官僚の人事〜政策実現のキーマンとタイミングをおさえるために〜

7月に入って、事務次官の交代などの官僚の異動情報をニュースで見かけた、という方も多いのではないでしょうか。

そうです、実は毎年7月は官僚の人事異動のシーズンなのです。

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通常国会は、毎年1月中旬から6月中旬頃まで150日間開かれることになっており、この会期中は、政府が提出している法案の国会での審議が続いています。
また、政府内でも成長戦略や骨太の方針といった大きな政策の方向性を固める時期に当たります(第2回第3回の記事をお読みください)。
したがって、国会会期中に、進めようとしている政策に責任を持つ官僚が異動してしまうと業務に支障をきたします。

だから、国会が閉会し、大きな仕事がひと段落した7月が異動に最適な時期として選ばれているのです。ちなみに、通常国会は延長することもあり、その場合は官僚の異動の時期も遅れます。

さて今回のテーマは、官僚の人事についてです。

1.官僚の人事を把握すべき3つの理由

なぜ、官僚の人事を、よく理解しておかないといけないのでしょうか。以下の3つの理由があると思います。

(1)担当している人を探す
役所の人事に精通しなければいけない理由の一つめ。それは、相談すべき官僚を見極めるためです。

○○省の官僚、といってもその職種、役職、配属部署等によって行っている業務は実に様々です。職員一人一人が、異なる権限をもっています。あなたはその中から、政策を実現する権限を持つ、たった一人の職員にアクセスしなければいけません。

例えば、大きな官庁では数万人が働いています。何の手掛かりも持たずにあなたが話をすべき職員を探しあてるのは、不可能に近いでしょう。

今回は、最短距離で権限を持つ官僚にアクセスする方法を教えます。

(2)長い目で意見交換する人を探す
役所の人事に精通しなければいけない理由の二つめ。それは、長い目で付き合う基準を持つためです。

皆さんが政策を変えていきたいと考える場合、役所との長期的な付き合いは避けられません。一方で、皆さんも官僚も人間です。どうしても人間的にウマが合う場合とそうでない場合があると思います。

ウマが合う人とは、継続的に意見交換などをしていけると思いますが、そうでない場合でも将来にわたって、その役所の政策の中心を担っていくような人や特定の分野のスペシャリストのような人とは、やはり継続的に意見交換をした方がよさそうです。もちろん、接待などをするという意味では全くありませんので、誤解なきよう。

とはいえ、基本的に年功序列・横並びで昇進していく官僚たちが、今後どのようなキャリアを積んでいくか、その役所の政策の中心を担っていくかなど、どうやって見極めたらよいのでしょうか。

実は、官僚が配属されているポストから、将来その官僚が出世するかどうかはある程度予測することができます。

一般企業と同じように、官僚も出世すれば、より政策への影響力を持つことができますし、その逆も然りです。その官僚が有能で将来有望な人物なら、長い目で見て、様々なインプットをしたり、意見交換をすることにより、実態をよく理解してもらうことは、よい政策を実現してもらうためにも、望ましいことでしょう。

長い目で意見交換をすべき官僚の判断基準を今日はお示しします。

(3)人事異動があっても政策を後退させない

役所の人事に精通しなければいけない理由の三つめ。それは、人事異動を政策実現の障壁にしないためです。

官僚の人事異動は、短くて1年、長くて3年。同じポストにいるのは、概ね2年程度です。そのため、2年間で課の職員がすべて入れ替わるとすると、一回の異動では、職員の半分が異動する計算になります。

担当する人たちがガラッと変わるのですから、政策実現に向けた土壌も大きく変化します。これまで、色々と話をしてきた人がいなくなり、新しい人が来るわけですが、このタイミングで、どのようにアプローチするかは、政策実現のためにとても重要なのです。

今回は、人事異動のタイミングでしておくべきこと、してはいけないことについて説明します。

2.官僚の採用の仕組み

まず、役所の人事の特徴である
1)省庁別採用(厚生労働省や外務省等、省庁ごとの採用)
2)職種別採用(同じ省にも、事務系総合職や技官など色んな職種の人がいます)

について説明します。

‐省庁別採用
私たちが所属していた事務系総合職の職員の例で説明します。
採用を目指す受験者は、1次筆記試験、2次筆記試験・人事院面接を突破し、6月頃、国家公務員総合職試験の合格者にならなければいけません。ここでいう合格者をもとに、毎年度、「今年は東大が何人合格した」などと、大学別の合格者数を発表しています。

競争率、過去最低の7.8倍 国家公務員の総合職試験―人事院:時事ドットコム
人事院は21日、幹部候補となる国家公務員総合職の2021年度採用試験の合格者が1834人だったと発表した。競争率は7.8倍で、前年度の9.7倍を下回り、試験区分を「総合職」と「一般職」に再編した12年度以降最低となった。申込者の減少に加え、退職者が増えたことなどを受けて採用枠を増やした結果、合格者が117人増えた。

でもここでいう試験の「合格者」は、単に各省庁が個別に行う面接会(官庁訪問)に参加する権利を得ただけにとどまります。
官僚になりたい学生たちは、7月頃に「官庁訪問」と呼ばれる、各省庁が独自に行う面接を突破して、内々定をもらって、初めて、希望する省庁で働くことができるのです。

そして、採用後は、○○省の職員として、基本は定年まで勤めることになります。
一時的に他の省庁に出向することはあっても、人事権は元々の所属の役所に残ったままです。ある省庁が忙しくなったからといって、他の省庁から職員を片道切符で移籍させるような対応は行われません。

官僚たちは、「日本国政府」株式会社の社員になるのではなく「○○省」株式会社の社員になると理解する方が実際のイメージに合うかと思います。

‐職種別採用
さらに個別の省庁の中でも、複数の職種に細分化された採用が行われているのが役所の人事の特徴です。

私たちが働いていた厚生労働省では、事務系総合職、医師・薬剤師・看護師などの技官、部門ごとに所属が分かれている一般職などがあり、それぞれ独立して、その職種の属する職員の人事を決めています。

各職種で独立した人事を行っているので、仮に事務系総合職の課長と技官の課長補佐の折り合いが悪くとも、課長が課長補佐を異動させることは困難です。それは、人事権者がそれぞれの職種ごとに独立して存在しているからです。
その職員が所属する職種における人事権者の判断がなければ、課長級以下の職員が異動することは基本的にありません。
このことは技官の課長の下に事務系総合職の課長補佐がいる場合であっても同様です。

3.官僚のキャリアパス

ここでは私たちが経験した事務系総合職の業務をメインに説明します。これは厚生労働省のケースではありますが、他の省庁でもさほど大きくは変わりません。

‐係員(1ー4年目)

新規採用職員は、まずは係員として勤務をスタートします。係員は、係長の下で簡単な法令業務の補佐をしたり、政策の進捗確認の取りまとめや白書の執筆といった業務を適切な担当者に依頼したりといった業務を行っています。
皆さんが役所に電話して、電話交換台を経て担当課につないだ時に応対するのはこの係員です。

‐係長(4-8年目)
係員を3年ほど経験すると、係長に昇進します。係長は、部下の係員に対する指導に加えて、比較的簡単な法令の改正や法解釈業務を行います。
係長の間に、具体的な政策を担当している課(原課といます)と局内の原課を取りまとめる総務課の係長を経験するのが通例です。係長の間に留学を経験するものも多くいます。
事務系総合職の係員や係長は「企画係」や「企画法令係」という名前の係に配置されていることが多いです。

‐課長補佐(8ー17年目)
8年目に課長補佐に昇進します。法改正の事務作業を担当するチームのリーダーとして部下を取りまとめたり、新しい政策の素案を作ったりと役所の実務を支えます。
また、課長補佐の時期は長いのですが、ある程度課長補佐として本省の実務を担った後、海外大使館や地方自治体への出向を経験します。

事務系総合職の場合、課長ぐらいまでは横並びで昇進します。外部からは評価に差がついているようには見えません。職位や給料に大きな差が出ませんが、配属には差が出てきます。どの部署のポストに配属されるかでなんとなく自分の評価が見えるようになるのがこの時期です。

‐企画官・室長・課長(17ー30年目)
企画官以上を管理職と言いますが、この頃になると、純粋な政策立案の仕事に加えて、国会議員や団体との渉外業務(メモ①)の比重が増えてきます。また、課内、室内で完結する政策についての決裁権も持つようになります。
役所では、新しい政策の中身を考えるために局や課単位で会議を立ち上げることがあります。その会議で役所としての見解を述べるのは基本的にこのレベルの職員です。
この頃になると出世する職員とそうでない職員で明らかな差が出てきます。配属先だけでなく、昇進のスピードにも差が出てきます。

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【メモ①:国会議員や業界団体との渉外業務】

官僚と国会議員の関係は、下請け企業と大企業に似ています。
下請け企業はいい商品を作っても大企業が買ってくれなければ販売はできません。官僚もいい政策を作っても、国会で承認してもらわなければ、政策を世に送り出すことができないのです。

法律案も、官僚が事前に国会議員に内容を説明していなければ、国会議員の理解不足により否決されるかもしれません。そうならないよう、法律を国会で議論する前に、官僚は国会議員の理解を深める仕事を行っています。これがいわゆる「根回し」です。

一方、官僚と業界団体の関係は、商品開発者と商品のモニターの関係に似ています。
消費者の意見を踏まえない商品は、仮に店頭に並べても売れません。企業も消費者みんなの意見を聞く代わりに、街頭調査でモニターの意見を聞いて、できるだけ、消費者の考えを踏まえた商品開発をしているはずです。

官僚も一緒で、政策という商品を世に送り出す前に、その商品に関心を持つ人々の意見を聞く会議を開きます。審議会や検討会といわれるものです。この会議を通じて、少しずつ不満はあるけれどみんなにとってこれが一番いい、という政策を作り上げていきます。

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‐審議官・局長・事務次官(30年目以降)
国会中継で、政治家ではない人々が国会議員の質問に答えている姿を見たことがある人もいるかと思います。それが審議官以上の官僚です。このクラスになると国会での答弁のほか、閣僚や官邸の高官から直接指示を受け、その対応を検討したりするようになります。

このクラスにまで出世するのは同期でも一部です。昇進人事もそれぞれの省庁だけで決めることはなく、官邸に近い内閣官房内閣人事局による審査が行われます。つまり出世には政治的要素が大きくなります。審議官→局長→事務次官の順番に位が高くなり、事務次官になるのは、同期でも1人出るかどうか、というところです。

4.有料記事から学べる事

ここまでで、役所の人事の特徴として以下のことを学びました。

‐省庁別、職種別に行われており、省庁間、職種間を超えた人事はあまりない
‐事務系総合職の職員は課長までは横並びで昇進する
‐局長級人事は政治要素もある

これらは官僚とお付き合いする上での基本的な事項ですが、ここからは、もう少し突っ込んだ話をします。

【有料部分の目次】
5.将来出世する官僚の見分け方
6.人事異動のタイミングを抑えておくことは政策実現の近道
7.人事異動のタイミングで絶対にしてはいけないこと
8.人事異動のタイミングですべきこと
9.まとめ

これからお話することをしっかりと踏まえて、長期にわたる関係を見据えたコミュニケーションをとるべき官僚を見誤らないようにしてください。また、人事異動のタイミングで不用意な失敗をしないようにもしてください。

以降の記載は私たちが実際に働いてきた感覚を踏まえて、官僚機構の特徴や官僚の心理的な側面にも触れた上で、民間側にとって気をつけるべきことを書いています。おそらく、ここ以外では、なかなか見ることはできない内容だと思います。


編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2021年7月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。