大企業が「面倒な顧客」のおもてなしをやめた理由

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

かつては「お客様は神様」と言われる時代があった。支持される企業とは、お客さんの要望を可能な限り聞き入れ、きめ細やかな対応を実現させ、物言わぬ要望を察して先回りして対応するというものだった。いわゆる「日本企業のおもてなし」である。

AndreyPopov/iStock

だが、近年において先端を行く一部の大企業で「面倒なお客さんの損切り」の兆しが出てきたのではと感じる。誤解のないように言っておくと本稿は「面倒な顧客はお客さんとしてダメだ」などと否定をしたい意図はない。あくまで企業活動の分析を目的として書かれた。

おそらく、この流れは今後も続く。そうなると世の中の企業におけるカスタマー対応は大きく変化するだろう。

ドコモのahamoに見る損切り

ドコモはahamoという新たな格安料金プランを発表した。auやソフトバンクも同じ動きに追従する。この新プランは基本的に、ユーザーが自身で申し込みなどの対応をする必要があり、店舗では有償対応となる。一部において、携帯キャリアの新格安プランに対して否定的な意見が見られた。「店舗での対応を有料化したのは、カスタマーフレンドリーではない」という趣旨のものだ。

ハッキリと口に出さずとも、この動きは「手間のかかる顧客の損切り」と解釈できないだろうか。本来、携帯電話を契約するという行為はとても手間がかかる。契約にまつわる窓口の説明や、待ち時間、購入後のサポートなどガラケーからスマホへ移行したことで、ドンドン人的、時間的リソースは肥大化し続けてきた。その一方、不明点は自発的に調べ、トラブルやプラン変更の自己処理をする、サポート不要なユーザーも存在する。携帯キャリアは「手間のかかる顧客は割高プラン、そうでない顧客は割安プランへ」とハッキリと二分したのだろう。この新プランの誕生は総務省からの価格下落圧力があってのものとの見方もあるのだが、現行のサービスを維持しつつ、値下げをすることに限界があったのだろう。

参考:過去記事でahamo顧客サポート有料化に企業が続くべき理由という記事も執筆しているのでご参考に。

Amazonは置き配のリスクを合理的に受け入れた

Amazonは配送方法において「置き配」を標準しつつある。「置き配」とは、あらかじめ指定した場所へ、非対面で荷物を配達するサービスである。新型コロナの感染拡大防止にも一役買うサービスとして、導入のタイミングが優れているといえる。

アマゾンの「置き配」、じつは「クレーム対応」に“ヤバすぎる秘密”があった…!という記事では、「Amazonは置き配で起こり得るリスクを受け入れている」と分析している。つまり、「トラブルがあったら保証するから、基本的に置き配で届ける」という判断をしたということだ。日本郵便は置き配の保険導入に踏み切った。

この置き配については、配達員が荷物を乱暴に放り投げる、盗難に遭う、箱が潰れて届くなどトラブルの声もある。だが、Amazonはそうしたリスクは承知の上で、大部分の「置き配で問題なく届いてユーザーが満足」という状態の割合を高めることを目指しているように思える。いざ、トラブルが発生しても素早くコンタクトセンターにつながるようにしており、スピーディーなサポート対応をしている。

Amazonのこの対応には、ドコモがahamoを導入時の既視感がある。つまり、「自社の合理的な置き配システムを受け入れたユーザーを顧客にしたい」ということだろう。置き配が受け入れられないユーザーは、別のECサイトを利用する、という勝算があるのかもしれない。件のスピーディーなコンタクトセンターでの対応も、「Amazonはトラブルの対処はするが、きめ細かい非合理的な配送には対応しない」という姿勢に取れる。言い方を変えれば、顧客を選ぶということだ。

中小零細は手間のかかる顧客は選ばない

ドコモやAmazonといった超大手企業が、合理的なシステムを打ち出しているが、元々中小零細企業の一部はそうした姿勢が顕著だ。マーケティングをする段階から、顧客を絞り込み、自社の哲学やシステムを受け入れてくれている人を顧客にしたいというインセンティブが働く。

筆者の知人はレンタルオフィスの内覧をする上で、慎重になりすぎるあまり、何度も営業マンに内覧のお願いをした。半年間は利用するという約束をして入居したものの、3ヶ月後に解約することになったという。その時に「うちは少数の人員で対応しており、あなたのために土日も出社して内覧の対応をした。たった3ヶ月で解約されると人件費で赤字になってしまった。もう利用しないで下さい」と相手から出禁宣告をされたという。この話を「ひどい営業マンだ」と思う人もいるかもしれない。だが、企業サイドから考えると、あながちそうとは言い切れない。手間のかかりすぎる顧客を対応することは、売上以上のコストがかかってしまい、結果として利益が出なくなってしまうからだ。

中小零細企業はマーケティングの段階でユーザーの絞り込みを徹底し、手間のかかるお客は避けてきたのだ。

手間のかかるお客さんの受け手がいなくなる

これまで中小零細企業は顧客を絞り込み、自社サービスに賛同してくれる相手をお客さんにしていた。だが、大企業は規模の経済を働かせ、分厚い人員や経営リソースを投じて、きめ細やかなカスタマー対応を実現させていた。大手はそれでも利益を出せたからだ。

しかし、近年になってその動きが変わりつつある。労働人口減少が続けば、手間のかかるお客さんを対応する人員も減る。企業も対応する余裕がなくなってくるだろう。一部の企業たちは、合理的に顧客の損切りを始めたと感じる。そのパンドラの箱を開いたのは、ドコモとAmazonだ。この動きに追従が続けば、「顧客の作法」が注目される時が来るのかもしれない。その時が「おもてなし」の終焉であろう。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。