだ。が、こんな電話を掛けてくることを「何かおかしい」と感じていたら「森友問題」はなかったか。取材を続け、隣の土地を豊中市が買っていたと分かり、市に取材すると14億2300万円だった。
後に、この森友土地と一筆の隣地に国から10数億の補助金が下り、瑕疵の補償2千万も加えて、市はただ同然で手に入れていると判るが、連載は最後までそのことに触れていない。朝日がそこまで取材していたら、この段階でも「森友問題」はなかったか。
朝日は法務局で登記簿謄本を取り、この土地の「買い戻し特約 1億3400万円」を見つけてそれが売却価格と知り、近畿財務局に裏を取りに行く。が、森友から「同意を得られていない」ので「答えられない」といわれ、取材は籠池氏に向き、以下のやり取りとなる。
記者:「価格は1億3400万円じゃないですか」
籠池氏:「そうそう。別に公表しても構わない」
記者:「非公表にして欲しいと財務省に強く言ったんじゃないんですか」
籠池氏:「いや強くじゃないよ。普通に。別にそんなん公表してもらわんでもいいんじゃないの、という程度です」
結局は「公表しないでくれ」といっているので、近財が隠しているのではない。ここで取材をやめることもできたろう。が、連載は「本当に籠池氏が強く言ったから財務局は非公表にしたのか、それとも別の理由があるのか。そこにはまだ疑問が残るものの、これで金額は確定した」と書く。
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斯くて「2017年2月9日、朝日新聞(大阪本社最終版)にこんな見出しの記事が掲載された。『国有地の売却額非公表 価格、近隣地の1割か』 森友学園問題はこの記事が発端となり、安倍氏が国会で追及を受けることになった」と連載は続く。
本来、反省文ないしは謝罪文を書くべきなのに、この期に及んでも連載はあたかも、世紀のスクープはこのようにしてなった、といわんばかりの論調でこう続く。
羽根は言う。本来、行政は平等公平であるべきなのに、権力者の周りにいる人だけ良い目をしているのではないか。優遇され、特別扱いされているのではないか。そうなると日本の民主主義がおかしくなってしまう。そうした問題意識が根底にある。
だが、自紙の22日の前述記事で、「現場として厚遇した事実もない」と当の赤木氏が書いていると報じているではないか。結局、連載は未だに思い込みを捨て切れず、かつ22日のファイル開示の前に書いているから、こういう恥晒しなことになる。
開示前にこんな内容を嬉々として書くこと自体が普通でないが、22日の連載②では、佐川氏の国会答弁に触れて、「隣の土地の10分の1の価格で売られていた理由についてこう答えた」とし、佐川証言をこう書いている。
もともと鑑定価格は9億5600万円だったが、ごみの撤去費用に8億円あまりかかる。その撤去費用を差し引いて、1億3400万円になった。
記事は、「本当に8億円も撤去費用がかかるのだろうか」と続ける。が、これを値引きに関する佐川証言の核心と見ること自体が朝日の不明ぶりを晒している。
ゴミが出たから8億引いたのは間違いではない。が、重要なことを抜かしている。それは「瑕疵担保責任」(ゴミ=土地の瑕疵)だ。佐川氏は「瑕疵担保責任を買い手に移したから8億引いた」との趣旨を証言している。ここが値引きの核心だが、連載は全くスルーだ。
土地や企業売買などで価格を決める際、「瑕疵担保責任」を売り手と買い手のどちらが引き受けるかは極めて重要だ。沼地でゴミ捨て場になっていた森友土地でいえば、開校後に建物が傾いたり、土壌汚染で健康被害が出たりすれば、その被害は幾らになるか知れない。
瑕疵担保とは瑕疵の将来被害を予想して金額換算し、売値に反映させることをいう。責任を買い手に残せば売値は高くなり、売り手に移せば安くなる。その算定額が8億円だったということ。問題があるとすれば大阪航空局が算定したことだが、不正とまでは言えまい。
朝日を含む一部メディアや一部野党がこれを知らないことが、8億もの値引きはおかしい、との思い込みを生み、そして安倍前総理と結び付けた。その後の改竄事件と赤木氏の自殺は、この無知と思い込みが招いた悲劇といえる。しかもファイル開示を跨いで連載した朝日は、全く救いようがない。
連載③は改竄事件だ。が、紙幅が尽きたので、朝日デジタルと冒頭の拙稿をお読み願いたい。