「国民民主党」玉木代表の「全体主義」発言
国民民主党の玉木雄一郎代表は、7月15日立憲民主党及び国民民主党がそれぞれ労働組合「連合」と締結した政策協定に盛り込まれた「左右の全体主義を排し、健全な民主主義の再興を推進する」という文言をめぐり、「全体主義とは共産主義、共産党のことである」と記者会見で発言した。これに対して日本共産党の小池晃書記局長は7月19日の記者会見で、「わが党は戦前から軍国主義、ファッシズムと戦い続け、民主主義と自由を何よりも大切にしている。全体主義とは対極にある政党だ。」と反論し、共産党を全体主義とした発言の撤回を求めた(7月19日付「朝日新聞」)。
「連合」神津会長の日本共産党批判
今回、立憲民主党及び国民民主党と政策協定を結んだ「連合」の「共産党アレルギー」は根深いものがある。「連合」は共産党系労働組合の「全労連」と激しく対立してきた長い歴史があるからである。「連合」の神津会長は6月23日東京都内での講演で、「共産党は民主主義のルールにのっとって物事を運営する組織とは言えず、そういう政党と連立するなどは意味不明だ。安全保障や日米同盟、天皇制など国のあり方の根幹の考え方も違う。共産党との連立政権はたとえ閣外協力であってもあり得ない。」(6月23日付時事ドットコムニュース)と述べた。前記玉木代表の記者会見での発言はこの連合の立場にも配慮したものであろう。
「全体主義」とは何か
ところで、一般に、全体主義とは、「個人の利益よりも全体の利益を優先し、全体に尽くすことによってのみ個人の利益が増進するとの前提に基づく政治体制であり、一つのグループが絶対的な政治権力を全体または人民の名において独占するものをいう。歴史的にはナチス・ドイツ、ファッシスト・イタリアなどのファッシズム政治体制があげられるが、スターリン主義や毛沢東主義を含むこともある。一党独裁、議会制民主主義の否定、表現の自由弾圧、恐怖による警察政治などの共通点がある。」(「ブリタニカ国際大百科事典」参照)とされる。
旧ソ連、中国、北朝鮮は、いずれも共産主義のイデオロギーであるマルクス・レーニン主義(「科学的社会主義」)を指導理念とし(北朝鮮の場合は「主体思想」)、プロレタリアート独裁に基づく、名実ともに共産党一党独裁体制の国家であることに異論はないであろう。これらの国では、政府に反対する政党の存在は認められず、個人が政府を批判する自由はなく、批判すれば「反党反革命分子」として逮捕される。したがって、これらの国は前記ブリタニカの定義によれば、「全体主義国家」であると言えよう。
マルクス・レーニン主義(「科学的社会主義」)に立脚する日本共産党
日本共産党の指導理念はマルクス・レーニン主義(「科学的社会主義」)である。党規約2条で「党は科学的社会主義を理論的基礎とする。」と明記している。
そして、改定党綱領の五で「社会主義をめざす権力をつくり、生産手段を社会化して、社会主義・共産主義社会へ進む」としている。即ち、日本共産党は「社会主義革命」を目指す政党である。「社会主義をめざす権力」とはプロレタリアート独裁のことであり、日本共産党はプロレタリアート独裁を容認しているのである。プロレタリアート独裁とは、「共産主義革命に反対する反党反革命分子を弾圧する労働者階級の権力」(レーニン著「国家と革命」レーニン全集25巻499頁参照)であり、その実態は共産党の一党独裁である。
日本共産党の理論面での最高指導者である不破哲三同党付属社会科学研究所所長も「社会主義日本では労働者階級の権力すなわちプロレタリアート独裁が樹立されなければならない。」(不破哲三著「人民的議会主義」241頁参照)と明確に述べている。そして、マルクス・レーニン主義の核心は暴力革命とプロレタリアート独裁であるから(レーニン著「国家と革命」レーニン全集25巻432頁、445頁参照)、日本共産党がマルクス・レーニン主義(「科学的社会主義」)を理論的基礎とし、共産党一党独裁であるプロレタリアート独裁を容認している以上は、反対政党の存在も、個人による政府批判も許されないから、前記ブリタニカの定義によれば、理論上、日本共産党に対し「全体主義政党」との批判は可能と言えよう。
日本共産党の民主集中制と「党内民主主義」
一方、日本共産党は、「民主集中制」を党運営の組織原則としている(党規約3条)。しかし、「組織内には原則として上下の関係しかなく、基本的には党員同士の横のつながりは禁止されている。党中央委員は党大会で選出されるが、あらかじめ中央委員会が推薦した候補者名簿に対する一種の信任投票に過ぎず、落選者はおらず到底選挙とは言えない。また、他の政党のように党員が党代表を直接選挙で選ぶという制度は採用されていない。党内に真の選挙は存在しない。」(筆坂秀世著「日本共産党」38頁、84頁以下参照)と言われている。
これが事実であるとすれば、共産党は「上意下達」の組織であり、「党内民主主義」に疑問がある。横のつながりの禁止は党中央批判や分派活動を防止するためであろう。さらに、党代表が党員の直接選挙で選ばれないうえに、党代表の任期や党代表選出の方法・過程に透明性が見られない。党内での党代表や党中央に対する批判の自由についても疑問がある。「民主集中制」については、「個人は組織に、下級は上級に無条件で従うということで、いわば軍隊のようなものである。司令部たる党中央が全軍(全国の党組織)を意のままに操れる」(立花隆著「日本共産党の研究」上巻22頁)、「民主集中制は、その本質は独裁制である」(同書25頁参照)との批判がある。
日本共産党は全体主義政党か?
(1)以上の通り、日本共産党が、共産主義イデオロギーであるマルクス・レーニン主義(「科学的社会主義」)を理論的基礎とし、プロレタリアート独裁を容認する限り、その実態は共産党一党独裁であり、反対政党の存在や個人の政府批判は認められないから、前記ブリタニカの定義によれば、理論上、日本共産党に対し「全体主義政党」との批判は可能と言えよう。
(2)また、日本共産党は、「民主集中制」を組織原則とするが、その実態が「上意下達」であり、党内で党代表や党中央に対する批判が組織的に許されないとすれば、「党内民主主義」に疑問があるから、前記ブリタニカの定義によれば、党組織上、日本共産党に対し「全体主義政党」との批判は可能と言えよう。
(3)さらに重要なことは、日本共産党が将来政権を獲得した場合に、実際に共産党政権を批判する政党や個人の存在を全面的に認めるかどうかであり、このことは現在の日本共産党の党組織及び党運営のあり方と直結しており、決して無関係ではないのである。