アメリカの報道局CSPANは2000年以降、新しい大統領が誕生する度に大統領史を専門とする歴史家から聞き取りを行い、リーダシップ、倫理観、外交手腕などいくつかの項目の基にした米大統領のランキングを発表している(具体的な項目は実際のランキング表を参考にされたし)。今年はトランプ氏が初めて過去の大統領と比べられる形でランキング入りすることとなっており、彼に対して著名な歴史家たちがどのような決断を下すのか注目を集めていた。それと同時、今回のランキングから全米で高まる人種問題への関心の高まりが影響を与えていることも読み取れた。
トランプより順位が低い大統領たち
まず、初めに上位3名を紹介しよう。1位は奴隷解放宣言をし、南北戦争を終結させたリンカーンである。2位はアメリカ建国の父、ワシントン。そして、3位は大恐慌の中でアメリカを指導し、ナチスドイツ、日本との戦争に勝ったルーズベルトである。上位3人は日本でもおなじみで、彼らの順位が2000年から変わっていないことはそれほど偉大な功績を残した証である。
一方、ワースト3名は誰か?
幸か不幸かトランプ氏は最下位ではなく、一か月ほどで大統領職に在職したまま死去したハリソンのひとつ下の41位である。彼より順位の低い大統領たちが三人いる。ワースト3位のピアースとワースト1位のブキャナンは共に奴隷制の拡大に寛容で、南北戦争への道筋を作り上げたという点が順位に大きく反映されている。しかし、南北戦争が決定的となったのがブキャナンの時だったので、内戦の勃発を許した張本人という点で、史上最悪の大統領としてランキングされた(またブキャナンは南部州の合衆国からの離脱を防ぐために奴隷制の維持を憲法に書くことを主張していた)。ワースト2位のジョンソンはリンカーンの副大統領でありながらも奴隷制の維持のために戦った南部に対して擁護的で、アフリカ系アメリカ人の完全なる解放に歯止めをかけたことが順位に反映されている。
しかし、トランプ氏をこの史上最悪の三人の大統領たちより下に位置づけられるべきだとするのが、ニクソン大統領図書館・博物館の初代館長を務めたナフタリ氏だ。彼はトランプ氏が大統領選に負けた際に、平和裏に権力を移行することを拒否し、選挙の結果を認めなかった歴史上初めての大統領だとした。そのことから、彼はそれらの事例が危険な前例を生むとし、トランプ氏を最下位にすることを主張した。
一方で、クーリッジの専門家でもあるシュレーズ氏は違う角度からトランプ氏の評価に意を唱える。彼女はトランプ政権下でパンデミックが発生するまで経済が極めて良好であったのにもかかわらず、スタグフレーションを抑えられずに、不況を招いたカーター氏と経済手腕に関して同等の評価がされていることに納得していないと述べた。
現代の人種問題の高まりがランキングに反映
また、トランプ氏以外の大統領の歴代の順位を見てみると、大きく順位を下げている人たちがいる。ウィルソンとジャクソンである。彼らに共通することはマイノリティに対する扱いが非人道的だったことである。ジャクソンの場合はネイティブアメリカンたちを強制移住させ、人種差別的な政策の推進に積極的だったことが、近年非難の的となっている。
さらに、国際連盟の創設を提唱し、偉人のような扱いを受けてきたウィルソンも、彼の人種差別主義者としての側面が再注目されるようになった。その延長線上で、彼の名を冠した大学のプログラムが変更される事態にまで発展している。また、現在、フロイド氏をきっかけに人種問題に対する全米規模の関心高まりを考慮すると、そのような時代の流れが上記の二人の順位に影響を与えていると考えるのは自然だと考える。
100年後のランキングはいかに?
在職中の公文書の機密が解除されない限りは、トランプ氏を含む存命中の各大統領の、歴史における明確な位置づけは困難である。さらに、時代背景、その時代を生きている人々の価値観によって、これからのランキングで順位を下げる人もいれば、上昇する人もいるであろう。
いずれにせよ、荒れ狂う歴史という波の中で、アメリカ大統領たちの順位が今後どのように変化していくのかは興味があると同時に、ロマンを感じる気もしなくもない。