「7つの重点政策」を掲げ、横浜市長選に出馬表明 ~候補者調整の提案も

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昨日(7月7日)、横浜市役所内で記者会見を開き、横浜市長選挙への立候補の意思について、次のように表明しました。

弁護士で、昨日まで横浜市のコンプライアンス顧問を務めていた郷原信郎です。

私は、本日から、横浜市長選挙への立候補の意志を持って政治活動を行うことを表明します。事実上の出馬の表明と受け取っていただいて構いません。

私がこのような決意をした理由についてお話しします。

私は2007年からコンプライアンス外部委員として横浜市に関わるようになり、この4年間はコンプライアンス顧問として、様々な問題におけるコンプライアンスの重要性について指導してきました。コンプライアンスによって目指してきたのは、横浜市役所の組織が地域社会、市民の要請に応えて活動をしていくことです。そういう意味で、これまで取組みをしてきたわけですが、何といっても、市長と市議会からなる二元代表制の地方自治体では、市長選は、自治体としての民主的基盤を確立する上で極めて重要なものです。

この8月に予定されている市長選挙は、これまでの選挙と違って、IR誘致の是非が争点となる、市民にとっても極めて重要な選挙だろうと思います。

しかしながら、この選挙をめぐる、これまでの情勢を見ますと、果たしてこの選挙がIR誘致の是非、それ以外の様々な横浜市が抱える問題、直面する問題などについて政策面の論争がしっかりと行われ、民意が反映される選挙になるのか、甚だ疑問、懸念がある状況です。IRについて言えば、賛成・反対が錯綜し、一体、何がどう争われていくのか分からない状況になっています。

一方、この市長選で横浜市政について、どのような政策を掲げるのかということについては、与党側も野党側も、ほとんど具体的には明らかにされていません。

極めて重要な横浜市民の選択になるべき選挙において、しっかりと政策を打ち出し、その中でIR誘致の是非についても明確な方針を示し、民意を問うことが不可欠だと考えて、私自身が立候補の意志を表明することにした次第です。

続いて、「7つの重点政策」について、次のように説明しました。

1. 住民投票で横浜IRに決着

・林文子市長は、前回市長選挙で、「IRについては白紙」と言って態度を曖昧にしたまま当選し、その2年後にIR誘致を表明。これに対して、市民による19万3193筆(住民投票条例制定の直接請求に必要な法定数6万2604筆の3倍超)の住民投票を求める署名が提出されたにも関わらず、議会で否決。市議会自民党公明党の支持を得て、今年1月、IR実施方針を公表し、設置運営事業予定者の公募を開始している。今回市長選挙では、このIR誘致の是非が最大の争点とされてきたが、IR反対を掲げる立候補表明が相次いだ末、IRを推進してきた現職閣僚が、「IR反対」を掲げて立候補表明するなど、市長選でのIR誘致への賛否の構図が複雑化している。

・IR誘致の是非が市長選での争点となっても、現在のような反対派候補が多数出馬を表明している状況では、市長選の結果が民意を反映するものになるとは限らない。また、市長選の結果に市議会が従うとは限らない。

・この問題に決着を付けるためには、市長選の結果を受け、改めて住民投票条例を市議会に提出し、可決成立させ、住民投票を実施して横浜市民の選択を求めるしかない。

2.山下ふ頭活用の選択肢としての市場と「食の賑わい施設」

・IRに替わる“有力な選択肢”として、山下ふ頭には中央卸売市場を移転するとともにフィッシャーマンズワーフを整備して食の拠点化を実施することを提案する。

・6月29日に立候補表明した坪倉良和氏の《中央市場の全面移転、フィッシャーマンズワーフ構想。ハマの文化の継承と発展へ》という構想に共感した。

・これまでIR誘致をめぐる議論には、実質的に代替案がなかった。「カジノなしハーバーリゾート構想」には膨大な資金が必要であり、調達困難。

・IR誘致は内外の観光客や横浜市民が「カジノで負けて失う金」で、将来の横浜市の財政難を補う収益源にしようとするものであり、ギャンブルによる「負の側面」の是非を問う住民投票では「消極的選択」にしかならない。

・その点、中央卸売市場を山下ふ頭に移転し、「フィッシャーマンズワーフを含む『食の賑わい施設』を作ろうというのは、内外の観光客に安らぎと充足を与える空間。横浜市民のみならず日本国民に夢を与える構想。中央卸売市場の主要施設である卸売棟は老朽化が進んでおり(卸売棟は1982年〜1986年頃整備)、今後市による建て替えが必要となっている。もともと、市場の整備には横浜市として負担すべき費用であり、IRと比較すれば、新たに必要となる費用が少ない。フィッシャーマンズワーフは民間による整備もありえる。

・「食の文化」の中心地であった築地を廃してコンクリートの塊だけの豊洲市場にしてしまった東京都とは真逆の方向性となる。

3.不要不急の予算を新型コロナ対策へ

・約2600万円の市長給料は市民感覚から乖離しており、市長給与を半額カットする。政令指定都市の市長の平均給与(2020年1765万円)を大きく上回り全国最高額となっている(横浜市の将来の財政状況を懸念するのであれば、まず、市長自身の高額給与を削減する)。

・総事業費600億円超のみなとみらい新劇場整備や市としても大規模支出が不可欠な上瀬谷通信施設跡地テーマパーク構想、花博誘致事業などが推進されており、不要不急の巨大プロジェクト予算を見直す。

・市のあらゆる予算執行に関して決算チェックを強化。無駄を徹底排除する。

・これらにより、医療体制の強化、ワクチン接種推進、生活困窮者支援、地元事業者支援など新型コロナウイルス対策予算に振り分けて行く。

4.政治的圧力との決別

・横浜市が、地方自治体として自立・独立し、政治的な介入・圧力を受けることなく、横浜市民と地域社会の要請に応える活動を行うことができる環境を実現する。

・コンプライアンス顧問として横浜市の行政に関わったこの4年間、「社会の要請に応えること」という方向性が横浜市職員によく理解され、現場で発生する個々の問題事象への対応のレベルも格段に向上した。しかし、顧問の立場上これまでは関わって来なかった自治体の運営、事業に関する重要な意思決定の部分において、果たしてそれが市職員の「社会の要請に応える」という方向での検討・議論の結果であるのか否か疑問に思えるものがあった。

・IRの誘致も、横浜市民にとって横浜市の未来にとって極めて重要な意思決定だが、横浜市の対応は、結局、政府の方針や政治的かけ引きに振り回されているだけで、地方自治体としての自立した判断が行われているとは到底言えないものだった。このような横浜市としての重要な意思決定に、外部から政治的圧力が働いているとすれば、そのような力に対して「盾」になって、その力をはねかえすのが市長の重要な役割。

・市の内部においては、自治体としての主体性、自立性を高める「ガバナンス改革」として、職員への研修を徹底するとともに、現場の職員だけでなく市幹部の意思決定の透明性を高め、市民と地域社会の要請に応える市役所に変える。

5.住民自治を発展

・常設型の住民投票条例を制定し、市民に重大な影響を与える事項について住民投票を実施できるようにする。(川崎市では常設型の住民投票条例が2009年施行、投票有資格者1/10以上の住民・議会・市長により発議が可能)

・横浜市は南北での特色の違いなど地域毎の多様性が豊か。地域毎の多様性を活かした行政を実現するため、区長権限を強化するとともに、区毎の地域協議会、区選出議員による委員会を設置、区の住民自治機能を向上させる(泉区には地域協議会あり)。

・市長や区長が積極的にタウンミーティングを開催し、市民の感覚を市役所へ反映する。

・条例により可能な、上記の区の住民自治機能強化を実施した上、法改正が必要な特別自治市構想の実現を引き続きめざしていく。

6.市民の多様性が輝く横浜へ

・新型コロナの影響で特に高齢者の生きがいや運動の機会が奪われている。ワクチン接種が進む中、引き続き感染対策に万全を尽くすとともに生きがいや運動の機会を持ちながら健康寿命を伸ばして行くことが重要。横浜市では敬老パス(横浜市敬老特別乗車証:70歳以上の横浜市民が一定額で市内のバス、地下鉄等が乗り放題になる)の見直しの議論が進められている。外出機会をさらに減らすことにつながる敬老パス見直しはストップさせる。

・女性が活躍しやすい環境整備にはまだまだ課題が残っている。まずは横浜市役所がモデルとして変化しなくてはいけない。市政に多様な視点と市民感覚を反映するために、そして、市役所の取り組みが社会に波及し、誰もが暮らしやすい社会をつくるために、区局長、部長ポストに女性の活用を拡大する。男性の育児休業取得促進など男女を問わず働きやすい職場環境をつくる。性的マイノリティの職員も働きやすい環境を整えて行く。

・その他、障害者への合理的配慮の補助新設、課題の多いハマ弁を継承して2021年度に始まった公立中学給食の検証、統計の変更で見えなくなっている隠れ待機児童対策(希望の保育所等を利用できないケースや育児休業中の家庭の児童等が含まれなくなっており引き続き待機児童対策が必要)、教員や児童相談所等のセクハラ対策の厳格化、民間団体への支援充実によるこどもの貧困対策、動物愛護センターでの殺処分ゼロ化(横浜市「人と動物との共生推進よこはま協議会」2020年度資料によると2019年犬28件、猫250件)など、横浜市が抱える様々な課題に対応していきたい。

7.市民の命と暮らしを守る

・土砂災害を防ぐため崖地防災対策事業予算を倍増する。(2021年度予算2.3億円、うち崖地防災対策工事助成金5300万円、助成金一件あたり限度額400万円)。

・横浜市では2014年の台風で緑区、中区で土砂災害死亡事故発生。2020年には伊豆市、今年7月3日に熱海市で死亡事故が発生していること、2020年6月に新横浜駅付近の横浜市道環状2号線で2回の道路陥没が発生を踏まえ、開発行為やメガソーラー設置、トンネル工事等によるリスク検証を開始する。

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このような主要政策を打ち出しましたが、一方で、これまで一貫して安倍・菅政権を批判してきた私としては、今回の横浜市長選でも、反自民勢力の結集が極めて重要と考えており、私自身の立候補によって反自民票が分散して自民党を利することになるのは、決して本意ではありません。

立憲民主党が推薦候補として擁立し、6月29日には出馬会見も行って、市長選に向けての活動を開始している横浜市立大学元教授の山中竹春氏が、野党統一候補として横浜市長となるのに相応しい人物であることが確認でき、私が掲げた「横浜市政に関する主要政策」にも基本的に賛同して頂けるのであれば、私の立候補の意思は撤回し、山中氏を全面的に応援したいと考えています。

そこで、阿部知子立憲民主党神奈川県連会長宛てに質問状を送付し、同質問状には、以下の「質問事項」と上記の「7つの重点政策」を添付しました。

【山中竹春氏に対する質問事項】

(1)市長選挙出馬の決意表明で、「データ分析の専門家として、データを活用した市政を行いたい」と言われていますが、横浜市立大学の教授・学長代行、大学院データサイエンス研究科長という、横浜市の公立大学での要職のままで、データサイエンスの横浜市の行政に活用していくことはできなかったのでしょうか。なぜ、市長になることが必要と考えられたのでしょうか。

(2)6月29日の出馬会見の際、「カジノによって依存症が増え、治安が乱れ、教育環境が悪くなるのはデータによって明らかだ。IRの誘致には断固反対で、即時撤回する」と発言されていますが、ここで言われる「データ」というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか。そのデータによって、カジノによる依存症増加、治安悪化が、どのように根拠づけられているのかご教示ください。

(3)横浜市立大学教授在任中に、データに基づき「カジノはギャンブル依存症の増加、治安悪化につながる」との指摘を、横浜市立大学内部で、或いは横浜市に対して行ったことはあったのでしょうか。指摘できなかったとすれば、どのような事情があったのでしょうか。

(4)山中氏は、「データサイエンスの立場から、市長として、数字と根拠に基づく的確かつ迅速なコロナ対策」を行うとされているのですが、この「コロナ対策」というのは、具体的にどのようなものなのでしょうか。現在の横浜市の対策とどのように異なるのでしょうか。

【質問の理由】

横浜市では、2017年3月に「横浜市官民データ活用推進基本条例」が、自民党若手議員を中心とする議員提案で制定され、市としてのデータ活用への取組みが本格化しています。山中氏の横浜市大でのデータサイエンス研究は、その中核に位置付けられていたはずです。山中氏が横浜市大教授を突然、辞職したことによって、大学院データサイエンス研究科長が事実上空席となるなど、大学院研究科の運営にも重大な支障が生じています。山中氏は、市立大学の要職のままで、データサイエンス研究を市の行政に活用するのではなく、市長という立場に立つ必要があると考えたのはなぜなのでしょうか。

横浜へのIR誘致の是非は、今回の市長選の最大の争点とされていますが、出馬会見において、山中氏は、データサイエンティストの専門の立場から、「ギャンブル依存症の増加、治安の悪化がデータによって明らかだ」とされています。

しかし、横浜市では、「横浜市民に対する娯楽と生活習慣に関する調査」としてギャンブル依存症の実態調査を行い、「医学部を持つ横浜市立大学等と連携し、より効果的な対策や予防教育の検討を進めるなど、事業者や研究・専門機関との研究を進める」との方針を打ち出し、横浜市大の協力も得ながらデータに基づく検討を行ってきたはずです。私が、コンプライアンス顧問として、IR担当部長から説明を受けたところによれば、これまでの調査・研究の結果、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化が裏付けられるデータは得られていないとのことです。また、治安対策については、近年、日本の経済社会全体で強化されてきた反社対策、マネーロンダリング対策等を踏まえて行われているものであり、私自身も、それらについては元検察官の弁護士として、専門知識がありますが、少なくとも、カジノを含むIRによる治安悪化は防止できる制度的整備はなされていると考えています。山中氏が、IR誘致による治安悪化がデータによって明らかだというのであれば、IR整備法等の法律の実効性に重大な問題があることになります。

横浜市大教授・学長補佐の立場にもあった山中氏が、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化が「データ」によって明らかだというのであれば、横浜市大内部や横浜市に対して、そのデータを示して、IR誘致による弊害を指摘することができたはずです。もし、山中氏が指摘しているのに、そのような指摘やデータが横浜市大内部で握りつぶされ、隠蔽されてしまったというのであれば、横浜市にとって重大なコンプライアンス問題になりかねません。根拠となる「データ」の中身と、それがどのようにして収集されたものかを明らかににするべきだと思います。

山中氏は、市長になったらIRを「即時撤回」すると言われていますが、これまで、IR誘致賛成が多数を占めてきた市議会の構成に変化はなく、IRの「即時撤回」を打ち出した場合、その理由について、市議会で説明を求められることは必至です。その際、ギャンブル依存症の増加、治安の悪化がデータによって明らかだというのであれば、その根拠となるデータを提示することが不可欠と考えられます。

また、データに基づく「コロナ対策」についてですが、新型コロナ対策特措法上の権限は国と都道府県にあり、市町村で「コロナ対策」に関して行えることは、保健所での感染者対応、ワクチン接種、事業者支援等に限られます。データに基づくコロナ対策として、横浜市にとってどのような対策が想定されているのかわかりません。

以上のとおり、山中氏は、IRについても、コロナ対策についても、データサイエンティストとして専門性を強調し、データに基づく立論をされていますが、今のところ、根拠が示されず、具体的な説明がありません。上記の各点についてデータ上の根拠の提示と明確な説明を求めます。

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なお、今後の市長選に向けての政治活動の進め方ですが、東京でコロナ感染者が再び急増し、それが横浜市にも波及することが懸念される中、「人と人との接触」は極力回避する活動を展開したいと考えています。

まず、ホームページを開設し、「7つの重点政策」を掲げて、皆さんからの質問・意見を求めます。それに対する私の意見も述べ、ネット上での議論を活発化させていきます。

また、他候補とのネット上での討論会も積極的に行い、横浜市の当面の課題や将来ビジョンについて政策論争を深めていきたいと思います。

特に、「7つの重点政策」の中で、2. 山下ふ頭活用の選択肢としての市場と「食の賑わい施設」として掲げた、山下ふ頭の活用に関する新たな選択肢については、既に市長選への立候補を表明している発案者の中央卸売組合理事の坪倉良和氏にも協力を求め、構想を具体化させ、横浜市民のみならず、全国の皆さんに、「山下市場・フィッシャーマンズワーフ構想」の素晴らしさを訴えていきたいと思います。

このような活動を行いながら、上記の山中氏への質問事項への回答を待ち、その内容によって、市長選に向けての私の対応方針を確定したいと思います。