文政権の正統性にも疑問符を打つドルイドキング事件

高橋 克己

表題に「正統性にも」と「も」を付したのは、青瓦台のみならず少なからぬ韓国民も自国の成立過程に確信を持てず、国家としての正統性に関して北朝鮮に負い目を感じている節があるからだ。が、それは後述するとして、先ずは、なぜ政権の正統性に疑問符が付くかについて述べる。

文在寅大統領 韓国大統領府FBより

韓国大法院は21日、慶尚南道知事の金慶洙(金知事)に対する懲役2年の原審判決を確定させた。罪状は「ドルイドキング事件」と称されるインターネットによる世論操作事件に共犯したというもの。ドルイドキングは主犯キム・ドンウォン(キム)のハンドルネームだ。

この事件がなぜ文政権の正統性を揺るがすかといえば、一つは文と同じく廬武鉉元大統領の側近だった金知事が、廬の死後は文の腹心として大統領当選に尽力し、文政権最重要の実力者であったこと。他は金知事とキムが共謀した世論操作が、文大統領誕生の大きな原動力となった疑いが濃いことによる。

金慶洙・慶尚南道知事 KBSより

事件の発端を18年4月17日のハンギョレは、「文大統領の側近である共に民主党(民主党)のキム・ギョンス議員(金知事)の『インターネット世論操作事件』関与疑惑が政局の争点に浮上した」と報じている(同紙日本語版は韓国名をカナ表記するが本稿では漢字表記とし、またドルイドキングをドゥルキングとしているのも前者に統一した)。

記事は、ネイバーなどのネットサイトで集中的に文政権を批判する書き込みをし、コメント推薦数を操作した容疑で18年1月に拘束されたK氏(この頃キムはまだ匿名)ら3名が、実は民主党員であり、しかも金議員(後に知事に当選)と接触があることが明らかになったとの内容だ。

少し判り難いが、大統領に当選する17年5月まではひたすら文在寅を持ち上げていたドルイドキングが、大統領選でのその世論操作を糊塗するため、18年1月から一転して政権批判に走った方の事件が先に明るみに出たという訳だ。キムは警察に「(政権批判を)保守勢力がしたものと見せかけるためコメントを操作した」と語ったという。

この頃のハンギョレは、「K氏と金議員が数百件のメッセージを交わしたという一部マスコミ報道で金議員の関与疑惑に飛び火した」と報じつつも、金議員の「予備選挙の前に文候補を手伝いたいと連絡が来たので会った。その前には一面識もなかった」などという話を信じていたようだ。

なぜなら、「(予備選当時の文に好意的なメッセージは、K氏が)一方的に送ってきた。私は儀礼的に感謝を送ったことがある」などという金議員の反論を挙げて、「むしろ金議員の主張どおり、人事請託が拒否されると(K氏が)自分の影響力を誇示し相手を圧迫しようとした意図である可能性が大きい」と文シンパらしく報じているからだ。

先に触れておくと、この「人事請託」とは、後に起訴の罪状の一つとなった、文当選の暁にK氏と懇意のD弁護士を仙台の総領事に据えるというK氏の請託を指す。が、今回大法院は、こちらの金知事の公職選挙法違反容疑は無罪としている。

さて、この4月の記事が出て2ヵ月後の6月、文政権初の統一地方選挙が行われ民主党は圧勝、広域自治体17のうち14首長を取り、金知事もその一人となる。が、2ヵ月経った8月、金知事はホ・イクボム特別検察官に起訴される。序にこの14首長には、セクハラで辞めた釜山市長と大統領選介入で公判中の蔚山市長もいる(市長が自殺した首都ソウルは別)。

検察は、金知事が16年11月にキムら9人の京畿道坡州の根拠地を訪れて、マクロプログラムの試演を直接見たことを確認、彼らのコメント操作を知りながら1年4ヵ月にわたり報告を受けるなどドルイドキング一党と共謀し、大統領選でのコメント操作行為の一部に直接加担していたと見做した。

つまり裁判所は、金知事はキムのグループと共謀し、16年12月から18年1月までネイバーなどポータルサイトの記事6万8千本のコメント68万余件に「共感」や「非共感」のクリックを41万回余り行い、文に有利な書き込み118万8千件が上段に並ぶよう「世論操作」をしたと認定し、これを「業務妨害」と判断した。

筆者は先般の投稿「事大主義に染まる大人を鏡に子供が育つ韓国社会の怖さ」で、文在寅が周りに配している「運動圏」には犯罪者が多いと書いた。20年1月30日のハンギョレと本年5月11日の中央日報に、横綱チョ・ググ以外にもウンザリするほど載っているので、一度お確かめ願いたい。

そもそも筆者は文政権を、教科書国定化、拉致被害者との面会、慰安婦合意などにより行き過ぎた反日の是正に動いた無実の朴槿恵を、セウォル号事件に託けて引き摺り下ろした左派革命政権と見ている。朴と崔順実の「経済共同体」なる罪状も言掛りだ(拙稿「朴になら良いが曺には駄目?呆れる文大統領の対検察二重基準」)。その意味でも文政権の正統性は怪しい。

最後に韓国の正統性についてだが、詳細は拙稿「朝鮮半島分断小史①~⑤」をご参照いただくとして、結論を申せば、韓国の独立は「自ら戦って獲得した独立ではなく、他人様から与えられた独立だった」ということに尽きよう。

とはいえ、南が負い目を感じる北にしたところで、金日成の抗日といっても、45年9月までの約4年半をハバロフスク近郊のソ連極東軍の88特別旅団で、ほぼ訓練を受けていたに過ぎない。長男の正日はこの地で金貞淑との間に42年2月に生まれたので、実は白頭山とは何の縁もゆかりもない。

ソ連が、北の革命家や独立運動家の中から金日成を選んだ理由には、スターリンによるコミンテルンと連携していた朝鮮人の大量粛清、30年代~40年代のソ朝の共産党の断絶、朴憲永のソウルでの朝鮮共産党設立と主要人物だった玄駿爀の暗殺などが挙げられる。つまり、他に人がいなかったのだ。

結局、南北に米ソの軍政が敷かれたが、拙稿で触れたように、決して彼らに自主的な政権樹立の機会がなかった訳ではない。が、敵対者の暗殺を含めた権力闘争に明け暮れ、自らその機会を失したのだ。まして二世代も前のことを未だに拘るなら、それこそ「自慰行為」ではなかろうか。