小学校の支援学級は本当にインクルーシブなのか --- 徳永 由美子

「特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものである」と文科省が唱えているように、2013年までは障害がある子どもは、原則特別支援学校に就学することになっていたものが、その年、障害のある児童生徒の就学先決定の仕組みが改正され、本人・保護者の意見を最大限尊重し、教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、市町村の教育委員会が最終決定をするものとなりました。

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希望すれば障害があっても地域の学校へ通うことができるのです。せめて小学校までは地域の学校へ通うことで、地域にその子がいることを認識してもらえるのです。仮に小学校から高校まで支援学校で過ごした場合(障害の程度によってもちろんそれがお子さんにとって最善の場合も多々あります)、将来的にそのお子さん自身に地域で声をかけてくれる人はどの程度いるでしょうか。地域の公共とも言える公立小学校は共生社会の土台とも言えるでしょう。

そのため、本来は保護者が引け目を感じることはないはずです。就学前相談で特別支援学校を勧められたとしても、保護者やお子さんがお友達と一緒の地元の学校に通いたいという意向であれば、尊重されてしかるべきなのです。

確かに当初は「「合理的配慮」や「基礎的環境整備」は新しい概念であり、個々の学校現場で参照できる先行事例が存在せず、さらに、障害のある児童生徒の状態は一人一人異なるため、各自治体・学校で全ての児童生徒の障害に応じた対応は困難な状況」(文科省)であったかも知れませんが、2016年には障害者差別解消法も施行され、随分と現場の理解も進んだのではないでしょうか。

そのため特別支援学校を勧められたのに公立小学校に通わせてもらっているなどと「負い目」など感じる必要はないのです。

しかしながら問題なのは「教育の地域格差」ならぬ「学校による格差」なのです。これが現状です。

地域の公立学校への入学は教育委員会と保護者で話し合われますが、教育委員会は受け入れ先の校長と入学について相談します。校長が難色を示せば教育委員会は保護者へ特別支援学校を勧めるでしょう。それが現実かも知れません。

逆に障害に対してとても理解のある校長先生も勿論いらっしゃいます。支援級に対してだけでなく、組織のトップ、つまり校長次第で学校の雰囲気は随分変わります。校長の意識次第で支援級の在り方もクラス担任の理解も大きく変わります。何より自信と信念のある校長は保護者とのコミュニケーションを怠りません。

現在の小学校における特別支援学級は、交流学級と言って、所属する普通学級があります。全ての児童が交流学級にいくわけではありませんが、クラス担任に「お客様扱いしかできませんよ」と言われたらどうでしょう?

支援級の児童が交流学級に行かない時はその児童の机といすは廊下に出されており、児童が交流に行く時に自分で机といすをクラスに運ぶ、決まって席は一番後ろ。クラスメイトはその支援級の児童を自分のクラスの仲間だと思えるでしょうか。

学校にお迎えに行くたびに支援員の先生から「今日はこんなことがあって本当に大変でした」と毎日言われたら、保護者は申し訳なさでいっぱいになります。家に帰れば親は四六時中その児童の面倒を見るわけですから、苦労を共有してあげられないのかと思ってしまいます。

文科省のインクルーシブ教育システムには以下のように記されています。

「特別支援学級と通常の学級との間でそれぞれ行われる交流及び共同学習は、特別支援学級に在籍する障害のある児童生徒等にとっても、障害のない児童生徒等にとっても、共生社会の形成に向けて、経験を広め、社会性を養い、豊かな人間性を育てる上で、大きな意義を有するとともに、多様性を尊重する心を育むことができる」

上記のようなクラス担任の対応など、校長の指導により簡単に是正できることです。しかしそんな事すら保護者は誰に相談していいのかもわからず、子どもを「人質」と例え、「そんなに気に入らなければ支援学校に行ったら?」と言われるのを恐れているのです。

運よく障害や支援級にとても理解がある小学校に入学出来て、周りの理解と協力を得ながら数年間過ごせたとしても、公立小学校には「異動」があります。校長が変わった途端に特別支援学校への転学を暗にほのめかすような事があっては絶対になりません。しかしながら実際には学校にいづらくなり、特別支援学校の見学を始める保護者もいます。校長の権限は絶対であり、前任の校長も口出しなどできるものではありません。この「校長次第」がインクルーシブ教育の最大の妨げとなっているのではないでしょうか。教職員の評価は校長ができますが、校長の評価ができるのは保護者だけです。特別支援教育を充実させるためには教職員の専門性を向上させることはもちろん、どの小学校でも安心して学校生活を送るための「基礎的意識整備」が必要です。

子どもは子どもの中で育つものです。地域の小学校で過ごす障害を抱える子ども達の成長には目をみはるものがあります。本当のインクルーシブ教育とは、受け入れることのみにあらず、「成長を共に喜び合える学校環境」です。教育委員会にはぜひこの点を再認識していただきたいと思います。

徳永由美子 佐倉市議会議員(自民党)
子ども・子育ての活動などを経て現在2期目のNPO系市議会議員。医療的ケア児や発達障害・学習障害などにも積極的に取り組む。