コロナ禍が浮き彫りにした飲食業界の課題 --- 二之湯 武史

寄稿

一般社団法人 食文化ルネサンス 専務理事 二之湯 武史

1年数か月に及ぶコロナ禍において、休業、時短営業、酒類提供の禁止など最も影響を受けたのが飲食店であると言っても過言ではないだろう。協力金の支給や家賃補助などの支援策が講じられたことは事実であるが、依然として非常に厳しい経営状況であることは間違いない。判明しているだけでも数千店舗の規模で閉店し、今年はさらなる倒産ラッシュが続くとする関係者は多い。ここでは、飲食店に対して行われてきた政策を振り返り、今後改善すべき点を検討したい。

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1. 科学的知見を活かせていない感染対策

新型コロナウイルスについての知見が全くなく、緊急性が求められていた1回目の緊急事態宣言における一律の休業要請や協力金は致し方なかった。しかし、1年以上にもわたって様々な科学的データが蓄積されたであろう現在においても、基本的に昨年と同じような発想に基づいた一律の政策が立案・実施されていることに納得できない関係者が大多数であろう。

「飲食店」と一言で言っても、高級料亭やレストラン、ファストフード店、喫茶店、カウンター割烹、立ち食いそば、クラブやラウンジなど、その形態は非常に多様である。店舗面積や席数、客と店員・客同士の距離や会話の頻度、換気設備や窓の有無、などによって感染リスクも大きく異なる。

私たちは昨年の早い段階から、多様な飲食店を前述のような営業形態によってある程度の類型に分け、その類型ごとに感染リスクを分析してガイドラインを定めるよう政府に要望していた。はっきり言って、席が密で客同士が大声で会話する居酒屋は感染リスクは高く、いっぽう個室会食が基本の料亭、客同士ほとんど会話の無い立ち食いそば屋、では感染リスクは低いのに、一律で規制をあてはめられれば理不尽さを感じるのが当然だ。

1年もあれば蓄積されたデータや科学的知見を合わせてこうしたきめ細かい対応ができたはずなのに、現在も政策として実施される段階には至っていない。

2. 経営規模の違いを無視した一律の協力金

また、立地や面積、従業員数や席数などによる経費や経営規模の違いを考慮しない一律の協力金には大きな不公平感があった。一日6万円の協力金で通常営業以上に稼いだ店もあれば、雀の涙にしかならない店もあり、残念ながら業界内の分断も起きてしまった。諸外国の飲食店に対するコロナ対策がこうした面積や席数に着目したものであったことは、飲食店関係者の不満にさらに火をつけることとなった。

現在、1日最大20万円まで増額されているが、従業員数十人を抱えるような大型店の現状は依然苦しい。確定申告のデータや決算資料などにより事後からでも粗利の一定を保証するような政策であれば、事業者間で不公平はなく安心して経営を継続できると考えるのだが。

3. 業界のまとまりに乏しく政治とのパイプが細い

私が最も大きな課題と感じるのは飲食業界の多様性ゆえの「まとまりのなさ」である。もともと、飲食店経営者は「包丁一本」の精神で独立心が旺盛であり、人と群れることを好まない個性的な方が多い。コロナ禍の前までは、特に政治に要望するような課題も存在しなかった。そうした中起こったコロナ禍なので、他業種のように業界がまとまって政治力を発揮することが出来なかったのだ。

私は、参議院議員時代からこうした業界の課題を認識していたので、党内に議員連盟を設立し、農産物の輸出、日本産酒類の振興、海外における日本食レストランのネットワーク化、文化芸術基本法への食文化の明記、などを通じて少しずつ業界内のネットワークを広げ、昨年9月に一般社団法人食文化ルネサンスを設立した。設立前から、コロナ禍における飲食店の要望を政府・与党に届ける活動をしていたが、多様な飲食業界すべてをカバーできたとはとても言い難い。

6月10日に行われた飲食18団体による緊急記者会見「外食崩壊寸前事業者の声」は、著名料理人やシェフを中心とする食文化ルネサンスと、高級レストランを多店舗展開する事業者による日本ファインダイニング協会が中心となって企画した画期的な取り組みであった。これを機に、飲食業界に一つの大きな塊を創っていくつもりである。

4. 食文化の基盤が大きく棄損してしまった

2013年の和食のユネスコ文化遺産登録、2016年の文化芸術基本法改正を機に、国や自治体はことあるごとに食文化をPRするようになった。まもなく開幕する東京オリパラでも日本の食文化を世界中の方々に知ってもらう絶好の機会として様々な企画が準備されてきた(コロナ禍でそのほとんどが実現しないが)。一見するとわが国の食文化の前途は有望に見える。しかし現実は厳しい。

まず、飲食店は利益率の低い業種である。過去20年における食材費の高騰、人件費の増加は飲食業の利益をさらに薄くしてきた。価格を上げることも難しく、収益を拡大する術がなかなか見当たらないのだ。また料理人を志す若者の数も平成10年の16,000人から令和2年には9,100人に減少、料理専修学校の定員充足率に至っては50%そこそこである。ビジネス面においても人財面においても食文化の基盤は非常に脆弱なのだ。

そうした脆弱さに今回のコロナ禍は拍車をかけた。さらに飲食店に対する政策の理不尽さがこの国で飲食店を続けていく情熱に冷や水を掛けた。これを機にわが国での飲食店経営をあきらめ、経営環境が良く(客単価が高い、食材が安い)、将来に希望の持てるシンガポールや中東などへ出店する著名シェフの話を周りで聞くようになった。

以上のように、25兆円規模の外食産業の前途は厳しい面が多い。これまで政策らしい政策がなかった分野に、コロナ禍を機にどう確立していくのか、政治と飲食業界両面から注目していきたい。

二之湯 武史 一般社団法人 食文化ルネサンス 専務理事
参議院議員時代より、「戦後モデル」からの脱却をテーマに、新しい資本主義の構築、クリエイティブ革命、ティール組織など政策に新機軸を打ち出す。文化、スポーツ政策にも精通。桜美林大学客員教授。


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