「後払い」のテクノロジー

日本でクレジットカードで物品を購入した際に「一括になさいますか、分割にされますか?」と聞かれると思います。私はそもそも借金が好きではないので分割という選択をしたことがないのですが、調べると2回払いがある場合は金利がかからないようですが、3回払い以上になると金利がかかります。

これは割賦販売法という法律で2カ月以上にわたる分割払いはこの法律に引っかかるため、3回払いは割賦販売法の枠組みの中で金利がかかるというものです。一般的に2回までなら2カ月以内に支払いが終わるので金利がかからないというわけです。ちなみにこの取り決めは給与日は月に一度という前提です。

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さて、「サービスや購入は今すぐ、だけど支払いはあと」というトレンドが世界で急速に増えてきています。英語でBuy Now Pay Later とまさにそのものの表現で略称がBNPLです。これが今、トレンドになる勢いで多分、これから一般メディアにこの四文字英語が踊るのではないかと思います。

では前述のクレジットカードの分割払いとどう違うのか、と言えばまず、スマホ決済が前提です。支払い方法で後払いを選択することが可能になっているケースが増えていると思います。この後払いはクレジットカード会社がやっているのではなく、別の企業が提供するサービスです。日本ではペイディ、アメリカではアファーム、ペイパル、セズル、欧州ではクラーナといった会社が提供しています。

またアップルがゴールドマンサックスと組んでiPhoneにアップルペイのサービスの一環でBNPLを組み込むことを発表しました。北米の場合、給与の支払いが月2回や2週ごとの支払いが多く、それに対応して2週ごと4回までの支払いは金利ゼロ、もしもそれ以上長い場合には金利を払って割賦販売を受けるということになります。ちなみに金利はアファームが30%程度で他社も10数%から20%台となります。日本では確か、最大金利は法律で20%だったと思います。

BNPL業者とクレジットカード業者の後払いの違いのもう一つが与信のプロセスです。クレジットカードの場合は収入、勤務先、勤続年数、居住形態、居住年数、年齢、家族構成といった点を申込書を通じて審査し、ブラックリストとの照合も行います。Aというカード会社で踏み倒したらブラックリスト入りですからBというカードは作れない可能性が大です。

ところがBNPL業者の信用チェックはAIが行います。一部はCICといった信用情報機関とのやり取りをしますが、実際にはほぼ瞬時にその人の支払い歴を含めた信用チェックを行い、業者によってはかなりグレーな顧客にも後払いを提供しているようです。

なぜそこまでして似たようなビジネス環境の中で新しいサービスを提供するのでしょうか?一つにはクレジットカードのような年間管理費のような費用が掛からないこと、カードを持ち運ばなくてもよいこと、クレジットカードそのものを持っていない(持てない)若い人の後払い代替手段ということかと思います。

そう考えるといわゆる与信レベルでは比較的低い人が主たる対象となり、与信額も数万円といった小さい額になります。今お金がない、だけど、今欲しいという人への需要を満たす手段ということでしょう。

覚えていらっしゃる方もいると思いますが、「給与前払いサービス」が2-3年前に話題になりました。今ではあまり聞かないと思いますが、サービスはもちろん継続されています。これも給料日までまだ2週間ある、だけど、今、どうしてもこれが欲しいといった場合にいわゆる給与の前借りのような形をとり、(当然、借り手は手数料も払う)モノを買うというものでした。BNPLが普及すれば給与前借サービスにはかなりのダメージとなるはずです。

いづれにせよ、個人的にはあまり感心しないビジネスです。消費意欲をそそり消費を先取りする形になり、借り手は一時期の満足感に対して重い負担を長期にわたって強いる可能性はあると思います。なぜならこれにはまると延々と同じことを繰り返しやすくなり、常に負債を背負っていることになるからです。

それは古い考えだ、借金は信用の証だ、と言われればそれまでですが、アメリカのように借金を返せなく個人破産してもやり直しがしやすい国もあれば日本のようにかなり重いペナルティを課す国もあります。住宅ローンも夫婦共稼ぎで必死で返済、それでも返し終わらず、子供の代まで引き継ぐなんていうことがあれば本末転倒です。

例えは違うかもしれませんが、ボートは「買った時と売った時が一番うれしい時」と言われます。なぜなら所有期間のコストが高く、金食い虫だからです。借金も同様、買った時と返済し終わった時が一番うれしいのです。

とすれば企業が個人の消費意欲を煽っているようで家計の健全性からするとちょっとやり過ぎな気もします。いくらテクノロジーで与信が瞬時に出来ても社会的枠組みの中で経済的自立がまだ十分ではない人への過剰な与信は一定の社会問題として揉んだ方が良いかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月16日の記事より転載させていただきました。