欧米と日本におけるワクチン接種効果の検証

コロナワクチン接種は日本でも高齢者中心とはいえそれなりに進捗し、あとはバラ色の未来が待つばかりのはずだったが、東京に4回目の緊急事態宣言が発出され首都圏では無観客での開催に決まった。元凶は政府によるワクチン手配の遅れとして、一部の新聞テレビでは政府のワクチン対策への非難の声も高まることだろう。

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遅ればせながらも日本でのワクチン接種(部分接種率)も現在は30%に近づいている。この機に欧米のワクチン接種先進国と日本のワクチン接種の成果、もしくは効果を検証してみた。以下データは「札幌医大 フロンティア研 ゲノム医科学」特設ページから引用させていただいた。

今回のサンプル国は、ワクチン接種効果の象徴のようなイギリスとアメリカ、加えて西ヨーロッパの国々(仏、独、スペイン、伊、ベネルクス三国、スイス、オーストリア)、カナダ、そして日本。イギリスではワクチン接種開始が早かったこともあり現在接種率は60%台後半、少し遅れて開始したアメリカが55%ほど、さらに遅れた西ヨーロッパ諸国は速やかに接種作業が進捗してアメリカ並みの55%から65%に達している。今回のサンプル国ではカナダがイギリスを上回って70%近い接種率に達している。一方日本の接種開始は遅れたものの接種作業は順調で27-8%ほどである。

日本も20%を超えたので、共通した接種率20%を物差しにすればすべての国のワクチンの効果を有意に比較検証することが可能になる。図にはワクチンの部分接種率20%達成時期を色の付いた丸で示した。イギリスが2月上旬、アメリカは3月中旬、西ヨーロッパが4月後半、そして日本が6月下旬である。

下図は同期間の人口100万人あたりでノーマライズした各国の感染者の推移。縦軸は7日間の移動合計なので日々の感染者のイメージがわかりにくいが、相対的な人数と思えばよい。1月上旬のオレンジのピークを形成しているのがイギリスとアメリカ。その隣の茶色のピークはスペイン。図にはワクチン接種率が20%に達した時期を色丸で示している。

煩雑な図ではあるが接種率の進捗データと合わせ見ることにより、ワクチン接種の効果が読み取れる興味深いデータである。以下簡単に国別の所見を記す。

(1)イギリスとアメリカ

両国ともワクチン接種率が20%どころか5%に満たない段階から感染者は激減を示している。世の報道は、わずか国民の5%に対する接種で感染者が激減を開始するほどワクチンの効果は絶大、というものなのだろう。しかし部分接種率5%で劇的な感染者減が生じることはありえない。スペインでも1月下旬に激減し始めたが、この時のスペインの接種率は微々たるもの。以前に述べたように、ワクチン以外のより強力な感染収束の要因が存在すると考えた方が合理的かつ科学的である。

ただし、20%達成後も接種の進捗に連れて感染者は減少を続けている。これは素直にワクチン接種の効果と考えられる。減少効果の実績は、アメリカで20%の時点から10分の1、イギリスでは感染者のボトムでは7分の1ぐらいといったイメージ。

(2)西ヨーロッパ諸国

国によって感染者レベル3倍以上の差が認められるが、接種率が20%に至る前にいずれの国も感染者数のピークを観測している。アメリカやイギリス、スペインと異なり、ピークの形成=収束の開始はワクチンの効果と見て良さそうだ。そして現在、半分以上の国で変異株の影響とみられる感染者数の再拡大が見られるものの、感染者のボトムはピーク時に較べ10分の1から20分の1ぐらいで、明らかな感染の収束効果が観察されている。

この結果はワクチンが、ヨーロッパの民族に対しては、接種率20%弱で社会的感染減少が見られ始め、接種率が50%を超えると感染収束とみなせるレベルまで感染を抑えることができるということを示している。一方、多くの国で感染の再拡大が見てとれるということは、ワクチンの有効性はワクチンの株の種の影響を免れないとい証左だろう。ただし、無効という訳ではなく、一定の抗体効果は期待できるはずである。

(3)日本

底辺にへばりついている赤線が日本の感染者推移。これまでくどくどと繰り返してきたように、日本人に対する新型コロナの感染率は欧米に較べて桁違いに低い。これも以前から記していることだが、日本人は欧米人にはない何らかの自然抗体を保有していると考える方が、合理的かつ科学的。各国の感染者数推移の実態は、日本人においては、ワクチンを接種された後の欧米人の状態と同じ状況にあると言ってよい。

さてその日本の接種率が20%に達した時期は6月下旬である。感染者のピークが5月中旬に見られるが、この時期の接種率は5%に満たず、イギリス、アメリカ、スペインで見られたような他の要因による減少と考えるべきであろう。現在は多くの国において感染者が激減して右下に収束してしまい、あまりに見にくいので拡大図を下記に示した。日本の現状が、緊急事態宣言が発出され感染者が増加傾向にあるとはいっても、ワクチン接種による感染収束を見た西ヨーロッパの国々と並んでいるという実態を明らかに見て取ることができる。

ちなみに現在の感染者数のスナップショットがこちら。日本はドイツ、オーストリア、カナダを上回っているが、アメリカの3分の1、イギリスの30分の1というのが現実。日本の接種は高齢者に偏っており、60歳以下の接種者は少ない。そのため微視的には高齢者に対するワクチンの効果は見られるが、マクロにみればこの結果は、日本人に対するワクチンの効果は欧米人と全く様相が異なることを示している。

もう一点。緊急事態宣言の対象が東京であるように、日本の一部の大都市で感染者が多いのであって、日本の国単位で論ずるのは見当違い、とのご意見があるかもしれない。しかしどこの国でも大都市もあれば農村部もある。状況は世界各国同じ。むしろ、日本は人口密度が高い国で、国全体でみてもソーシャルディスタンス的に密で感染しやすい国であるはずである。下記はウィキペディアから取った人口密度の資料。アメリカが意外なほど低いにも関わらず世界一の感染国。

以上の感染者が異様に少ない日本の状況は1年以上前のパンデミック初期から全く変わらない。今、ワクチン接種の進捗が周回遅れと揶揄されている日本だが、感染者数は欧米諸国のワクチン接種がほぼ完了した国々の状況と同じかむしろより効果的ともいえる状態こそ、マスメディアが国民に伝えねばならないコロナの日本における実態である。

それにもかかわらず、なぜ日本では未だ緊急事態宣言が発出という状況に陥るのか?一つには日本人が欧米人に較べて感染症に対して過敏に反応する国民性という点もあるだろう。

しかしそれよりも、テレビ新聞による報道姿勢が微視的な情報が中心で視野が狭く、実態の報道というより恐怖心を煽る結果となっていることがまず根本的な原因。次に多くの国民にとってテレビ・新聞が新型コロナに関する情報のほぼすべてである現実。最後に政府を構成する国会議員や知事にとっては議席もしくは知事の椅子を確保するためには、恐怖心や不安に洗脳された多数派の国民を満足させる対策が重要視される。現在の日本の空気では、一部の不満はあっても対策の有効性ではなく、感染防止と戦っているという形作りを優先せざるを得ないだろう。日本の社会と経済の委縮は、これら三者の巨大な連鎖構造に起因していると断言してもいいのではないか。