日本はサイバー脆弱性を克服できるか?

英国の国際戦略研究所(IISS)が発表した世界各国のサイバー能力に対する評価では日本は3段階で最下位の第3グループとしています。第1グループはアメリカだけで第2グループに中国、英国、イスラエルなど諜報が長けている国が並びます。その点では第3グループは致し方ない、とみられるかもしれませんが、韓国のメディアは日本がやはり第3グループとされた北朝鮮と同じレベルだと指摘しています。

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サイバーを含むテロに対する日本全般の危機意識は極めて低いと言わざるを得ません。911事件以降、日本もテロの標的リストに挙がったりしたのですが、特段目立った事件は起きませんでした。当時、テロ標的のリストに日本の名前が挙がったのは日米同盟という蜜月の関係から敵が多いアメリカと一心同体ゆえに攻撃対象国になりうるという解釈でありました。

ただ、当時のテロの加害側であるイスラムの原理主義派からすれば日本を標的にするモチベーションはほとんどなかったわけで「危ない」と言われながらも何も起きないと「オオカミ少年」の話と同じなのですが、いつかとんでもないしっぺ返しが来るものです。

サイバーテロの場合は敵はロシア、北朝鮮よりも近年の中国の威力が強大であり、かつてのイスラム原理派によるテロへの防衛の時代とは相手が違うことに留意しなくてはいけません。そして、記憶に新しいLINEのデータ管理の問題にもあるように日本は多くの企業が業務の一部を中国に回しており、そこでの管理が甘くなる傾向があります。「まさかうちの会社から」が起きていてもまったく気がつきもしないのが現状ではないでしょうか?

私は常々、日本も本格的な諜報組織を持つべきであるという持論を持っています。そして情報漏洩をした場合には重罪を課すという仕組みも必要です。そもそも、国連憲章でも認められたスパイ防止法がずっとなかったのが日本であります。それが2014年12月に「特定機密保護法」が成立できたのは安倍元首相の強い信念があった故であります。

1972年の沖縄返還の際の密約を毎日新聞社の西山太吉記者が社会党議員を経て国会で公表されたことで知られています。その情報源は密通にあった外務省局長の秘書の女性であり、この話を背景にした山崎豊子の「運命の人」という小説も生まれています。日本でスパイ防止法の必要性が叫ばれたのはこの事件を契機としており佐藤栄作首相(当時)が必死に訴えたものでした。

ところが日本はどうしてもスパイ=特高=治安維持法のイメージが強いのです。今ならどうかわかりませんが、1972年ではまだ戦後30年足らずで当時、嫌な思いをした人が声を上げやすい状況にあったのです。2014年の特定機密保護法は制限された形とはいえどうにか成立したのは戦後70年近くたち、当時の記憶も薄れる中、世の中の状況が激変したことはあるでしょう。

それでも新聞記者を介した情報漏洩事件は今年4月に長崎新聞記者と女性警部の間でも起きています。更に一般人を介した情報漏洩は今でも起きており、ソフトバンク社員のロシア諜報への情報提供の事件などもありました。

上記は諜報の世界ではヒューミントと称する人的諜報を意味するのですが、それとは別次元のサイバーテロは私は一種の宣戦布告なき戦争の一種だと考えています。先般のアメリカ東海岸のパイプライン会社へのサイバーテロは金銭目的でありましたが、いわゆる破壊行為を目的にインフラだけではなく、原発や防衛施設、空港などあらゆるところにそのサイバーを仕掛けることが可能であり、それはいつ、どこからやってくるかわからないのです。

多くの方は戦争と言えばロケットが飛び、軍艦から戦闘機が飛び立ち、地上戦を繰り広げるというイメージがありますが、それは昔のスタイルであり、今後の戦争は地球の裏側から一瞬のうちに敵国の心臓部を破壊することすら可能かもしれません。それがサイバーテロです。そして日本はその防衛能力が第3グループだというのです。

では日本はその汚名を挽回できるのでしょうか?ここは二つの観点でアプローチが必要です。まず、国家レベルで国を守るという意識を高める必要があります。スパイ防止法がかつて阻止された際、憲法の表現や報道の自由を盾にされました。それは意味が違うだろうと思うのですが、野党やマスコミはこういうツッコミをするのにすさまじいエネルギーを注ぎ込み、本来あるべき国家の立ち位置を完全にミスリードしてしまうのです。これは右派とか左派の問題ではなく、独立国家として両足でしっかり立ち、歩くことができるようになる最低限の筋力の話であります。

ではもう一つの観点、技術的にそれを阻止できるのか、であります。これは実はできそうに思えます。コンピューターネットワークを意味するサイバーの技術向上が理由です。その最右翼は量子コンピューターなのです。

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報道でも最近、量子コンピューターの話題がちらほら出てきております。世界中が今、もっとも力を入れて開発しているコンピューター技術でこれが実用化されると世界の模様は全く変わるとされます。その技術の説明は主題と外れるのでしませんが、サイバーテロを阻止するには量子コンピューターによるセキュリティ効果が極めて高いと予想されています。つまり、国家の情報網が完全に覆い隠され、外からのハッキングができないようにする、これが量子コンピューターの実用化で実現できそうです。

ちなみにスマホへの量子型セキュリティシステムの搭載の研究開発が進み、こちらの方が先に出そうです。このシステムはハードに搭載するものとソフトウェアに搭載する2方法があるのですが、現在、ハードへの搭載をするQRNG方式に軍配が上がりそうです。これでハッキングは極めて難しくなるとされています。

量子コンピューターは日本でも開発が進んでおり、現在のサイバーテロの標準は全く違う水準になるのはさほど遠い時期ではないでしょう。しかし、技術による防衛のみならず、日本が意識をもって情報漏洩への罪の意識を持つことがもっと重要であることは言うまでもありません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月1日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。