変わる移動の常識観

7月11日にアメリカのバージンギャラクティック社が飛ばしたのは母船に装着された有人宇宙船。母船が離陸から45分後、高度15キロに達したところで有人宇宙船を切り離し、そのまま高度100キロにやや満たない宇宙と地球の境界あたりまで飛び、無重力を4分間楽しみ、地上に戻ったのは離陸から約2時間後であります。

この宇宙船に乗り込んだのは同社の創業者などで特別訓練を受けている人ではありません。また7月20日にはアマゾンの創業者、ジェフベゾス氏らが乗り込むブルーオリジン社の宇宙船もほぼ同様の宇宙空間の入り口まで到達する予定です。

日本では一般人としては前澤友作氏が今年、宇宙に向けて飛び立つための訓練を受けていますが、そのプロセスをみると既にひと世代古い流れになっているように見えます。宇宙への道のりが一気に身近になったと言えるのでしょう。

この宇宙船技術は都市間の超高速移動にも応用できるとされ、東京シンガポール間が現在の7時間10分がわずか28分、ロンドンとニューヨーク間が29分といった具合になると計算されています。また、イーロンマスク氏は世界各国の超高速の都市間移動をエコノミー料金並みにすると発言しています。

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世界の移動の期待感が明らかに変わりつつあるといってもよいでしょう。6月5日の本ブログでブーム スーパーソニック社の超音速旅客機をユナイテッド航空が発注し、株主のJALも優先的に配分を受けるという話題を振りました。この移動手段をかつてのコンコルドと比較するとネガティブなものになるかもしれませんが、全く新しい常識観で取り込まねばならないように思います。

テスラのイーロンマスク氏はスペースX社の創業者でもありますが、もう一つ、大深度のチューブ内の超高速移動手段を推進しているプロジェクトもあります。これはハイパーループと称されるものでイーロンマスク氏だけではなく世界で5-6社が激しい開発競争をしています。冒頭に紹介した宇宙船を開発したバージン社のハイパー部門、バージン ハイパーループ社はインドでその最初の取り組みをする予定でしたが、コロナで遅れが出ています。一方、スイス国内でもスイスポッド社が計画推進に向けて準備しています。

このハイパーループは時速1000キロから1200キロとなります。JR東海が建設中のリニアの2倍速ということになります。

移動の常識がどんどん変わる一方で人々の生活は今までの出張とか会議出席といった移動はどんどん減っていくとみています。更にコロナでの移動制限が1年半にも及ぶ中で必要な移動の絞り込みを行ったり国際間移動が実質的に止まってもビジネスができることを証明してしまったのです。

あらゆるものがインターネットでつながるIoTがバックボーンとなれば現地に行かなくてもそして現場で何が起きているか、全てが手元の端末でチェックできるのです。今ではビデオ撮影とその送信も極めて簡単だし、何年後にかはVR(バーチャルリアリティ)を充実させれば現地に赴くよりより正しく、しっかりした理解を得ることができるかもしれません。

先日のブログでは空飛ぶ自動車やドローン型の最新移動手段をご紹介しました。多分、これをお読みの方は「そんなもの、仮に技術的に実現できたとしても日本で使えるようになるわけがない」とおっしゃると思います。確かに行政の壁はかつて以上に崩せなくなっています。一方、アメリカではそのような今までの常識観を覆す「物体」を実験させ、許可を出すことに惜しみないのです。

自動運転のクルマの実験もアメリカで数多く行われてきました。当然、そこでは事故も経験していますが、その犠牲を無駄にせず、もっと高いレベルを目指しています。まさにチャレンジャーです。日本ではこのような新しい技術の取り込みに対して「なぜ、それをやらねばならないのか?」「既存の技術で十分ではないか?」「安全対策が不十分だ」「技術的検証が終わっていない」などやらない理由をごまんと並べます。そのリーダーは役所であり、マスコミであり、野党であります。

かつて新幹線技術で世界をうならせましたが、もう、日本には世界を驚かせるような移動手段の開発は出来ないように思えます。リニアですら環境問題で静岡で止まってしまったのをみると国家を含め、社会全体が上に向きたい、よりよくしたい、もっと便利にしたい、乗り越えようという一体感が欠如してしまいました。

トヨタが進める静岡県の未来都市、ウーブンシティも自社の土地だからこそできるわけで実質的な国や自治体の協力は二次的なものであります。

移動だけに関していえば昭和48年の標語「狭い日本、そんなに急いでどこに行く」で高速移動を否定したように思えます。結局それ以降、新幹線の性能向上と路線の延長はありましたが、基本技術は同じです。また航空機による移動もプライベートジェットが国内で普及するわけでもありませんでした。

その間、世界ではすさまじいレベルで開発が進むものの、日本は海外発の新技術やトレンドすら受け入れることが難しくなりつつあります。それではあまりにも寂しい気がします。日本が革新的な新移動手段の開発に名がつらなり、我々の移動に革命的変化が起こるようになれば夢も膨らむものです。

ドラえもんの夢の三大道具、タケコプター、タイムマシン、どこでもドアのうち、タケコプターとどこでもドアが一歩近づいているのです。移動が究極的に短くなることへの我々の生活への影響は計り知れないものだと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月15日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。